第098話 なんの成果も得られませんでしたぁ!!

 十階層までやってきた俺達。結局ここまで俺の装備は出なかった。


 悲しい……。


 でも中々良いアイテムもいくつか手に入れた。


 まず、換装リング。


 これは服装の一式を登録かつ収納しておくことが出来、一瞬で着替えることが出来る指輪だ。登録できる数は最大十。これのおかげで着替えが非常に楽になった。


「これ凄ーい!!」

「ん」


 七海とシアが自分を着せ返して楽しんでいた。ちなみにラグなしで着替えられるので、一瞬でも肌が露出することない。


 だから目の前で着替えてても何も見えたりしないぞ?

 俺も五感や直感に関しては制御できるようになったしな。


 換装リングは俺の分も手に入れることが出来たので、ジャージ&プロテクターと私服、制服、寝間着への着替えは一瞬でできるようになった。


「便利なアイテムだな」

「これはお母さんにもあげようよ」

「いいかもしれないな」


 これはウチの寮の連中のお土産にもいいかもしれない。


 あいつらはクラスの連中と違って話もするし、一定の量を宝箱から入手できたのでちょうどいい。先輩たちの分もあるので皆喜んでくれると思う。


 装備の着脱大変そうだもんな。これで探索を頑張って貰えたら嬉しい。


 他に便利なのは空間拡張リュック。


 その名の通り、見た目よりも多くの量が中に入るリュックのことだ。


 これは割と店でも売っている物だけど、店売りと比べて段違いに性能が高い。店売りはせいぜい見た目の二倍から三倍程度なのに対し、試しにダンジョン内の物をドンドン入れてみると、大体まるまる一軒家くらいの容量があった。


 俺には必要ないけど、四つ手に入れたので俺と七海とシアと母さんが持つことになった。


 確かに俺、というかラックがいれば問題ないけど、分離されることだってあるだろうし、敵にやられてしまうことだって考えられる。そうなると、別に保管スペースを持っていた方が備えになるし、自分で使えた方が便利だ。


 それから各種耐性の装飾品だ。


 毒、麻痺、催眠、混乱、呪いなどの状態異常を防ぐ腕輪だったり、首輪だったり、ティアラだったり、指輪だったり様々な種類のアイテムがあった。


 なぜこの装備品類を知っているかというとシアが過去に見たことがあるからだ。


 また、毛色が違うアイテムがあった。


 それは魔導書と呼ばれる所謂読めば魔法を使えるようになるというアイテムと、スキルが使えるようになるスキル書というアイテムだった。


 俺は二人に内緒でスキル書を使わせてもらった。


『スキル書は使用できませんでした』


 使えませんでした。


「なんの成果も得られませんでしたぁ!!」と叫んでしまったのは仕方のないことだと思う。


 魔導書に関しては全て七海が使用した。


 そのおかげで七海は九種類の属性魔法を覚えることが出来たらしい。こりゃあさらに探索者になった瞬間引っ張りだこ間違いなしじゃないか。男どもの魔の手から俺がしっかり守ってやらないといけないな。


 スキル書に関してはシアが「剣術」「体術」「縮地」「頑強」などの物理系スキルを、七海が「魔力上昇」「魔力視」「魔法威力上昇」などの魔法系スキルを使用した。共通している「鑑定」や「隠蔽」「偽装」などと言ったスキルもそれぞれ使っている。


 俺はどんどん離されていくばかりだ。


 他のアイテムは、今まで同様に使途不明の薬や鉱石、貨幣などが大半だった。


「ようやく最後の部屋だな」


 六階からDランクのボーナスモンスターが出てきたけど、探知できる範囲に階段もないので十階層で最終階層ということで間違いないと思う。残すところは最後の部屋だけとなった。そろそろ今日も良い時間、というかもう結構遅いので早く帰らないと怒られる。


「さっさとボスを倒して家に帰るぞ」

「はーい」「ん」

「ウォンッ」


 俺の合図に全員が小声で答えた。


 ラックの影に入って中から最後の部屋の中を窺う。中は謁見の間のようになっていてその一番奥にある玉座に小さいモンスターが一体鎮座している。その見た目はヴァンパイアモドキと酷似していた。


 ヴァンパイアモドキの上位種だろうか?

 それともCランクのヴァンパイアかな?


