第092話 美味しくないけど、食べりゅ

 バーベキューを長い事やっていたので、それなりに時間が経ってしまったため、午後はまったりと過ごした。


「動けない……」

「ん……」


 理由は、俺たちが完全に食べ過ぎて動けないからだ。背もたれまでしっかりしているキャンプチェアーに三人で並んで座り、お腹を休めている。


 暫くして少しお腹が落ち着くと、七海が楽しそうに学校での出来事を話しはじめたので、俺とシアは微笑ましく聞いていた。ラックは俺たちの足元で丸くなって寝息を立てていた。


 そしてようやくお腹が落ち着いた頃、釣り再開し、あっという間に日が暮れてきたので夜ご飯の準備を行う。


「夜はカレーだ!!」

「やっぱりキャンプと言ったらカレーだよね!!」

「楽しみ」


 夜ご飯はもちろんカレーだ。二人もそれを聞くと嬉しそうに手を取り合ってはしゃぐ。


 さっきまで苦しそうにしてたよね?君たち。


「二人とも食べられそうか?」

「もっちろーん!!カレーは別腹だよ?」

「ん」


 念のため確認してみたけど、デザートは別腹みたいなノリで返されて苦笑するしかなかった。


「私が切るね!!」

「煮る!!」


 二人が俄然張り切っているので、カレーは任せて、俺は付け合わせのサラダとスープを担当した。食材は色々影から出して置いておいたの足りなくなることはないと思う。


 俺はネットで見ながらが良さそうなサラダとスープを探し、影の中にある食材を取り出して調理する。数十分ほどで後は煮るだけという状態になったので七海とシアの方の様子を見に行く。


「おーい、カレーはどうだ?」

「ばっちりだよ!!」

「完璧」


 鍋を囲む二人の背に声を掛けると、二人がサムズアップで答えた。七海は元気はつらつ、シアは無表情。これほどまでに対照的なサムズアップは初めて見た。


「そうか、どれどれ?」


 俺はおもむろに寸胴の中を覗き込んだ。


「こ、これは!?」


 覗き込んだ鍋の中には、およそ料理とは思えない色彩鮮やかなスープが蠢いていた。


「おい七海。これ味見したんだろうな?」

「するわけないじゃん!!私達ならカレーくらいちょちょいのちょいだよ?」

「当然」


 俺が恐る恐る尋ねると、七海とシアが味見をしないことが当然とばかりに応えた。


 料理が失敗するのは出来もしないのにレシピ通り作らず、変なアレンジを加えることだと思う。この二人は絶対にそれをやっているに違いない。


 で、なければカレーがこんな色になる訳がない。


「じゃあなんでカレーがこんな色になってるんだ?」

「それはもっと美味しくするために、より美味しそうな食材を入れたからだよ。単品で美味しい奴を入れたらもっと美味しくなるに決まってるよね」

「ん」


 一体何を入れたらこんなものが出来上がるんだ……。

 シアも一緒にほんのりドヤ顔してる場合じゃないぞ。

 アホ毛もな!!


 これ絶対食べたらヤバい奴だ。


「そ、そうか。作ってくれてありがとうな……」

「えへへ、どういたしまして」

「ん」


 俺が心の中で涙を流しながら述べた感謝に対して、二人とも嬉しそうに笑みを浮かべた。


 アホ毛は音符みたいな記号になって上機嫌らしい。


「それじゃあ、盛り付けしような?」

「はーい」

「ん」


 俺たちは七海にはカレーを盛り付けてもらい、シアにはスープ。俺はサラダを小分けにしてテーブルに並べた。


 明らかにカレーがテーブルの上で異彩を放っている。


「早く食べようよ、お兄ちゃん」

「ん」

「そうだな、それじゃあ……」

『いただきます!!』


 今から来るであろう未来に悪寒しか感じないけど、音頭をとって食前の挨拶を行った。七海とシアはためらいなく、カレーにスプーンを運び、すくって口へと持っていく。


 俺は横目でその様子をみて覚悟を決めた。


 ええい、ままよ!!


 俺は勢いでカレーを口の中に放り込んだ。


『うっ』


 俺達全員が顔色を青くした。味の表現をするのは難しいけど、この世の物とは思えない味がした。


―ゴクゴクゴクッ。


 バーベキューとは別の意味で飲み込めない俺たちは飲み物を頼って流し込む。


「まっずぅううううううううううううい!!」


 七海がカレーらしき液体を飲みこんで天に向かって叫んだ。


 これを教訓にしてレシピ通り料理を作ってくれるようになったらいいな。


 俺はそう思わずにはいられなかった。そのカレーもどきはシアも無理だったようで、主に俺美味しくいただきました!!


「さっすがお兄ちゃん。愛の為せる業だよね!!」

「ん」


 食べ切った俺はキャンプチェアーにぐったりと横たわる。その間、七海には抱き着かれ、シアには撫でられて続けていた。

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