高校デビューに失敗した無能探索者は人間を極める～レベルもスキルも能力値もない俺に何故か美少女が次々と近づいてくる件～

第106話 進撃の兄人

「お！！あそこみたいだな」

「ん」

　俺達が急いで東のエリアに向かうとそこでは雑魚と探索者が散発的に戦闘をしていた。

　これはなかなか大変な状況だな。すぐに助太刀しよう。

「あの～、すみません、救援に来るように言われたんですが、どこに参加したらいいでしょうか？」

　俺達は少し手が空いてそうな探索者に声を掛けてみる。

「やった！！救援だってよ」

「おお、マジか！！あっちの方に向かってくれ！！」

「了解しました」

　疲れ切った顔で俺の声に応える探索者達。俺たちは指示を貰った方へと向かう。

　そこは西と同じように壁が崩され、テーマパーク内に入ろうとする雑魚モンスターとそれを防ごうとする探索者達が戦闘を繰り広げていた。

　主だった探索者はすでに下がったと聞いたから、俺と同じ低ランクのの探索者達なんだろうな。彼らはまだ熟練度の本当の意味に気付いていなくて、能動系を全然鍛えていないのかもしれない。

　俺は熟練度を上昇させてるからな。Dランクモンスター程度なら楽勝だ。推定Cランクのボスも倒せるようになってるから、まだ裏試験の意味を理解していない探索者には負けないぞ！！

「助太刀します！！」

「た、助かる！！」

　俺は一声かけてから雑魚モンスターの殲滅に入る。

「シア！！」

「ん」

　俺達は探索者達の陣営が薄いところに回り込む。

「お前らのせいで七海と合流するの遅れてんだよ！！邪魔してんじゃねぇ！！」

「ん！！」

―スドドドドドドドドーンッ

―ズババババババババーンッ

　俺が拳を突き出し、シアが剣を舞うように振った。

『はっ！？』

　何か素っ頓狂な声が聞こえた気がしたけど、聞いている暇はない。

　俺はこいつらをさっさと殲滅して七海の所に向かわなければならないんだよ！！

　それから俺とシアは夢中になって攻撃を繰り返した。

　こちらも西側の時と同じように数十分もすると敵がいなくなった。こっちの敵が減ってなかったのは高ランク探索者が強い敵を倒したけど、怪我をしてしまって雑魚モンスターを減らせなかったのが原因だろうな。

「あの～、すみません」

「え、あ、はい。何かご用でしょうか？」

「えっと、これで救援依頼は完了ということでいいですか？」

「え、ええ。敵もいなくなりましたし、問題ないと思います」

「分かりました」

　一応場を仕切っていた低ランクの探索者達のまとめ役の人に話を通し、俺達は戦場を後にした。

「やっと、七海と合流できるな」

「ん」

　俺がラックの気配から七海の気配を探知して、七海がいる方へと走り始めると、シアが俺の後ろについて走る。数分も走るとその場所に辿り着く。

　そこは入場ゲート前の広場。そこにはたくさんの人がまだ残っていた。スタンピードによって電車が止まっていたりするんだろうか。

　それはともかく七海の方に向かうと人だかりができているのが分かる。

「あの、何かあったんですか？」

「あ、いえ、可愛い女の子が怪我人を治療してくれていまして……」

「そうなんですか。ちょっと通してもらっても？」

「え、あ、はい。どうぞ」

　人だかりの端にいる人に起こっている出来事を確認すると、誰かがけが人を治療していることがわかる。俺の探知で人だかりの中心にいるのは七海だと分かっているから、七海が魔法を使って誰かを治療してしまったんだろう。

　こりゃあ、これからが大変そうだ。

　俺の言葉に簡単に従ってくれた一般人たちを押しのけて、騒ぎの中心へと踏み込む。

「七海」

「あ、お兄ちゃん！！」

　横になっているけが人に魔法をかけていたらしい七海。俺が声を掛けるなり、バッと顔を上げてニッコリと笑う。そしてすぐに治療を終わらせて俺の体に抱き着いてきた。

　ふぅ。可愛すぎかよ。

「全く、魔法は秘密だって言っただろ？」

「だって皆大怪我をしたりして死ぬかもしれないし……」

「七海は優しいな。魔法を使ったのは仕方ないとして、後始末をしよう」

　俺は困った表情で七海に話しかけると、七海は少し俯いて悲しそうな顔になったので、頭をポンポンと撫でた。

　ふふふっ。ここ数日の特訓により、愛撫の力は制御できるようになっているので、衆目の前で七海が痴態を晒すことはない。修行の合間にラックがあられもない姿になったのは秘密だ。

「何をするの？」

「まずはお前の電子機器とシアの電子機器を俺に渡してくれ」

「ん？いいけど」

「ん」

　不思議そうな顔をしながら俺に携帯を渡す二人。俺はラックに視線を送り、ポケットに入れるふりをして影へと収納する。

「そしたら、空に向かって全力で雷の魔法を放て」

「なんかよく分からないけど、わかった！！」

　七海は俺の言葉疑うこともなく、全力で雷魔法を上空に放った。

―バチバチバチッ！！ズドーンッ！！

　黄金の閃光が天に向かって立ち昇る。

「うわっち！！」

「な、なんだよこれ！！」

「あ、保存してなかったのに！！」

　その瞬間、周りからそんな声が聞こえた。これで概ねの証拠は消せたと思う。

　携帯壊しやがって？

　七海の将来に比べたら些細なことだ。

　実際の証拠がなければ、文章だけではどこで何を言っても説得力は薄い。

　これで少しでも七海に注目が集まるのを防げたらいいと思う。

「さて、俺達はちょっとESJの運営側との話をしに行こう」

「わかった」

「ん」

　俺達が去ろうとすると、道がモーセの海のように分かれる。俺たちはその道を通って俺に依頼してきた職員の居る場所に歩みを進めた。