第117話 ヘイトは高まる、どこまでも!!
俺を値踏みするような顔つきになる霜月さん。
一体何だろうか。顔に何かついてるとか?
ま、まさか!?鼻毛が出ているとか!?
俺は思わず自分の鼻毛を鏡で確認したい衝動に駆られた。
「ん」
しかし、何やらもう聞きなれた声が聞こえたと思えば、俺は後ろから持ち上げられて席を左隣に移動させられ、俺が元居た席にはシアが座った。
「え、なにこの子」
「近づく。だめ」
いきなり現れたシアに困惑する霜月さんに、シアは前を向いたまま答える。アホ毛が犬の口みたいになってガウガウと霜月さんを威嚇していた。
いや、妹の約束を守ってくれるのは嬉しいんだけど、大分一方的過ぎませんか?シアさん。
「ははーん。嫉妬かなぁ?このこのぉ」
霜月さんはすぐにニヤリと顔を歪めてシアの頬を指で突っついてからかっている。
それにその質問はシアには無意味だよ。
俺にそういう感情があるわけじゃないからな。
「頼まれてる」
「へぇ、嫉妬じゃないって?」
「ん」
特に変化を見せないシアに霜月さんは飽きたのか、つっつくを止めて面白そうな表情を浮かべた。
俺には分からないけど、シアの表情から何かを読み取ったようだ。
「私は霜月天音。あなたは?」
「葛城アレクシア」
霜月さんは不敵な笑みを浮かべたままシアに名前を尋ね、シアは名前だけ答えた。
「ああ、あなたがあの天才様ね。かなり顔つきが違うから分からなかったわ」
「天才じゃない」
霜月さんが思い出したしたように呟くと、シアは首を振った。
シアは十分天才だと思うんだけどな?
その上努力もしてるし最強でしょ。
「ふーん、まぁいいけど、これからよろしくね」
「ん」
霜月さんはシアの敵意も無視してシアの手を取って勝手に握手をする。シアは特になんの感情も見せずになすがままにされていた。
アホ毛の威嚇が激しくなっているけどな。
「普人君も」
「あ、ああ。よろしく」
唐突に肉食獣のような表情で俺を見る霜月さんに、俺はタジタジとしながら頷いた。
「ほらほら、お前ら話してないで前を見ろ。説明を始めるぞ」
「あ、すみません」
「ん」
「私としたことが!!うっかりしてました。ごめんなさい」
今が実地講習のオリエンテーリングの最中だということをすっかり忘れていた俺達は、早乙女先輩に注意されてしまった。流石の先輩も呆れ顔だ。
俺たちはすぐに頭を下げて謝罪した。
その後、早乙女先輩からの説明を受けて晴れて解散となった。
簡単に言うと、勉強会で習ったことを実際にやってみるのが実地講習ということだ。シアには課題が与えられ、それをクリアする必要がある。俺はそれをサポートする形だ。
実地講習は週に二回。毎週火曜日と木曜日に行われる。
金曜日じゃなくてよかった!!
ダンジョンキャンプの時間が減るところだからね。
もちろん泊まりがけの講習がある場合は、金曜日に振り替えになるけど。そんなにあるものでも無さそうだし、今は考えなくて良さそうだ。
「あの~、すみません。私パーティ決まってないんですけど?」
しかし、そんな解散の雰囲気を壊すように霜月さんが手を挙げる。
え?どういうこと?
結構前にパーティ決めがあったと思ったんだけど。
「あ、ああ。お前はずっと休んでいたか。パーティか……えっと」
「希望を言っていいなら普人君のパーティに入りたいです!!」
霜月さんの事情を察した早乙女先輩が名簿を見て彼女が入れそうなパーティを探し始めると同時に、彼女は手を挙げて俺を指名した。
その瞬間、なぜか男達からの殺意の視線が増したように感じた。
気のせいだと思いたい。
「えっと彼らは特殊な事情があって葛城と佐藤の二人でパーティを組んでいる。そのパーティの主導権は葛城が持っているので、どうしても入りたいのであれば、葛城の許可を獲れ」
「え、そうなんだ!?」
シアがパーティの権利を持っていることに驚く。
「ねぇ~、葛城さん、お願ーい!!」
シアの前で手を合わせて頭を下げる霜月さん。
「ん……」
シアは困惑して俺の方を見る。
いや、俺の方を見られても……リーダーは君ですよ、シアさん。
しかし、俺とパーティを組む前のシアだったら、素っ気なく断っていたと思う。それが今では相手の気持ちを考えて断りにくそうにしているのは、何かがきっかけで心に余裕ができたからなのだろうか。
事情は知らないけど、その心配事をいつかはどうにかしてあげたいと思う。
「シアの思う通りにすればいいよ」
俺はシアに本当に自分の気持ちに従ってもらえるように促す。
「ん。仕方ない。実地講習のパーティには入れてあげる」
「あ、ありがとぉおおおお!!」
「鬱陶しい」
シアがなんだか含みのある言い方で許可を出した。
感極まった霜月さんはシアに抱き着いてその顔に頬ずりをしながら喜びを表していたけど、シアはとても嫌そうな表情を浮かべている。
「普人君もこれからよろしくね」
「あ、ああ、霜月さんよろしく。まぁ俺はシアのサポートだから。そんなにすることないけどな」
シアから離れた霜月さんは俺に近寄り、手を取って胸に抱くようにして俺の手を握る。
俺の手がその豊満な柔らかな丘にちょっと埋もれそうになるので止めてほしい。皆の殺意ゲージが増しているのをひしひしと感じるからな。
「あ、霜月さんだなんて他人行儀な呼び方は止めてよね?天音って呼んで?」
「わ、分かったよ、天音」
思い出したかのように言い出す霜月さんに、俺は狼狽えながら下の名前を呼んだ。
「オッケー!!」
ウインクして花開いたように笑う彼女。
シアとはまた違った形でぐいぐい来る天音の勢いに押されて俺は下の名前を呼ぶことになってしまった。
「ん。イチャイチャ禁止」
そんな俺たちを引き剝がすシア。アホ毛がバツの文字を作っている。
「えぇ~、ちょっとしたスキンシップじゃん」
「駄目。ななみんの指示は絶対」
天音が頬を膨らませて不機嫌そうな顔をするけど、シアには聞かずに問答無用で俺の前に立って腕でもバッテンを作っている。
「ななみんって?」
「ふー君の妹」
「ふーん。公認の仲なんだ?」
「ん」
「いいなぁ」
俺にしかわからないくらいのドヤ顔で自慢をするシアと、なぜか今日初対面なのに羨ましそうにする天音。
だから公認の仲って表現止めてくれよ。
公認なのはあくまで友人というポジションの話なんだよ。
そういう仲じゃないの!!
皆からのヘイトがどんどん高まっていくからホント勘弁してくれ!!
アキが目から血を流してこっちを見ている。その目は狂気に染まっていた。
「はいはい、くっちゃべってないで、今日はお前ら解散だ!!」
その言葉を聞いた瞬間俺は、
「それじゃあ、また明日な!!」
そう言ってその場から逃げ出した。
『普人ぉおおおおおおおおおお!!』
後ろから物凄い声が聞こえたが、俺はそそくさとその場から離れた。
それにしても天音のやつ、絶対何か企んでるな。
そうじゃなきゃ俺みたいな底辺探索者のパーティに入ろうとするわけがない。
もしかしたら会長あたりから俺の秘密かラックの能力を悟られたのかもしれない。
これは気を引き締めないといけないな。
俺は決意を新たに寮の部屋へと戻るのであった。
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