第116話 新たなる出会い

「実地講習の説明」

「俺も参加しないといけない感じか?」

「ん」


 久しぶりの学校の授業を終えた後、シアが俺をダンジョン探索部に誘う。


 そういえばアキが、ゴールデンウィーク明けたら実地講習が始まるって言ってたな。はぁ……できれば参加したくなかったんだけどなぁ。


 他の探索者達と関わることになれば、Dランクのモンスターを倒せるようになったとは言え、すぐに追い抜かれてしまう様子をまざまざと見せられるからな。 

 

 辛い。


 しかし約束してしまったからにはきちんと守るつもりだ。


「そっか。なら一緒に行くか」

「ん」


 俺とシアはまず教室の外を確認して気配察知を行い、生徒会長の居る場所を確認して絶対に出会わないように探索部専用棟へと向かう。途中でこちらに追いつこうという気配を感じたけど、俺とシアはそそくさと移動した。


「お!!お前たちも探索棟へ行く途中か?」


 俺達に声を掛けてきたのは早乙女先輩。つまり俺達がこれから向かうダンジョン探索部の部長だ。


 進む方向的にどうやら先輩もダンジョン探索部の専用棟に向かっているらしい。


「こんにちは。そう言うってことは先輩もですか?」

「ああ。明日から一年生のダンジョンの実地講習が始まるだろ?あれの説明をやらなくちゃならないからな」


 早乙女先輩は俺の質問に少し面倒そうな表情で答える。


 役員ともなると様々な行事で果たさなければならない役割があるだろうから大変そうだ。


「なるほど。部長の義務ってわけですか」

「そうだな」


 俺たちは話している内に探索棟へと辿り着いた。


「それじゃあ、俺は準備があるから先に行ってるな?」

「分かりました」


 早乙女先輩は先に奥に向かい、俺とシアは受付で手続きをして、指定された部屋に進む。


「ここか?」

「ん」


 シアはいつも来ているからか慣れているらしい。


 俺の質問に間髪入れずに頷いた。


 扉は押せば開くタイプの自動ドアだったので、俺は備え付けられたボタンを押すと、扉はスーッと音もなく開く。


 中は造りの新しい教室のようで、先頭から順に席が埋まっていた。ただし、もう自分たちが最後の方らしく、残っているのは最後尾の列の席だけだった。


 集まっている連中の中にはアキや同じクラスメイト、そして同期の寮生などの顔見知りと、見たことのないメンバーも居る。


 見たことがないメンバーはおそらく俺たち以外のクラスの探索者だ。


「あら、葛城さんと、えっと……」


 入ってすぐに、そばに立っていた眼鏡をかけた女性の先輩がアレクシアに気付いたんだけど、初めて遭遇する俺を見て言葉に詰まる。


「佐藤普人です」


 俺は助け舟を出すように自分からそう名乗り出た。


「あぁ~、話は聞いています。今日から実地講習に参加ですね?」 


 俺が述べた名前に眼鏡の先輩は思い当たったらしく、手を叩いてスッキリしたような表情になる。


 早乙女先輩辺りからおそらく伝わっていたんだろう。


「はい、そうです」

「それでは葛城さんと一緒に詰めてお座りください」

「分かりました」


 自然と話が進んで俺達はすぐ近くの列の奥から二つの席に腰を下ろした。


「さっきの人は?」


 俺は左隣に座るシアに耳打ちして先程の眼鏡先輩の素性を尋ねる。


「副部長、如月沙也加」

「如月先輩ね」

「ん」


 俺の質問にいつも通り端的に答えてくれたシア。


 なるほど、あの人が副部長なのか。


 俺は喉に引っかかった魚の骨が取れたようなスッキリした気分になった。


 俺達が着て数分後、部屋の奥にある扉が開き、奥から早乙女先輩他、数名のダンジョン探索部の先輩らしき人物が教室の中に入ってくる。


 早乙女先輩が教壇ような置物の前に立ち、他の先輩が両脇に並ぶ。如月先輩が遅れて早乙女先輩の横に立った。


「あ~、あ~、マイクテス、マイクテス。皆揃ってるか?」


 早乙女先輩はマイクの確認をした後に、マイクから口を離して如月に問いかける。


「今来られる人は全員来ていると思います」


 如月は名簿リストをめくりながら確認するが、ここに居なさそうな人間は、自分達を除いていないらしい。


「そうか、それではこれより実地講習の」


―バンッ


「ふぅ。間に合ったようね!!」


 如月先輩の返事を聞いた早乙女先輩が実地講習の説明をしようとした瞬間、扉が奥に思いきりぶつかる音と共に、女の子の声が木霊する。


 俺はふとそちらを見ると、そこには黒髪のロングヘアーをポニーテールにまとめた女の子が立っていた。強い意志を感じさせる黄土色の瞳をもつ美少女。その整った目鼻立ちは男の注目を集めるには十分なほど美しい。


「えっと、あなたは?」


 如月会長は眼鏡を直しながら問いかける。


「私は霜月天音です。ようやく今日から来れるようになりました!!」


 ニッと不敵に笑うその姿は戦う者の雰囲気を醸し出している。


「霜月霜月……あ、あったわ!!」


 如月先輩は名簿リストとしばし睨めっこをしていると、どうやら見つけたようだ。


「あぁ、あなたがそうだったんですね。それでは空いている席に座ってください。ちょうど説明が始まるところです」

「分かりました!!」


 如月先輩が席に座るように促すと、彼女は俺の右隣りに座った。


「私は霜月天音。よろしくね」


 彼女は俺の隣に座るなり、俺に笑いかける。


 かなりの美少女なので普通だったら面食らうところだけど、俺はシアに会っているからな。そんじょそこらの相手では動揺したりしない。


「ああ、俺は佐藤普人。よろしく」

「へぇ……君が……」


 俺が自己紹介した途端、彼女は目を細め俺を値踏みするように見つめた。

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