第四章 新たなる刺客と世界の変貌

第114話 俺の知らない所で外堀が埋まっている?

「うぃーっす」

「おはよう」


 休み明けの朝。


「ゴールデンウィークどうだった?」


 朝食で一緒になったアキが何気なく俺に尋ねてくる。


「色々あって疲れたよ」

「はぁ……やっぱりな。一線を越えたとか羨ましすぎる!!」

「越えたねぇよ!!」


 俺が疲れた表情をしていると、何を勘違いをしたのかアキが意味不明なことを言うので思わず立ち上がって反論してしまった。


 結構大きな声になってしまったので周りの視線が痛い。


「だからシアとはそういう関係じゃないって言ってるだろ?」

「どの口が言うんだよ……」


 俺は冷や汗をかきながら席について小声になると、呆れたようにアキが呟く。


「なんだ?何かあるのか?」

「お前噂になってるぞ?」

「なんだって?」


 アキの態度に疑問に思って尋ねると彼は端的に答えた。俺はその言葉が理解できなくて聞き返す。


「あのな、お前も分かっていると思うけど、アレクシアちゃんは物凄く目立つ。彼女に変化があればすぐに分かる。彼女は少し前までどこに出かけるにも制服か武装していた。それが昨日お前の実家から帰ってきた時は、見たこともない私服を着ていて、楽しそうに並んで歩いてたってな。外から見りゃあ付き合ってるようにしか見えないだろ」

「はっ?」


 アキの話を聞いて俺は間抜けな声が漏れる。


 シアが目立つのは分かる。だけど俺は高校デビューにさえ失敗した只のモブ。それどころか熟練度以外ない探索者の落ちこぼれだ。そんな俺がシアと噂になるなんて意味不明だ。釣り合わないにもほどがあるだろう。


「いやいやいや、俺とシアが付き合ってるなんてホントあり得ないからな?」

「でもよう、アレクシアちゃんが、愛称を呼ばせるのはお前だけだし、一緒に出掛けるのもお前だけし、学校で話すのもお前くらいだし、アレクシアちゃんが仲良くしてるのはお前だけなんだよ」


 確かにシアが勉強会の時以外は確かに一緒にいる。


 外から見たらそういう風に見えても仕方がないのかもしれない。流石にそんな噂はシアも不快だろうし、俺と一緒にいると碌でもない噂がたつぞとと言ってやるか。そしたら、シアも納得してパーティ解消するのではないだろうか。


 美少女と一緒にいられなくなるのは健全な男子高校生として悲しいことではあるけど、それ以上にシアの名誉や役立っているかどうかの方が大事だと思う。


 そろそろ俺もお役御免だろうしなぁ。


「ないない。とにかく俺とシアはそんな関係じゃないことははっきりしている。第一シアと俺じゃ釣り合いはとれないだろ」

「そんなことないと思うぞ?少なくとも俺はお前とアレクシアちゃんはお似合いだと思ってる」

「はぁ!?何言ってるんだよ、そんなことあるわけないだろ?」


 再び意味不明な事を呟くアキ。

 俺とシアがお似合いだなんてそんなわけがない。


 俺は強く反論する。


「お前なんだかんだ面倒見がいいからな。アレクシアちゃんみたいに少しポヤポヤしたタイプには、お前みたいな世話焼きな奴が合ってんだよ。アレクシアちゃんもお前には気を許してるしな」

「お前とも普通に話すじゃないか……」


 アキの言葉は確かに思い当たる節があってついついアレクシアの世話をしまう自分のことを思い出す。


 しかし、何も反論できないのは悔しいので、思いついた精一杯の言葉で返答した。


「あれは俺が話しかけるからというのと、お前の友達だからってのが大きいんだよ。実際アレクシアちゃんから誰かに話しかけるのを見たことがあるか?」

「……ない」


 しかし、反論のつもりが、ぐうの音も出ないブーメランとなって返ってきた。


 完全に藪蛇だった。


 確かにアレクシアは寮の同期やアキと話しているのを見かけたことがあるけど、どれも起点は相手側にあった場合がすべてだ。シアが自分以外の誰かに能動的に話しかけている姿を見たことは一度もない。


 しかし、自分がいないところで話している可能性もある。


「ダンジョン探索部の勉強会で話したりとか……」

「ねぇよ。寮の同期達と一緒に講義を受けてるけど、話すのはいつも相手からだ」


 まじか……。


 それほどまでに内向的なシアと俺は仲良くしている。確かに客観的に見れば、付き合っているように見えてもおかしくない。


 確かにあんな美少女と付き合えればうれしい事この上ないことだ。


 でもあくまで俺とシアのつながりは雇用主と被雇用者。

 ただそれだけなんだよな。


「とある事情によってパーティを組んでいる関係だから仲が良いだけだ。それ以上でもそれ以下でもないさ」

「はぁ……お前がそう言うならそうなんだろうけど、周りはそう思ってはいないということを覚えておけよ?」

「分かった」


 俺の答えに呆れながらも真面目な顔で忠告するアキ。


 そのあまりにも神妙な表情に俺は深く頷いた。

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