第093話 佐藤探検隊!!未知の洞窟を調査せよ!!
しばらくカレーにうなされた俺だけど、探索者として代謝がカンストしてるお陰か割とすぐに元気になった。
「えらい目にあったな」
「お兄ちゃんごめんね」
「ごめん」
俺のつぶやきに二人が申し訳なさそうに頭を下げた。
全く……口に入れた瞬間異世界に転生したんだけど、なぜかその家の子供の中で自分だけが無能で追放されてしまって死にかけた後、強大な力を手に入れて無双する人生を追体験させられたぞ。
なかなかハードの人生だった。
「これに懲りたらまずはレシピ通りに作るんだぞ?」
「はぁーい」「ん」
二人は俺の忠告に大人しく頷いた。その顔には小悪魔のような笑みが浮かんでいたので、これからも俺の受難は続くのかもしれない。
すっかり辺りは暗闇に満たされた頃、俺たちは少し小高い丘に移動する。ラックは防犯のために留守番だ。
移動した俺は、そこに横になれる環境を作ると、三人で寝転ぶ。今回も何故か二人から指定され俺は真ん中。
一体これにどんな理由があるんだろうか?
「きれー!!」
七海は幾億幾兆の星が輝く空を見て思わず声を漏らした。地元の空は明かりが少ないせいか星がはっきりと見えて、空が近くに感じられる。
「こっちに住んでてもあまり空を見上げることはないからなぁ。こんなに綺麗だったんだな」
「本当だよねぇ!!ここに住んでるのに全然気づかなかった」
満天の星空に俺も七海も声を揃えて驚く。俺と七海は地元にも関わらず夜空にこんなに星が煌めいているなんて気づかなかった。
「綺麗」
シアも空を埋め尽くす星に目を輝かせている。
『……』
俺達三人は暫く無言で星空を眺めていた。
「今日はシアお姉ちゃんと寝るね?」
「ん」
「分かった」
七海とシアは本当に仲良くなったらしく、今日は一緒に寝るらしい。妹の兄離れは寂しいけど、もう中学生なんだからそれも仕方ないことだよな。
俺たちは別々のテントで一夜を過ごした。俺はシアに完敗したのであった。
しくしく。
明くる日。
「今日は何するの~?」
「そうだなぁ」
キャンプの醍醐味である釣りやバーベキュー、カレー、ラックと戯れるなんていうイベントはやり切ってしまったので、他に何かないか考える。
「そういえば……」
昨日七海から逃げるために遠ざかった時に見つけた洞窟の事を思い出した。
「な~に?」
「ああ、昨日ちょっと洞窟を見つけてな。そこを探検してみるって言うのはどうだ?」
「なにそれ面白そう!!」
俺が言いかけたまま黙ったので、七海に顔を覗き込まれてハッとして返事を返すと、七海は滅茶苦茶食いついた。俺みたいに探索者になりたいとか言うので、そういう探検とか冒険に興味はあると思ったんだけど、予想以上の反応だった。
「シアもそれでいいか?」
「ん」
シアにも確認のために尋ねたが、彼女は問題ないと頷いた。
「ここに戻ってきた時には場所が無くなっているかもしれないけど、洞窟の近くでキャンプすればいいし、道が結構険しくて一般人の七海にはきついだろうからラックに乗せて連れていく」
「わぁーい、また背中に乗れるんだ!!よろしくね!!」
「ウォンッ」
七海は嬉しそうにラックに抱き着いて、ラックも慣れてきたのか嬉しそうに尻尾を振って軽く鳴いた。
探索者にとっては簡単な道も一般人には険しい山道だ。ラックの能力で体を固定すれば七海も楽に洞窟まで連れていけるはず。
俺たちはすぐにキャンプセットをかたずけ、バックパックに入れるふりをしながら仕舞い込んで準備完了。
「それじゃあ、出発するぞ!!」
「おー!!」
「おー」
元気いっぱいの返事と抑揚のない返事。対照的な二人と共に俺たちは昨日洞窟に向けて出発した。
二十分ほど走った俺たちは目的地に到着する。
「どうだ?この洞窟なんだけど」
「なんだかドキドキするね!!早く行こうよ!!」
「わかったわかったって。そんなに焦らなくても洞窟は逃げないから。落ち着け」
洞窟の前に辿り着くと、七海は待ちきれ無さそうにラックの上から俺の袖を引っ張るので、俺は苦笑しながら宥めた。
「ラック、七海をちゃんと守るんだぞ?」
「ウォンッ」
ラックにしっかりと言い聞かせ、ライトのついたヘルメットをかぶり、俺達は中に進入していく。
「あれ?思ったよりも暗くないね?」
「そうだな。不思議だな」
俺たちは明かりなんてないのにほんのり明るい洞窟内をキョロキョロと見回しながら、ゆっくり先に進んでいく。
なんだかこんな洞窟をどこかで見たことがあるような気がするけど、どこだっけな?
それから数分程進むと洞窟の先に眩い光が見えてくる。
「どうやら、トンネルみたいな洞窟だったらしいな」
「えぇ~、大冒険が待ってると思ったのにぃいいいいいい!!」
俺の呟きに、七海が拍子抜けした様子でラックの上で暴れる。
ラックは困惑して迷惑そうだ。
そこは辛抱だラックよ。
徐々に光が近づいてきて、後ちょっと歩いたら洞窟の外に抜けるところまで来てシアがさっきから一言もしゃべっていないことに気付く。
元々口数が多い方じゃないけど、シアは全く話さないようなタイプじゃない。
「シア、どうかしたのか?」
「洞窟じゃない」
「一体じゃあなんだっていうんだ?」
俺が心配して話しかけると、シアがよく分からないことを言うので聞き返す。
そして、洞窟を抜けたその先で、シアはこう言った。
「ダンジョン」
と。
その言葉の通り、洞窟を抜けた先には、どこかの廃墟に迷い込んだのではないかと錯覚するような光景が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます