第096話 偏るアイテムと妹と上司との中間管理職は辛いよ

 俺たちは四階層までやってきた。宝箱を探しながらの探索なので普段とは違い、一階の探索にかなり時間がかかる。スマホを見ると、時間がそろそろいい頃合いなので今日はここまでにしたいと思う。


「今日の探索はここまでだな」

「大量大量!!お宝沢山だねぇ」

「ん」


 三層までに二十個以上の宝箱を開けることが出来た七海は上機嫌だ。基本的に七海は開けることが目的で、そこで満足している上に、七海が特に何かをしているわけではないので、中身の権利に関しても主張しない。


 だけど、なんも無しって言うのも可哀想なので、魔法使い寄りの何かが出たらあげようとシアと話していた。


 手に入れることが出来たアイテムは、滅茶苦茶偏りが目立った。その偏りはいくつのグループに分かれていた。


 まず初めは、なんだか魔術学院とか魔法学校とかいう今の高校に相当する学校で採用されてそうな制服のような一式だった。


 一つ、赤みがかった少し薄い黒を基調としたローブ。黒魔導士というジョブがあれば身にまとっていそうなイメージで、手触りが良くかなり質のいい素材で作られているのが分かる。一つ、光沢のある白のブラウス。優しい手触りをしていて、着心地がよさそうだ。一つ、ローブと同じ色のスカート。一つ、白のニーハイソックス。そして最後にローファー。


 とても可愛い。


「ねぇねぇ、これ着てみてもいい?」

「もちろんだ。そのために渡したんだからな」

「わぁーい!!」


 七海は俺達から受け取った魔術学院風の制服一式をもって影の中に消え、数分程経つと影の中から這い出してきた。


 魔法を発動すれば爆発させる魔女っ娘。そんな印象がある服装が少し猫のように気まぐれな七海に良く似合っている。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、どう?」

「うんうん、七海の可愛らしさを十二分に引き出してくれる服装だな。とても似合っているぞ」


 スカートを軽く持ち上げてくるりと回って俺にアピールする七海。ミニスカートから覗く生足が眩しく、白のブラウスと黒のローブとスカートのコントラストが映える。


「やったぁ。探検している間はこれでいるね」

「それは嬉しいな」


 こんなに可愛い七海と一緒に探検できるなんて夢のようだな。


 俺は七海にニッコリと笑いかけた。


 次に偏っているアイテムの一式はまさに姫騎士スタイルの装備。


 青いミニスカートに白のホルターネックのブラウスとベストが一体化したようなトップス。黒のアームカバーとニーハイソックス、白銀に輝くグリーブとガントレット。そして青いマントがそれぞれ宝箱から出てきた。


「どう?」

「お、おう、とても似合ってるぞ?」

「ん」


 七海と同じように着替えたシアが首を傾げて尋ねるので、直視できないその可愛らしさに困惑しつつ返答すると、満足げな表情を浮かべた。


 他は上級ポーションと中身が分からない黄金色に輝くポーション、それに魔力を含んだ青白い鉱物とやや赤みがかった銀色の鉱物のインゴットに、金や銀らしきインゴット。そしていくつかの効果の分からない装飾品が数点と言った感じだった。


 Eランクダンジョンにしてはかなり良いアイテムを手に入れられた思う。


 しかし……なんでここまで七海とシア用の装備は出たのに俺の装備は出ないんだろうか。ここまで都合よく二人の装備が宝箱から出たのなら俺のも出てもいいと思うんだけど。


 なぜか探索者適性といい、装備がぶっ壊れることといい、そういう部分はホントにツイてない。それ以外は凄くツイてるのになぁ。


「それじゃあ、今日の所はここまでにして明日に備えて鋭気を養おう」

「はーい」「ん」


 アイテムの整理を終えた俺たちは、またダンジョンキャンプを行い、美味しいダンジョン飯を食べてそれぞれのテントに入って休むことにした。


「今日はお兄ちゃんと寝るね!!」

「ん」


 七海が今日は俺のテントに潜り込む。


 昨日シアと寝たからか今日は俺と寝たくなったようだ。


 シアはこちらを物欲しそうに眺めながら短く返事をした。


 そんな顔されても俺にはどうにもできない。

 昨日七海はシアと寝たんだから、今日は俺でもいいでしょ。

 流石にシアとまで同じテントで寝るわけにはいかないからなぁ。

 でも一人は寂しいか。


「はぁ……分かった。ラックと一緒に寝ていいぞ。ラックは寝てても警戒できるからな」

「ウォンッ」


 ラックもいいよと鳴く。


「ん」


 先ほどまで悲しそうにしていたシアも、ラックと寝られるとあって機嫌が直った。


「はぁ」


 俺はシアの機嫌が直ったのを見て安堵のため息を吐く。


「お兄ちゃんどうしたの?」

「いや、なんでもない」


 なかなか自分のテントに来ない俺を不思議に思った七海が、テントの中からひょっこりと顔を出すが、俺は首を振ってテントの中に入り込んだ。


 その日は七海に腕枕をして抱き着かれて眠った。

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