第084話 地方民の憩いの場、その名も!!

「お母さーん、ZION連れてってよ!!ZION!!」

「はいはい、分かったわよ」


 ZIONとは、全国の郊外に展開する大型ショッピングセンターを中心に出店している総合ショッピングモール。この辺りにも最近出来たばかりで滅茶苦茶デカい。映画化やゲームセンターなどもあるので地方の子供たちが集まる場所と言えばZIONと言われるくらいには人気のスポットだ。


「お兄ちゃんも行くよね?」

「分かったよ。シアも行こうな?」

「ん」

「えぇ~!!」


 七海が俺を誘うので、俺はシアを誘う。シアは無表情で頷いてるけど、アホ毛が飛び跳ねている所を見ると嬉しそうだ。


 しかし、七海が嫌そうに声を上げる。


「お客様を置いてきぼりには出来ないだろ?」

「ん~、分かったよ」


 俺が呆れながら妹を見ると、妹もあきらめ顔になった。


 客に留守番させるとかは流石にないだろ。


「私留守番でもいい」

「そんなことさせられないから。一緒に行こう」

「ん」


 そんなバカな話はないので強引に連れていくことにした。


 車を三十分程走らせたところに目指すところのZIONはある。田んぼの中にドンッという重低音の効果音がふさわしい程の威容を放つ建物。それこそがZIONショッピングモールだ。


「久しぶりに見たけどやっぱりデカいなぁ」

「こういうとこ来たことない」


 俺が懐かしさを感じる横で、シアは制服姿でZIONを見上げて呟く。


 こういうところに来たことがないって一体シアってどんな家で育ったんだろうか。少し気になるな。


 でもそんなことより今は……。


「楽しめるといいな?」

「ん」


 俺とシアはお互いに顔を見合わせて頷きあった。


「あぁああああ!!お兄ちゃんとイチャイチャしないで!!」


 俺とシアの間を分け入るようにして七海が間に立つ。


「してないだろ」

「もう!!し~て~る~の~!!」


 俺が真面目に答えてるのに、七海は不満そうに俺に抗議する。


「ななみん可愛い」

「何するのよぉおおおお!!」


 だんだんシアは七海の扱い方を心得てきているらしい。


 七海の何かがシアの琴線に触れたらしく、小さい七海を七海より大きいシアが後ろから抱きかかえていた。シアの腕の中で七海がじたばたしている。


 しかし、シアは覚醒している探索者。ただの一般人では彼女の腕力に抗うことなど出来ない。シアにはレベルもあるので、多分今や俺も瞬殺されると思う。


「ほら七海、さっさと買いたいもの買いなさい」

「うぅううう……。はーい」


 シアから逃れられず呻く七海は母さんの催促に力無く返事をした。


 シアの力に観念したらしい。


「ねぇ、お兄ちゃん、私、服が欲しいなぁ」


 ZIONの中に入った後、七海は新しい服が欲しかったらしく、俺の腕をとって上目遣いで甘えてくる。


 はぁ……この甘え上手め!!

 あざといけど逆らえない可愛さがある。

 これが妹の強かさよ。


「全くしょうがないな、好きなの買ってやるよ」

「やったぁ!!」


 俺が仕方ないなという表情で頷くと、七海は両手を上げて喜びを露にした。


 そんなに喜んでくれるのなら兄冥利に尽きるというものだ。


「普人。大丈夫なの?」

「ん?ああ、大丈夫だよ。俺結構稼いでるから」

「そう?ならいいんだけど……」


 無邪気にはしゃぐ七海を見て母さんが俺の懐の心配をする母さんだけど、俺にはすでに数十億円の魔石貯金がある。ボーナス魔石を一個換金すれば済む。


「シアも服を買ってみたらどうだ?」

「買ったことない」


 制服しか着ているのを見たことがないのでシアにも買い物を勧めるが、服を買ったことが無いという。


 一体どんな生活してたんだ?


「多分店員さんに任せておけば大丈夫だろ。シアは可愛いからなんでも似合うさ」


 俺は自然に言っていたが、何を血迷ったことを言ってしまったんだろうか。俺に可愛いなんて言われても意味ないだろうに。


「私、可愛い?」


 俺の言葉にきょとんとして首を傾げるシア。アホ毛もはてなマークを形作っている。


 かの余は全く自分の容姿に頓着していなかったタイプらしい。


「え?あ、ああ……。凄く可愛いと思うぞ?」

「分かった」


 俺が戸惑いながらもう一度容姿を褒めると、彼女は何かを決意したように頷いた。


 店員にまかせることを理解したってことでいいんだろうか?


「お兄ちゃん、早く早く!!」


 シアと話していると七海が俺の手を引っ張って目的の店に俺を急かす。


「分かった分かった。シアも行こう」

「ん」


 俺はなぜか自然とシアに手を伸ばし、彼女も何のためらいもなく俺の手を取り、七海に引っ張られながら目的地へと連れていかれた。


「母さんはいつもの買い物してるわね」


 そんな俺たちを微笑ましそうな表情を浮かべて眺めた後、母さんは食材などを買うためにスーパーのエリアへと去っていった。

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