第099話 真のラスボス!!
俺は宝箱の前で崩れ落ちる。
「まぁまぁお兄ちゃん。きっとすごいジャージなんだよ」
「ん」
四つん這いになって這いつくばる俺の背中を七海とシアが撫でる。その気遣いが逆に辛い。
はぁ……とりあえず着てみるか……。
俺はジャージを着てみることにした。ジャージは紺色で二本の白いラインが入っている学校指定ジャージみたいなデザインだ。
今着てるのはまだそれなりに有名なスポーツメーカーのジャージだからデザイン的に悪くはないんだけど、これが学校指定ジャージになってくると今まで以上に探索者として悪目立ちしそうだ。
でもせっかくなので換装リングに登録収納して着替えてみた。
「見た目はともかく、まるで着ていないみたいに軽くて動きやすいな」
「やっぱり何か凄い魔法が付与されてるんだよ!!」
「そうかもしれないな」
軽く体を動かして呟く俺に七海が励ますように語り掛ける。
俺は七海に頷きつつ、戦闘モードで体を動かしてみた。
いつも以上にイメージ通りに体が動き、次の動作が物凄く出しやすい。それに何よりも俺が装備しても破れない。他にダンジョンさんの武具を装備したことがないので分からないけど、いつも着ているジャージとこのジャージは問題ない。
「ふぅ」
俺は一通り体を動かして七海たちの下に戻ると、七海は愕然とした表情を浮かべていた。
「どうかしたのか?」
「お兄ちゃんって……人間?」
「そりゃそうだろう。何を言ってるんだ?」
七海が俺の呆然としながら訳のわからないことを言っているけど、何のことだろうな?
「いや、まぁそうなんだけど……お姉ちゃん?」
「多分?」
話を向けられたシアは首を傾げるように答えた。
いやいやそこは普通に肯定してくれよ。
「はぁ……まぁどんな風になってもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよね」
「当たり前だろ?」
さっきから何を言っているか分からないけど、納得したならまぁいいさ。
「ん」
ボスを倒した後、ジャージを確かめたり、話をしたりしていると、シアがスマホを取り出して、俺に見せる。
そこ表示されているのは二十二時の文字。
「やっべぇ。うっかりしてた。早く帰らないと母さんに怒られるな。急いで帰還魔法陣に乗ろう」
「はぁーい!!」「ん」
俺達はすぐに帰還魔法陣の上にのり、ダンジョンの外に出る。そこから疲れているかもしれない七海とシアをラックの上に乗せて駆け足で家に帰った。
家の前で全員で換装して家の中に入る。
―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
目の前にそんな擬音を聞こえるようなオーラを発した般若が居た。
「一体何時だと思ってるの!!」
『ひぃ~!!』
俺と七海は体を寄せ合って悲鳴を上げる。
シアも驚きのあまり硬直して動かなくなっていた。
「全く……キャンプは今日までの予定だったでしょ!!今までどこほっつき歩いてたのよ!!」
『ごめんなさぁーい!!』
俺と七海は涙目になりながら母さんに頭を下げる。
母さんって怒る時は烈火の如く怒るんだよなぁ。
「特に普人!!あんたはお兄ちゃんだし、お客様を連れている側でしょうが。しっかり時間の管理くらいしなさい!!」
「は、はい。申し訳ございませんでしたぁ!!」
俺が心の中でぼやいているのを察したように母さんが怒りの矛先を俺に向ける。
ここで言い訳をしてはいけない。
そう俺の直感が囁く。俺は潔く頭を直角に下げて母さんに謝った。それからしばらく母さんの説教は続いた。シアは終始硬直していた。
「はぁ……まぁいいわ。それより晩御飯はどうしたの?」
「まだ食べてないけど……」
それからどれだけの時間説教を受けていたか分からないけど、ようやく解放された俺たちは、自分たちが冒険に夢中になってご飯を食べていないことを思い出した。
その瞬間、体が反応するように腹の虫の合唱が巻き起こる。
「ホントに仕方ないわね……すぐに手を洗って居間に来なさい。準備してるから」
「わかった」
恥ずかしそうに顔を見合わせる俺たちに呆れながら、母さんが居間に来るように指示を出して、居間の方へと下がっていった。
俺達は手を洗って居間に向かうとその中央にあるテーブル上には、家族用の土鍋がぐつぐつと音を立てていた。鍋の中には牛肉らしき肉としらたき、豆腐、ネギ、シイタケが入っていて、濃い茶褐色のスープが煮だっている。
これはつまり……。
『SU・KI・YA・KI!?』
我が家ではすき焼きは特別な時に食べる料理の一つだ。
今回俺が帰省しているし、シアも連れてきたので母さんが用意したんだろう。
「美味しそう」
シアもすき焼きは好きなようでアホ毛が物凄い勢いで跳ねていた。
「せっかく用意してたのにあんた達ったら帰ってこないんだから、全く……」
俺達がすき焼きを見て顔色を変えたのを見て母さんがぼやく。
『本当に申し訳ございませんでした!!』
「そんなことはもういいから。さっさと食べるわよ。シアちゃんもここに座ってね」
「ん」
俺と七海は深々と頭を下げると、呆れた顔をした母さんが俺達を促してすき焼きに舌鼓を打つ。
ダンジョンで取ってきて渡していたブラックミノタウロス肉を使っているのか、そのあまりの美味しさに、俺達は次々とお替りしまくってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます