第097話 妹のためなら俺は魔王も倒せるかもしれない

 ダンジョン内で目を覚ました俺たちは、朝食を食べてさらに奥に進んでいく。


 出現するモンスターによってEランクダンジョン相当という判断を下したからだ。Eランクダンジョンの階層は十階層が基本。踏破して帰還魔法陣に乗れば宝箱を集めた上で、一番早く帰ることが出来るルートである。


「お兄ちゃんの装備出ないね」

「そうだな……」


 それから四階層と五階層を探し回ったんだけど、結局俺の装備が出ることはなく、この階はポーションと鉱石類に金貨や銀貨などの貨幣だった。どこの貨幣かは全く分からないけど、この金貨や銀貨は鉱物資源として買い取ってもらえるようだ。


 それにしても七海の言葉が心に痛い。七海とシアは今完全装備をしていてめっちゃきまってるのに、俺だけジャージにプロテクターなんだよ。場違い感が半端ない。


「ま、まぁまだ五階あるんでしょ?大丈夫だよ、絶対その中にお兄ちゃんの装備があるよ!!」

「そ、そうだな」

 

 俺の事を気遣って励ましてくれる七海に俺は苦笑いを浮かべた。


「ウォウォンッ」

「なんだ?慰めてくれるのか?ヨシヨシ」

「あぁ!!私も!!」


 俺が悲しんでいるのが分かったのか、ラックが俺の体に頭を擦り付けるように押し付けてくるのでわしゃわしゃと撫でると、七海も一緒になってモフモフを堪能し始めた。


「ん」


 ラックと戯れている所にEランクの超ボーナスモンスターを倒してきたシアが戻ってきて魔石を俺に渡す。


「了解」


 俺は渡された魔石を影に仕舞うと、当の本人もラックをモフモフして頬を緩ませていた。


 ラックってホント戦闘力以外はホント有能だなぁ。

 便利な上に、人を癒すこともできる。

 一家に一匹は欲しいと思うペットだ。

 あの時従魔にしてホントに良かった。


「それじゃあ、この階も探索し終わったし、次の階に行こう」

「おお~!!」「おー」


 俺の掛け声に二人が拳を突き上げた後、五階層の階段を下った。


「空の様子が変だな」

「ん」

「なんだか少し怖いかも」


 六階層へと降りると、廃墟自体は変わらないけど空の様相が異なっていた。


 夕暮れとも違う赤く薄暗い空。逢魔が時、そんな言葉とても似合う黄昏色の空は、不気味でいかにもホラーな化け物が出てきそうな雰囲気だ。


「ふっ!!」


―パァンッ


 不意に現れた人影に拳を突き出すと、はじけ飛ぶ。


 今出てきたのは青白い肌をもった人型で八重歯が大きく発達している。いわゆるヴァンパイアというモンスターに酷似していた。ヴァンパイアはCランクダンジョンに出てくるモンスターで、かなり人間に近いので倒す人間達も躊躇する者が多いとか。


 俺は咄嗟だったのではじけ飛ばしてしまった。


 でもヴァンパイアにはヴァンパイアモドキというDランクモンスターがいるので、今出てきたのはそっちだと思う。俺がCランクモンスターをはじけ飛ばすとかできないだろうし。


 それにしても、能動的な行動の熟練度も結構上げたので、Dランクのボーナスモンスターは倒すことが出来るらしい。


「今のは?」

「多分ヴァンパイアモドキだと思う」

「ん」


 俺が倒した場所には魔石が落ちていて、確かにDランクダンジョンの二階層であったモンスターと同じ大きさの魔石が出てきた。


 森林ダンジョンでは一日目に二階層でほんの少し強いモンスターと出会えたのに、それ以降は出てこなくて俺は自分の運の良さを呪った。


 三階以降はほんの少し強いモンスターに比べてもっと強い可能性があるので、強いモンスターと出会って熟練度を上げたかったんだけど、結局ゴールデンウィークまで出会うことが出来なかった。


 最近はパンチ一発で倒せないと不安になるんだよなぁ。


 どこまで行けるか分からないけど、いけるところまでパンチ一発をできるだけ継続したい。どうせその内頭打ちになるんだし。そんな時にまさかこんな所でDランクのボーナスモンスターに出会えるのは僥倖以外の何物でもない。


 でも、いつの間にかDランクのボーナスモンスターもワンパンで倒せるようになったなぁ。この先にはもっと強いモンスターがいるかもしれない。少しラックに警戒させておこう。


「ラック。この先危険度が上がるかもしれない。きちんと七海を守るようにな?」

「ウォンッ!!」


 ラックに言い聞かせるように撫でると、ラックは任せておけと鳴いた。


「シアどうする?」

「しばらく見てる」

「了解」


 シアも会ったことがないモンスターの時は俺が先に倒す。


 ここで俺の力を値踏みしているだと思う。

 なんだか試験でも受けているようで落ち着かない気分だ。


―パァンッ

―パァンッ

―パァンッ

―パァンッ

―パァンッ


 廃墟をヴァンパイアモドキを倒しながら進む。もちろんヴァンパイアモドキ以外にも狼男やデュラハン、グールにスケルトンにゾンビなどのアンデッドモンスターも現れた。


 どれもこれもDランクから現れるモンスターだ。


「お、お兄ちゃん!!気持ち悪いからすぐに倒して!!」


 と、七海が涙目で俺に頼むので、俺は全力でアンデッドモンスターを狩った。


 今の俺は魔王すら屠ることが出来るかもしれない!!

 はーはっはぁああああああ!!


 アンデッドモンスターを狩り終えた後、手が少し気持ち悪いのでラックに水を出してもらって臭い体液を洗い落とした。


 シアも少し魔法が使えるので水くらい出せるけど、魔力を消費するのでラックの影に入っている水の方が良いと思う。しかもラックは水分だけを影に収納することもできるのでドライヤーいらずでホント助かる。


「いやぁああああああああああああああ!!」


 十階層までアンデッドモンスターばかりだったので、終始七海の叫びがダンジョン内に反響していた。


 七海にそんな悲鳴を上げさせたアンデッドモンスターは全て俺が始末した。

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