第095話 無能な兄とチートな妹
「ふ」
―スパァンッ
「はっ」
―スパァンッ
「ほっ」
―スパァンッ
俺たちは廃墟のようなダンジョンを突き進む。
シアが剣を振ればどの敵が真っ二つになる。最近ドンドン切れ味が鋭くなってる気がする。
「シアお姉ちゃんも凄い凄ーい」
「ん。お姉ちゃんは凄い」
七海が手を叩いて喜び、シアがその様子を見てフムーっと鼻息荒くドヤ顔―無表情―を決める。
「全く問題ないな」
「ん」
俺が話しかけると、シアは静かに頷いた。今の所全て一撃で倒しているので、少なくともこの階は朱島ダンジョンと同じだと考えていいと思う。
「七海、レベルはどうだ?」
「なんかレベル二十だって。これって高いの?」
いきなりの質問に面食らう。
やばい、俺はレベルの事はFランクダンジョンの攻略にレベル五程度は必要だということしか分からない。ここはシアに任せよう。
「俺よりもシアに聞いた方がいいだろうな。どうだ?」
「まだまだ低い。五十は欲しい」
「そっかぁ。まだ遠いなぁ」
七海はシアの答えに、頭の後ろで手を組んでぼやく。そう簡単に上がられたら先輩探索者の立つ瀬がない。パワーレベリングだから一定までは早いけど、レベル上昇スピードはどんどん下がっていく。
Eランク相当のダンジョンの敵を倒すのに五十か。Fランクが五だと考えると結構上げないといけないんだな。Sランク探索者とか一体何レベルなんだろう。恐ろしくて聞けない。
今のペースだともしかしたら七海が今日明日で五十に到達するかもしれないな……。一日で妹に抜かれる兄とはこれいかに。
「ひとまず次の階に行ってみるか」
「いってみよ~!!」
俺たちはのんびりと歩いて階段に辿り着き、下の階に降りた。そこも特に変わることなく野菜畑が続いている。二階の敵とも戦ってみたけど、一階と変わらずに特に問題なさそうだ。
この分だと十階まではこの敵が続くので十階までは平気そうだ。もちろん油断は禁物だけど。
「お兄ちゃん、宝箱はないのぉ?」
「そういえば、今まであんまり気にしたことなかったな」
「ん」
自分が行ったダンジョンでは宝箱がすでに取られていることが多かったし、朱島ダンジョンでもモンスターと戦う方を優先していたので宝箱には目もくれなかった。
そこにはロマンあふれるアイテムが入っている可能性があるので、宝箱があればこぞって開けに行くものなのに、シアはもちろん俺も含めてボーナス魔石を稼ぐことに夢中になっていた。
ゴールデンウィークが終わった後で行ってみても良いけど、凶悪モンスター討伐作戦が終わった後じゃあ残ってないかもしれないな。凶悪モンスター討伐がメインだから宝箱が残っている可能性もあるけど。
でも、ここは手つかずの野良ダンジョン。
宝箱もきっとあるに違いない。
今まではモンスターを倒すことを重視していたけど、ここには帰省してきて妹と楽しくキャンプしてる最中だ。せっかくダンジョンに入ってるんだから、宝箱ってロマンを追い求めてみるもいいかもしれない。
「そうだな、ちょっと探してみるか」
「うん!!」
俺たちは早速宝箱を探すため、各階を探索してみることにした。
ここは自分の背の高さくらいある野菜が視界を遮って迷路のようになっているので、探すのに時間がかかる。
俺たちは直感に従って宝箱を探すと、十数分後に一つの宝箱を見つけた。
「銀色」
「これってレアなの?」
「真ん中」
「ふーん。それよりも速く開けてみようよ!!」
そこにあったのは、銀色の宝箱。
宝箱は、上から虹色、金色、銀色。銅色、木箱の五段階でレア度があって、上になればなるほど貴重なアイテムが入っている可能性が高い。
今回はその中でも真ん中の銀色。銀色は真ん中となっているけど、結構レアなアイテムが入っていたりするので、悪くはないレア度だ。
でも七海はレア度を聞いても聞き流して、すぐに中身に好奇心が映ってしまった。
「まぁまぁ落ち着け。シアどう思う?」
俺の直感は罠が無いと言っているけど、ここは念のため熟練度を極めているであろうシアに確認するのがベストだ。
「ない」
「そっか。それじゃあ七海開けてみてもいいぞ?」
「やったぁ!!」
シアのお墨付きを得られたところで、今か今かと手をワキワキさせて待つ七海に良しの合図を出した途端、ガバリと宝箱を開け放った。
眩い光を放ち、中に入っていたのは一本の杖だった。
「そういえば七海のステータスとかスキルとかはどんな感じなんだ?戦士寄りとか、魔法使い寄りとか」
「多分魔法使い寄り。スキルに魔導の極致とかってのあるし」
俺が七海に確認すると、自分のステータスを出して眺めながら俺に告げる。
なんかすごい名前来たな。
「何……その凄そうなスキル」
「聞いたことない。多分レアスキル」
「マジかよ……」
シアの反応を聞いて俺は愕然とする。
シアも知らないスキルっていったいどんな効果を持っているんだ?
それにしても俺はレベルもスキルも能力値もないってのに、妹はそんなレアスキルを持っているなんて、なんで俺はそこだけ運がないんだろう。
「やった!!私もしかしたら凄いのかな?」
「多分。スキルに意識を集中してみて」
はしゃぐ七海にシアが指示を指す。
「分かった。やってみるね」
「ん」
「ん゛~~~」
七海はなんだか踏ん張るようにして唸りながら一点を集中して見つめる。
「分かった!!全魔法適正あり、魔法の使用魔力二分の一、魔力の回復力二倍、詠唱スピード向上二倍、詠唱破棄による効果減少二分の一、全魔法詠唱破棄可、だって」
一分ほど待つと、七海が見ていた場所からバッと目を離して答えた。
「前代未聞の驚愕スキル」
さしものシアもあまりの能力に驚きを隠せないでいる。アホ毛が暴れまわって訳が分からない行動をしていた。
なんだよそれ……。チートスキルじゃねぇか。
「しかもスキルは成長する」
「これ以上になるとかヤバすぎないか……」
シアの呟きに俺はさらに愕然とする。
そういえばそんなことをネットで見た気がする。スキルは成長してその力を伸ばすとか。
「争奪戦」
「マジか……」
シアが訪れるであろう未来を呟き、俺は言葉を失った。
どうやら俺は妹のためにマジで命を懸けることになるかもしれない。
「ひとまずレベルや能力値、スキルに関する内容は俺たち以外には絶対するな、もちろん組合にもな。バレたら何処かに拉致される可能性さえある。わかったな?」
「う、うん、わかった」
俺が顔を近づけて脅すように言うと、七海は冷や汗をかきながら顔をブンブンと縦に振った。
「約束だぞ?」
「わ、分かったよ」
「ならいい。この杖はこのダンジョンでは七海が持っておけ。帰ったら探索者としてダンジョンに潜れるようになるまでは俺が預かっておく」
念押しでもう一度尋ね、七海が神妙に頷いたのを確認すると、俺は宝箱から杖を取り出して七海に渡した。
「いいの?」
七海は恐る恐る杖を受け取った後、俺に上目遣いで問いかける。
「俺もシアも魔法寄りじゃないからな。七海が適任だろ」
「分かった。ありがとう!!お兄ちゃん、お姉ちゃん」
俺が述べた理由に納得したのか、七海は手に持っていた杖を抱きしめて嬉しそうに微笑みながら俺達に礼を言った。
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