第087話 ナデナデは封印指定魔術

「遊園地はぁ?」


 四月二十九日。朝ご飯を食べ終わるなり、七海が俺に催促する。


「一日、二日は休みじゃない人も多そうだし、そこでいいだろ?」


 世間一般的な学校はその日は休みじゃない所が多いし、社会人も全員が全員ゴールデンウィーク中の平日を休みに出来るわけでもないだろうから、その二日間が一番空いていると思う。


「わかった」

「シアも連れていくからな」

「ぶぅ~、お兄ちゃんと二人きりがいいのに~」


 シアを連れていくことを伝えると頬をパンパンに膨らませて抗議する七海。


 遊園地に連れていくという約束はしたけど、二人きりという約束はしてないからな。俺だって二人きりの方が楽しめるけど、シアを一人残していくのは可哀そうだ。


 妹ラブな俺だけど、一人だけ仲間外れなんてことはしたくない。

 中学生の頃よくされたからな。


「それは嬉しいけど、シアだけ行けないのも可哀想だろ?七海が友達の家に泊まりに行って、友達が遊園地に行くのに自分だけ家に置いて行かれたらどう思う」

「悲しい」


 俺が七海に考えさせるように問いかけると、七海はしょんぼりした顔で呟いた。


「だろ?」

「うん、わかった。その人も一緒でいいよ」


 俺が同意を誘うように返事を返すと、シアの方を向きながらも視線をそらしてシアの動向を許可してくれた。


「ありがと、ななみん」

「ふん!!別にあんたのためなんかじゃないだからね!!お兄ちゃんが頼むから仕方なく、本当に仕方なく、一緒に連れてってあげるんだから!!」

「ん」


 シアがほんのり笑みを浮かべて七海を見ると、七海は典型的なツンデレみたいな台詞を履いて腕を組んでフンッとそっぽを向いた。


 全く……照れ隠しがバレバレなんだからな。

 そんな妹も可愛いけど。


「ありがとな。七海は人の気持ちが分かるいい子で嬉しいぞ?」

「ふわわわわぁ!?お、お兄ちゃん撫で方が物凄く上手くなってない?」


 俺は七海に近づいてポンポンと撫でてやると、飛び上がって驚いた。


「そうか?」

「うん……なんかその……色々凄かったよ?」


 七海が顔を赤くしてもじもじしながら目をそらし、最後に上目遣いで目を潤ませてそんなことを言う。


 なんだ?探索者が一般人を撫でるとヤバい効果が出るのか?

 きちんと確認しておかないといけないな。


「どういう風に?」

「なんか、体の奥がキュンキュンして、体がフワフワして、ゾワゾワって気持ちいいの」


 七海は頬を赤らめて下腹部を撫でながら目を潤ませてながら恍惚の表情を浮かべた。


 これは絶対ヤバい奴だ。もう七海を撫でない方がいいかもしれない。

 くっ。暫く七海を撫でられないのは辛いけど、これは七海の将来のためだ。


「そうか、それは危険かもしれない。これくらいにしておこうな」

「えぇ~!?もっとぉ!!」


 七海が俺にしなだれかかり、やたら色気を振りまいて目をウルウルさせて俺を見上げてねだる。


 妹は可愛いけど、欲情したりはしない。

 でも、俺以外の男がこんな状態の妹に言い寄られたらイチコロに違いない。

 この状態はとっても危険だぞ。

 対策も考えなければならないな!!


「だーめ。また今度な」

「お兄ちゃんのいじわるぅううううう!!」


 七海が俺を抱きしめて頭を胸の辺りにぐりぐりと押し付けて暴れるけど、俺は心を鬼にして撫でなかった。しばらく断固拒否していると諦めてくれたので俺はホッとため息を吐いた。


 これはなんとか制御できるようになるまで撫でるのは禁止だな。


「ヨシヨシ」


 拗ねた七海をシアが抱きしめてヨシヨシと撫でている。七海は毛嫌いしているシアに大人しく抱かれていた。


 シアは流石だな。撫でるを使いこなして七海を宥めることに成功している。


 俺も早く制御しないと。


「それはそうと、二泊三日くらいで近所の川の上流でキャンプでもしないか?」


 この辺りには特に有名な場所はないし、ゲームも一日中やったし、買い物も行った。他にある物と言えば自然くらい。ウチの近くにはダンジョンも少ないので山や森でモンスターと出くわすこともほぼない。だからキャンプも安全に出来る。幸い川の傍ではキャンプしても怒られないしな。


 天気もいいし、絶好のキャンプ日和だと思う。


「ん」

「いいよぉ」


 シアがこちらを向いて頷き、七海もシアの胸の中から顔をのぞかせて力なく頷いた。


 俺達は準備をして川に向かう。


 準備と言っても七海の準備くらいだ。俺たちは普段ダンジョンに泊まることも多く、準備は万全だからな。


「速い速ーい」


 ちょうどいいと思って七海をラックの背に乗せると、先程まで拗ねていた妹は打って変わって上機嫌になった。俺とシアはラックの前を併走している。


 ふぅ……助かったぜ。


「お兄ちゃんも大変」


 俺が七海に四苦八苦している姿を見てシアが呟く。


「まぁな。でも可愛いもんさ」

「ん。ななみん可愛い」

「ああ、世界一可愛い妹だからな」


 肩を竦めて苦笑する俺に、シアも同意してくれたのでドヤ顔で答えた。


 そうだろうそうだろう。シアも七海を気に入ってくれてよかった。七海は一方的に毛嫌いしているみたいだけど、照れ隠ししてる部分もあるからそのうち仲良くなると思う。


「あんな妹欲しい」

「それは両親に頼むしかないな」


 七海を振り返りながら答えるシアに、肩をすくめて答えた。


 その瞬間、シアの顔に急に影が差した。


「ん……」


 悲し気に一言返事をすると、シアはそれきりに何も言わなくなった。


 もしかしたら地雷を踏んだのかもしれない。


 悪いことしたなぁ。

 後で謝ろう。


「……」

「……」

「キャハハハハハハハッ」


 無言の俺とシアと、大はしゃぎする七海。相反する雰囲気のままキャンプをする川の上流まで俺たちは走り続けた。

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