第108話 報酬の裏側で(第三者視点)
「佐藤様方、本当にこの度はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそこんなに良くしていただいてありがとうございます」
普人に頭を下げるESJ職員、宝田志摩。それに対して普人もぺこぺことしながら頭を下げる。
普人にとってあまりに過大な報酬だったため、これ以上畏まられても恐れ多い気持ちで一杯になるばかりだ。
「とんでもございません。多大な貢献をしていただいた佐藤様方には当然のことです。もちろん別途提示させていただきました報酬に関しましては口座へお振込みさせていただきますので、宜しくお願いいたします」
「は、はぁ……。本当に今日の対応だけで十分なんですが……」
志摩の態度にむしろ報酬の貰いすぎて胃が痛くなってきている普人。自分は雑魚モンスターを倒しただけなのに、という気持ちが普人の心を支配していた。
「そういうわけにはいきません。上からも重々佐藤様によろしくと言われておりますので……」
「それは、はい、お受け取りさせていただきます」
頑なな志摩の態度に、これは受け取らないと帰られなさそうなだなと、普人は頷くしかなかった。
「ありがとうございます。それではお気をつけておかえりくださいませ」
「はい、ありがとうございました。良い休日を堪能できました」
にこりと営業スマイルを浮かべる志摩に、なんとか笑顔で答える普人。
昨日は七海との遊園地を邪魔されてイライラしていたが、今日少ない人数しかいないESJを七海とシアと一緒に思い切り堪能できたので、これはこれでよかったかもしれないな、と心の中で思っていた。
「そう言ってもらえると私としても嬉しい限りです。またのお越しをお待ちしております」
「ええ、機会があればよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!!」
「ん!!」
ESJ職員、宝田志摩の前から三人の中高生が各々挨拶してから、志摩に背に向けて駅の方に去っていく。
「なんとか繋がりを作ることはできた、と言ったところでしょうか」
三人の背を見詰めながら志摩は呟いた。
志摩は上司から指示を受けていた。
必ずモンスターを殲滅をした探索者達とはつなぎを作っておくようにと。そのためならばどんな報酬をくれてやっても構わんと。
志摩も確かに彼らにはそれだけの価値があることを理解していた。
ESJの近くにあるダンジョンはEランク。ESJではDとCランクの探索者を多数にBランクの探索者も数十名程契約を行って雇っていたため、Eランクのスタンピード程度ならどうにでもなるはずだった。
しかし、今回は想定外の誤算があった。
まず第一にモンスターの種類。
今までEランクダンジョンで出現していたモンスターとは全く別の種類になっており、その強さも数段増していた。そのせいでDとCランク探索者でも殲滅速度が遅くなってしまった。その上、一団の中でも強力なモンスターはBランク探索者でも手こずる相手。そのせいで殲滅速度が鈍り、テーマパークの壁を壊され、園内に進入を許す羽目になってしまった。
そして第二にモンスターの数。
本来スタンピードとは、数百匹から多くて千から千程度の数のモンスターが現れる現象のはずだった。しかし、今回のスタンピードではそれをはるかに超える数のモンスターが出現していた。強い上に数も多いとなればそれは梃子摺って当然であった。
しかし、その不利な状況を覆す者たちが居た。
それこそが佐藤普人、葛城アレクシアという二人の人間であった。彼の妹も中学生にも関わらず探索者としての力を使っていたという情報もある。
その力を志摩も目の当たりにしていた。
彼らが二人でおもむろにモンスターの群れの方に向かったかと思うと、普人が拳を振えば、敵が数十匹単位で破裂するように消し飛んでいく。アレクシアが剣を振えば次々細切れとなっていく。
正直志摩は開いた口が塞がらなかった。
そしてあれよあれよという間に、西のエリアにいたはずのモンスターが一匹残らず消え去ってしまった。
志摩にあまりに信じがたい光景だった。
―トゥルルルルルッ
そんな時志摩の携帯電話の音がなる。
「もしもし!!」
志摩はすぐに電話に出ると、それは東側がヤバいという内容で、そっちから救援を送れないか、という内容だった。しかし、こちらも守っていた探索者達は軒並み疲労やけがをして撤退していた。
頼れるのはあの二人だけだった。
志摩がダメもとで救援依頼を出してみると、きちんと報酬を貰えるなら、ということで了承を得ることが出来た。
そこから方々に連絡して普人たちへの報酬を好きに決定できる権利を得ることができた彼女は、戻ってきた彼らに報酬を提示して見せると、何やら彼はツレの女の子達と相談しあった。
もしかして報酬が少なかったかもしれない、と思った志摩だったが、それは杞憂で済み、その報酬で承諾してくれたので安堵した。
最高の条件を提示し、ESJの超VIP会員にすることでつながりを作れたので一応成功と言えるだろうと。
「これからもっと信頼を得なくちゃね」
再び独り言ちた志摩は、踵を返して職場へと戻っていった。
しかし、報酬が多すぎて普人たちがビビっていることを教えてくれる人は誰もいなかった。
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