第105話 なんでもするって言ったね?

「この辺のは倒したみたいだな」

「ん」


 俺とシアは辺りを見回してお互いに頷きあう。


 全くこんな雑魚のせいで七海との遊園地を台無しにされるとは、迷惑極まりない話だ。シアだって来たことないからって楽しみにしてたのにな。さっきまでアホ毛が器用に額の青筋のようなマークを作っていたけど、今はしょんぼりしてしまっている。


 この状況じゃ、今日すぐに遊園地で遊ぶって訳にもいかないだろうしなぁ。七海の悲しむ顔が目に浮かんで怒りが再燃しそうになる。


「ん」


 シアが俺の肩に手を置いて首を振った。


 もう怒っても無駄だから止めるようにってことかな。


「ふぅ……まぁこの辺りのモンスターは殲滅したし、七海の所に行くか」

「分かるの?」


 俺は一度大きく呼吸を吐いて気持ちを落ち着かせてから、七海の所へ移動する提案をしたんだけど、シアに聞き返された。


 そういえば言ってなかったっけな。


「ああ、ラックがついてるからな。従魔の位置は大体わかるんだ」

「便利すぎ?」

「さぁ、俺も分からない」


 シアが少し驚いた表情をしたのに対して俺は肩を竦めて苦笑した。


 しかし、さらに便利機能?が増えていて、今日倒したモンスターのドロップアイテムも全て影の中に収めてくれているという至れり尽くせりぶり。おかげで辺りには何も落ちていない。


「羨まし」

「今度従魔探してみるか?」

「ん!!」


 羨ましそうに俺を見つめるシアの視線に耐え切れず、また安請け合いしてしまった。


 はぁ……可愛い女の子が上司とか逆らえる気がしないな……。


 俺はため息を吐きながらシアを先導して七海の元に歩き出した。


「あの~、すみません……」


 俺達が壁が崩れた場所からESJ内に戻り、七海がいる方へと向かって歩いていると、突然係員らしい人に声を掛けられた。なんだか恐縮していて申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「えっと、はい。どうされましたか?」

「いえ、あの、この度は当園を助けていただきましてありがとうございます」


 俺とシアは職員の方に向き直って返事をすると、深々と頭を下げられてしまった。


 俺たちは森林ダンジョンレベルの雑魚モンスターを退治しただけだ。Dランクジョンのボーナスモンスタークラスのモンスターがいるとかなら大変だったかもしれないけど。


 それにここに常駐している探索者やダンジョン近くの探索者組合にいる職員たちが頑張って対処していたはずだ。


「それほど大したことはしていないので、気にしなくていいですよ?な、シア」

「ん」


 俺が気にしないように伝え、シアに同意を求めるように視線を向ければ、彼女も頷いた。


「いえいえ、私たちが雇った冒険者たちは軒並み重傷を負って撤退しておりまして、お二人には多大な感謝を言わせていただきます」

「え!?そうなんですか?」


 俺は職員のその言葉に衝撃を受けるほどに驚いた。


「はい……」


 うわぁマジか。こっちに弱いモンスターが流れてきて、専属探索者の方に強いモンスターが集中してしまったってことだよなぁ。やっぱり俺ってこういういざって時にツイてるよなぁ。探索者の人たちには悪いことをしたかもだけど。


「それで俺達に何か用ですか?ちょっと妹とはぐれてまして……すぐに合流したんですけど……」

「それが……非常に言いにくいんですが、できれば別の場所の救援に向かっていただけないかと思いまして……もちろん後程お礼はさせていただきますので……」


 俺が断りたいという気持ちをありありと出しているので、物凄く言いづらそうに述べる職員。


 そっちの強いモンスターは俺達じゃ相手にならないと思うんだけど……。一体どういうことだろうか。


「いやいや、俺達じゃあ、そっちのモンスターは手に負えませんよ?」

「いえいえ、もうボス級のモンスターは倒されておりますので、大量のモンスターの駆除を手伝ってもらえればと……」

「うーん」


 俺の質問に職員が答える。


 確かにそれなら他の場所のモンスターは対応できるかもしれない。でも七海を置いてまで行く必要があるだろうかと考えてみる。


 いざとなればラックが七海だけ引き離して影に入れて連れてこれるだろうけど、このテーマパークがなくなれば七海も悲しむと思う。サンテンドーのゲーム好きだしな。


 それなら救助に尽力するか……。


「あの……私どもが出来ることならなんでも致しますので、どうかお願いできないでしょうか?」


 ほほう。なんでも……ときましたか。

 これは一応言質をとっておく必要がありそうだな。

 後で言った言わないになったら困るし。

 せっかく協力したのに何にもなしになったら探索者としては失格だと思う。

 俺は左手の感覚でスマホを操作して録音ボタンをタップした。


「なんでも、と言いましたね?」

「はい。私共に出来る範囲という条件は付きますが……」


 俺の問いに職員が恐縮しながら答える。


「それはちゃんと果たされると思って間違いないですか?」

「はい。必ず履行いたします」

「分かりました。それではスタンピードによって発生したモンスターの討伐の協力をさせてもらいます」

「ありがとうございます」

「それでこれからどこに行けばいいんですか?」


 これで契約成立ということでいいかな。


「当園の東側へと向かっていただいてもいいですか?」

「分かりました」

「それでは何卒よろしくお願いいたします」

「承知しました」


 ここまで言質を取れれば問題ないだろう。念のため写真も撮っておこう。


「写真をとっても構いませんか?」

「え、ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます」


 俺は職員に確認した後、サッとスマホを取り出して職員のネームと顔、テーマパーク内が映るようにシャッターを切った。


 その後、俺とシアはESJの今いる場所とは正反対の東側に向かって走り出した。

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