第118話 隣の芝は青い

「シア、あれでよかったのか?別に無理してパーティに入れなくても良かったんだぞ?」


 次の日、いつもの朝の恐怖の時間を過ごした後、教室でシアと昨日の天音をパーティに入れた件を改めて話す。


 もう決まったことだから変えられないけど、気になったからだ。


「ん。大丈夫。実地講習で組むだけ。探索者のパーティに入れない」

「ンギギギギギギギギギッ」


 隣で血走った眼をしているアキは無視だ無視。


「ああ、なるほどな」


 何やら含みがある言い方をしていたけど、そう言うことか。


 シアさんや、それは滅茶苦茶極悪ではないですか?

 だってつまり天音だけ経験値共有の恩恵を受けられないってことでしょ?

 かなりひどいいじめだと思います。


「流石に実地講習ではちゃんとパーティ組んでやろうな?」

「ん。仕方ない」


 それは看過できないので注意したら、シアは少し残念そうな声色で答えた。


 本気でやるつもりだったのか……。

 丸くなったと思ったのは気のせいだったみたいだ。


「ンギギギギギギギギギッ」

「アキ、お前はそろそろ機嫌直せよ」


 俺とシア―主に俺だけど―を朝から歯ぎしりをしながらずっと睨みつけているアキ。昨日の天音が俺のパーティに入るという件があったせいで、俺に対する嫉妬心を溜め込んでいた。


「うるせぇ!!なんで!!なんでお前ばっかり!!可愛い女の子と仲良くなるんだ!!」


 アキの周囲で他の男達が頷いているのが見えた。


 お前らは人の話を盗み聞きしてないで自分の事をしてなさい!!


「全く誤解も甚だしいな。シアとはそういう仲じゃないって言ってるだろ?な?」

「ん。唯のななみん公認の仲」


 シアに確認すると誇らしそうに自然と答える。


 だからさも当然のように煽るような事を言わないでくれ!!


「どう見ても妹公認の恋人ってことじゃねぇか!!」

「だから違うっての。妹が俺の女避けをシアに頼んでんだよ。俺に彼女なんてできるわけないのにな」


 シアが肯定するので当然のように吠えるアキ。そして同調する傍聴者達。俺はため息を吐きながら必死に弁明を述べる。


「けっ。お前はモテモテじゃねぇか!!」

「何言ってんだよ……。生徒会長は一方的に話しかけてくるだけだし、天音とは会ったばかり。そういうんじゃないだろ」


 俺だって好きで囲まれてるわけじゃないんだよ……。


 弱みを握られ、年月と共に後ろめたさを蓄積していくクラスメイト。待ち伏せしてるくせに運命の出会いと言い張る不気味な生徒会長。理由は分からないけど、何かの目的のために俺に近づく同期の探索者。


 俺の近くにいるのはこういう何か訳アリの人物ばかり。


「はっ、贅沢な悩みを言いやがって。健全な男子高校生なら美少女とお近づきに慣れるだけで嬉しいだろうよ!!」

「お前、俺の気も知らないで……」


 美少女だったら誰でもいいって話じゃないだろ!!

 変わってやれるなら変わってやりたいよ。

 シアとはだいぶ慣れたから良いけど、他の二人は全く気が休まらないんだぞ!!


「お前!!俺はよぉ!!ハーレムを作りたいって言ってんのに、男ばっかりのパーティだし、仲のいい先輩も男ばっかだしよぉ。妹も姉もいないし。可愛い幼馴染もいないんだぞぉ!!この辛さがお前に分かるのかぁ!!」


 アキは滝のように涙を流して俺に訴える。周りのやつも一緒に泣いていた。


 お前ら関係ないじゃないか!!

 それに、アキお前最後の方全然関係なくないか?

 そもそもハーレムとか言ってるから女の子達が皆引いてるんだよ!!

 そこをまず直せや!!


「はいはい、どうせ俺には分かりませんよ〜」


 俺は全ての気持ちを飲み込んで呆れるように不貞腐れた。


 どうせ何を言ってもこいつは聞く耳を持たないからな。


「はぁ……俺に話しかけてくれる女の子なんていないんだ」

「アキ、ヨシヨシ」

「うっ。美少女から撫でられるのは嬉しいけど、彼氏持ちの女の子のナデナデは心にくるなぁ……」


 アキは落ち込んで俺の机につっ伏して涙を流した。


 そんなアキの頭を珍しく無表情でシアが撫でる。

 なんだか悪いことをしてしまったと責任を感じているのかもしれない。


 その優しさを受けて、アキはさらに机を涙で濡らす。


「アキのやつ、アレクシアちゃんに撫でられるなんて羨ましい!!」

「そうだそうだ、仲間だと思っていたが、アイツもどうやら裏切り者だったらしい」

「くっ。許せん。SSSの皆と相談せねば……」


 先ほどまで味方だったはずの周囲の男たちが、今度はアキにヘイトを溜める。


 お前らの繋がり軽いな?

 別にそんなこと俺にはどうでもいいけどさ。


「それよりもアキ。おれの机ちゃんと拭けよな?」


 俺はアキの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった机を見てそう言い放つ。


「お前は鬼か!?」

「知らん!!」


 その鼻水と涙に濡れた顔をガバリと上げて叫ぶアキを、俺はバッサリと切って捨てた。

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