第086話 満を持して現れる犬
『兄妹です!!』
「クラスメイト」
「子供たちが大変ご迷惑をおかけしまして……」
警備員が訪れた後、俺達は警備室に連れていかれ、母さんも呼んで事情を説明してなんとか解放された。
ふぅ、えらい目にあったな。
でも確かにあの警備員は俺を地獄から救ってくれた神だった。
本当にありがたい。これで有耶無耶になってくれた。
「ご飯食べて帰るわよ!!」
『はーい……』
「ん」
結局買い物と事情聴取で三時間くらい経ってしまい、お昼の時間を回っていたので、ここのテナントに入っているチェーン店で食事を済ませた後、自宅に帰宅することになった。
「それにしても随分買ったわねぇ。車に全部載るかしら?」
帰りの駐車場で母さんが俺達の荷物を見てぼやく。
俺は両手に物凄い量の袋を抱え、それでも飽き足らず、シアも七海も袋を抱えて持っていた。俺が荷物持ちしても足りない量の買い物をさせられた。
そう、させられたのだ。
「お兄さん、妹ちゃんと彼女さんにいいとこ見せる時ですよ」と店員さんから囁かれて、シアとはそういう関係ではないけど、ここは男の甲斐性を見せておくかと、全部支払った。結果、何十万という金額になった。
影の中に仕舞って置いた現金をこっそりと財布に補充して使用し、事なきを得ることが出来たんだけど、我ながら甘いなぁと自嘲する。
「ああ、それなら俺に任せてよ」
俺は母さんに胸を叩いてみせると、バッグドアを開けて、その中に荷物を放り込む。
すると、その中にある影に荷物が吸い込まれていく。
「え!?何それ!!凄ーい!!」
「これは……不思議ね……」
「ん」
七海と母さんはそれぞれ驚きを示し、シアは当然といった風に荷物を投げ入れている。シアは相変わらずマイペースだ。
「これって中に入れても大丈夫なの?」
「うん、問題ないよ。食材も入れられるけどどうする?」
「うーん、ちょっと心配だから車に載せるわ」
母さんは頬に手を当てて心配そうに俺に尋ねるので問題ないと答えたんだけど、なかなか信じきれないのか、車に直接載せることにしたようだ。
「分かったよ、七海は?」
「私はもちろん入れておくよ」
「オッケー」
七海もシアと同じように荷物を影の中に入れて、影の中に荷物が消えていった。七海はその様子を興味深そうに眺めていた。
「後は載せても影に入らないから」
「わかったわ」
母さんが俺の言葉に返事を返すと荷物を車の後ろに載せてからバックドアをバタンと閉めた。
俺たちは車に乗り込む。なぜか俺がシアと七海に挟まれる形だ。
「お兄ちゃんはここ」
「ん」
俺が端に寄ろうとすると二人に断固拒否された。
家に帰って七海の分の荷物を取り出して彼女に渡し、シアの分は俺が持っていることになるので必要な分だけ渡した。
「あっと、そうだ。俺のさっきの力のことについて説明しておこうと思う」
「そういえば後で説明するって昨日言ってたわね」
「私も気になる!!」
俺は母さんと七海がそれぞれの作業に入る前に、俺は自分が使った影の力の事を説明しておくことにした。
「ラック、出てこい」
「ウォンッ」
俺はラックを呼び出し、ラックが俺の影の中から飛び出す。
「わぁ~、ワンちゃん!!」
「あら可愛いわね」
突然現れた狼に物おじせずに突撃をかましていく妹と、モフモフに心を奪われている母さん。この辺りは血が争えないのかもしれない。
ラックは妹にモフられて困惑しているようだ。
「こいつはラックって言ってな?ダンジョンで出会って仲間にした従魔だ。大して強くはないけど、かなり便利な能力を持っていて優秀なんだよ。さっきの影に収納できる能力もこいつの力だ」
「凄いんだねぇ!!ヨシヨシ!!」
「クゥン……」
俺がラックの便利さを説明することによって、シュバババと過熱する七海のモフりに、ラックはタジタジになって俺に涙目で訴えかけくる。
しかし、俺には何もできない。
終わるまで耐えるのみだぞ、ラックよ。
俺は心の中でラックに手を合わせた。
「便利な子を仲間にしたのねぇ」
「ホントにな」
母さんが感心するように呟き、俺は未だに七海に纏わりつかれて涙目のラックに、苦笑しながら同意した。
「母さん、この家にいる間、ラックを外に出しておいてもいいか?」
「汚したりしなければいいわよ」
「大丈夫。ラックは犬じゃないから排泄もしないし、汚れも自分で落とせるから」
排泄もしないし、汚れも自分で落とす程に賢いクリーンな従魔だからな、ラックは。
「そう。それならいいわ」
「やったぁああああああ!!」
俺が母さんにラックを家の中で飼ってもいいか交渉し、許可が出るとラックをモフっていたはずの七海が大声上げて喜んだ。
「私もモフモフしたい」
そんな中、シアが少し物欲しげな表情でそんなことを呟く。
そういえば、彼女もモフモフ好きそうだったな。でも今日までちゃんとモフモフする機会がなかった。
「ラック、シアもいいか?」
「ウォンッ」
ラックに尋ねると、ラックは嬉しそうに首を縦に振った。
「いいってさ」
「ん。ありがと」
シアも七海と一緒になってラックを抱きしめてモフモフを堪能し始めた。
二人とラックが戯れる光景は神々しくて尊い絵画か何かに見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます