第107話 過大すぎる報酬に困惑

「あははははっ。面白ーい!!」

「ん」


 俺たちは今ESJでアトラクションを全力で楽しんでいた。というのも、これは昨日依頼が終わった後、報酬を貰いに行った事が関係している。


■■■■■


 俺たちは依頼が終わった後、すぐに対応してくれた職員がいる場所に向かい、程なくして職員を見つけた。辺りの小さな瓦礫の片づけを始めている。


「あの~、すみません」

「あら?どうかされましたか?救援をお願いしていたかと思いますが?」


 対応してくれた職員に話しかける俺に、職員は不思議そうな声で尋ねる。


「ああ、もう終わりました」

「え!?ちょ、ちょっとお待ちください!!」


 俺の答えに職員は焦ったような声を出して驚くと、すぐに何処かに電話をし始めた。


「あ~、もしもし、そちらはどうですか?あ、そうですか、わかりました」

「あ、もしもし、えっと、はい、はい、そうです。ほとんどお二方で倒してくださいまして。被害はかなり軽微かと思います。はい。わかりました。そのように対応いたします」


 電話の向こうの何人かと何やらやり取りをした後、職員が俺達の方を向き直った。


「えっと、報酬は別途お支払いいたしますが、それとは別に本日多大なご迷惑をかけてしまった事、それからスタンピードの終息に多大な貢献をしていただいた事を鑑みまして、あなた方を含め六名までESJの永世VIP会員とさせていただきます。この会員はESJ関連施設を全て無料でご利用いただけます。また、本来明日は片づけ等で営業していないのですが、もしお越しいただけるのなら特別に運営させていただきます。いかがでしょうか?このままESJのオフィシャルホテルにお泊り頂いて、そちらからお越しいただいても構いません。もちろんホテル代はこちら持ちとなります」

「はっ?ちょ、ちょちょちょちょっと待ってもらっていいですか!?」

「ええ、もちろんです」


 それで職員が提示された報酬のデカさに驚いた俺は、七海とシアを連れて少し離れた場所に移動して輪になってしゃがみこんだ。


「おい、あの報酬はどういうことだ?」

「やばいよね!!永世無料会員?ってずっと無料ってことでしょ?」

「ん」


 俺が二人に尋ねると、七海が小声なのに興奮しているような声色で驚き、シアがそれに同意する。


 俺としては何でもするという言質をとったので、次回一日自由に遊べるフリーパス券みたいなのをもらう予定だったんだけど、なんだか予想以上の報酬を提示されて困惑しかない。


「だよな?俺達ってそんなに大したことしてないぞ?」

「何したの?」

「あのダンジョンに出てくるくらいのモンスターを殲滅したくらいだ」

「えぇ~!?それだけであの報酬なの?」

「ああ」


 俺たちはコソコソ声で器用に驚いたりしながら、提示された報酬に関してお互いに話し合う。


 流石に雑魚モンスターを殲滅した程度でESJの施設が一生使い放題とかやり過ぎじゃないだろうか。それに明日も営業してくれるとか、一体何が起こっているのか理解できない。


「ん」

「どうした?」

「くれるものは貰っておけばいい」


 シアが小さく手を挙げて珍しく自己主張をするので指名すると、なんとも素直な答えを頂いた。


 上司がそう言うならもらえるものは貰っておきますか。


「あの~……」


 申し訳なさそうに後ろから恐る恐る声を掛けてくる職員。


「あ、はい、どうしました?」

「そろそろお返事を頂ければと思うんですが……いかがでしょうか?」

「あ、分かりました。ありがたく頂戴します。それで明日なんですが、俺達以外にもある程度お客さんを入れてもらえますか?」


 俺が立ち上がって返事をすると、職員が報酬の件の返事を求めてきたので、了承すると同時に、一つだけ条件を出させてもらった。


「それはどうしてでしょうか?」

「こういう場所は楽しんでいる人が自分以外にもいるっていう雰囲気が大切だと思うからです」

「なるほど。分かりました。明日は今日いらっしゃったお客様たちで明日来られる方の中から抽選に当選した方のみをご招待して営業させていただきます」


 俺の意図が分からない職員さんに、俺は自分の考えを説明する。


 貸し切りもいいのかもしれないけど、誰もいないガランとしたテーマパークでは楽しさが半減以上減衰してしまうと思ったからだ。


 それを理解した職員は頷いて承諾してくれた。


「ありがとうございます」

「それでは手配をいたしますので、まずはホテルにご案内させていただきますね?」

「あ、はい。分かりました」


 その後ホテルに連れていかれ、一番最上階の超VIPしか泊まれなさそうなスペシャルエクストラスイートルーム的な部屋に案内された。ここは個室も沢山ついていて、六人で止まるには申し分ない程の設備があった。


 それどころか個室の数を気にしないのであれば、三十人くらいは余裕で泊まれるくらいの広さと豪華さだ。正直元々小市民の俺はとても恐縮してしまう空間だった。


「すっごぉおおおおおおおおい!!」

「ん」


 七海はその広さと豪華かさに飛び跳ねて喜び、シアに至ってはまるで当然とでもいいたげな様子で、適当にソファーに腰かけて背もたれに埋もれる。ひとしきり驚いた七海は、職員が来るまでの間、部屋中を探検して遊んでいた。


 その後、手続きの終わった職員からVIPの会員証を六人分もらい、母さんに連絡してその日はホテルでゆっくりと休んだ。


■■■■■


「あぁ~、面白かった!!」

「ん」


 そういう経緯を経て、五月五日は一日中ESJで遊び倒したのであった。

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