 どっちでもいいけど、Cランク程度ならラックの影に隠れてやり過ごせるので不意打ちから有利に戦闘を勧められる。


「ラック」

「ウォンッ」


 ラックに指示を出し、ヴァンパイアの横に回る。


「いくぞ、ラック!!」

「ウォンッ」


 俺とラックが影から飛び出してラックが下半身に噛みつき、俺の拳が上半身に炸裂した。


―パァンッ


「あれぇ?」

「ウォン?」


 俺とラックは拍子抜けしてしまった。ヴァンパイアらしきボスモンスターは跡形もなく消えた。魔石も残ったので間違いなく死んでいる。


 Cランクなら俺のパンチで原型が残ると思ったんだけどなぁ。

 もしかして今の俺ならCランクのモンスターも倒せる?

 いやいやまさかそんな話はあるわけないよな?


 でも熟練度は探索者の裏試験だから、極められればAランクくらいは倒せるかもしれない。そう考えると、Cランクモンスターくらい倒せてもおかしくはない。


 これは今度森林ダンジョンを攻略して確かめてみる必要があると思った。


「でっか!!」

「おっき~い!!」

「ん!!」


 俺とラックが倒してしまった後に七海とシアが影から出てきて、俺の後ろから魔石を覗き込んで、感嘆の声を上げた。


「Dランクのボーナス魔石より大きいな。これはDランクの超ボーナス魔石に違いないぞ!!」

「これってどのくらいの価値があるの?」


 七海が俺にふと尋ねる。


 Dランクモンスターのボーナス魔石でおそらくSランク相当の価値だから一千万。Dランクモンスターの超ボーナス魔石なら多分SSランク相当の価値があると思う。


 ということは……。


「多分……一億」

「すっごーい!!お兄ちゃん大金持ちじゃん」


 俺が恐る恐る答えると、七海は自分の事のように喜んだ。


「まぁな。また何か欲しいものがあったら買ってやるぞ?」

「わぁーい。今すぐは思いつかないから考えておくね?」


 俺が調子にのってまた甘いことを言うと、七海はうーんと少し考えた後、一旦保留にした。


 まぁ今でさえ数十億の資産があるのでちょっとやそっとの買い物ならビクともしないから大丈夫だろうけど、一応釘を刺しておこう。


「分かった。でもあんまり高いものにしないでくれよ。目を付けられないように少しずつ換金してるからな」

「はぁーい」


 七海は素直に返事をした。


 よしよし、七海はいい子だ。


「ふーくん」


 シアが俺のそでを引っ張って何かを伝えようとしている。


「どうかしたのか?」

「あれ」


 シアは一つの場所を指さした。


「あれは!?」


 そうそこにあったのは宝箱。しかも虹色だった。


「これもドロップ?」

「ん。ボスで出ることある」

「マジか!!やったぜ!!」

「おめでと」


 俺が宝箱のドロップに喜ぶと、シアが俺に向かってほんの少し微笑んだ。


 相変わらずその微笑みの破壊力が高すぎて困る。


「あぁ~!!イチャイチャは駄目だって言ったでしょ?」

「だからしてないっての」

「ん」


 七海がぷりぷり起こるのに対して俺とシアは苦笑する。


「ホントにぃ?」

「ホントだってば」

「ふーん。ならいいけど」


 訝し気な七海に俺は困惑しながら答えると、若干疑念をぬぐ冴えないような顔をしつつも一応納得したらしく、素直に引き下がった。


「それよりも、早速あの宝箱開けてみるぞ!!」

「あ、私開けたーい!!」


 俺は強引に話題を戻して宝箱を開けることにすると、七海が手を挙げ、ぴょんぴょんと跳びはねて自分が開けるアピールを繰り返す。


「ああいいぞ、な?」

「ん。大丈夫」

「やったぁ!!」


 別に俺に思うところはないので、シアに視線で確認すると、彼女も問題ないと頷いた。その返事に七海は満面の笑みで喜びを露にしていた。


 俺達宝箱の前に集まって七海を先頭にして俺とシアがその後ろに並んだ。


七海は自身の大きさとさほど変わらない宝箱のふたを少しだけ重そうにしながら開く。


―ギギギー


 期待を高鳴らせるように宝箱を開く音が部屋の中に木霊する。そして宝箱は七海を飲み込みそうな大口を開けて中身を露呈した。


 中には確かに念願の装備品が入っていた。


「なんでジャージなんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺はそう叫ばずにはいられなかった。


 そう、入っていたのはただのジャージだった。

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