第115話 修羅場(妹公認の女vs妄想現実女)

「おはようございます。佐藤君、佐倉君、今日も偶然同じ時間のようですね」


 俺とアキが外に出ると、当たり前のように立っている生徒会長。


 もうホントなんなの!?

 偶然じゃないよね?

 俺達が出る前からそこで待ってたよね?


「おはようございます」

「いや~、今日も生徒会長はお美しいですね!!」

「あらあら佐倉君は朝からお上手ですね?」

「いえいえ、本心ですから!!」


 目の前でいつものようにアキと生徒会長の寸劇が始まる。


 しかし、そこに新たな登場人物が現れた。


「おはよ」


 シアだった。


 今日も眠そうな眼とアホ毛を揺らしている。今まで一緒に登校―といっても敷地内なのでそこまで遠くない―はしたことがないのに珍しく声を掛けてきた。それに、生徒会長に何やら警戒心をもっているように感じた。


 何かあったんだろうか?


「おはよう。どうかしたのか?」

「ななみんに頼まれた」


 彼女に声を掛けたら、取り出した携帯電話を少し操作して俺の顔の前に突き出す。


 見ろってことか?


 俺の視線にシアは頷く。


『お兄ちゃんに悪い女が付かないように守ってね、お姉ちゃん!!あ、でもお姉ちゃんもイチャイチャしちゃダメなんだからね!!』


 携帯はトークアプリ『LINNE』の画面が表示されており、七海からの文章が表示されていた。


 いつの間にやら『LINNE』の友達になっていたらしい。

 それにしても七海は心配のしすぎだろ。

 シアとはともかくとして、生徒会長は絶対にない。ないったらない。

 だって怖すぎるし、信用できなさすぎるもん。


 とりあえず妹の文章を見てなんでここにシアが居るのかは理解できた。


 だから生徒会長に警戒心をもっていたのか。

 俺に不用意に近づいている女だから。


「シア、生徒会長とはそんなことにはならんから安心しろ」

「そうなの?」

「そうだぞ。だからそんなに警戒しなくても大丈夫だ」


 俺はシアの耳元でこそこそと囁く。


「あらあら、仲がよろしいのですね?」

「ひぇ!?」


 そんな俺たちを見つめる生徒会長の笑みが一層深くなる。しかし確かに笑っているはずなのに目だけが一切笑っていなくて恐怖が倍増して思わず、悲鳴が漏れる。


「ん。パーティの仲間。当然」


 シアがそんな生徒会長に恐れることなく、ほんのりドヤ顔で答えた。


 俺以外には伝わらないと思ったのか、言葉の中に理由も入れている。

 両者の視線の間には激しい火花が散っているのが見えるようだ。


「あらあら、でも……私と佐藤君もそれはそれは仲がいいんですよ?」

「そうなの?」


 俺の顔を見てくるシアに俺は首をブンブンと横に振る。


 生徒会長は一体何を行ってらっしゃるんでしょうか?

 こっちは恐怖しかないというのに。


「ふー君はそうは思ってないみたい」

「あらあら、佐藤君、そんなことツレないことを言わないでください。毎日あんなに運命的な出会いをしてるじゃないですか」


 首を傾げて生徒会長に問いかけるシアに、なぜか恍惚の表情を浮かべてながら反論してくる生徒会長。


 一体生徒会長はどういう風な理解をしているんだろうか?

 出会ってるんじゃなくて、ずっと俺を待ち伏せしているんだろうに。

 認識が生徒会長の都合のいいように改変されているのに恐怖を感じる。


「生徒会長、行く先で偶々会ったくらいで運命的な出会いとはいいませんよ?」

「何をおっしゃるのかしら。偶然とは言え、ゴールデンウィーク前は毎日お会いしてはお昼をご一緒したじゃないですか」

「そうだぞ?俺たちは生徒会長とお昼ご飯を毎日偶然一緒に食べていた」


 俺の反論に生徒会長がさらに反論し、なぜかアキが腕を組んで、生徒会長の言葉を支持するようなことをウンウンと頷きながら呟く。


「どうです?私と佐藤君は仲が良いでしょう?」

「関係ない。私はふーくんの妹公認」


 生徒会長が勝ち誇るようにドヤ顔を決めるんだけど、シアは静かに首を振る。


 いやいやシアさんや?

 いつの間に俺とあなたはシア公認の仲になったんですか?

 初耳なんですけど?

 多分妹公認の友達、と言いたいんだろうけど、それじゃあ完全に誤解される言い回しでしょ。


「へぇ、佐藤君の妹さんに取り入ったんですか。なんと卑怯な」


 より一層その狂気じみた笑みを深める生徒会長。


 何が卑怯なのか全然分かりません!!

 シアはただ妹と仲良くなっただけです!!

 もう誰か助けて!!


―キーンコーンカーンコーン……


 俺の願いが通じたのか、学校のチャイムがなる。


「あ、ヤバい!!学校に遅れるので俺はもう行きますね!!シア、アキ、行くぞ」

「ん」

「あ、何すんだよ普人!!生徒会長、朝からお会いできて嬉しかったです!!それではまた!!」


 俺はチャイムが鳴った隙に二人の腕を取り、学校へと駆け出す。


 シアは即座に反応し、アキは突然のことに狼狽しながらも、生徒会長に相変わらず気障ったらしく挨拶をして一緒に学校まで走り、俺達はなんとかホームルームに間に合うのであった。


「全く朝からひどい目にあった……」


 俺はこれからの学校生活に更なる不安を覚えることとなった。

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