第072話 D級ダンジョンは侮れない

 俺とラックは影の中を歩きながら森林ダンジョンの初めてのモンスターに向かって突き進む。


「初めてのモンスターはどんな奴なんだろうな?」

「ウォンッ」

「美味しいアイテムを落とす奴がいいって?そんな奴いるかなぁ」


 俺が期待を胸にラックに話しかけると、ラックはそんな俺の気持ちをよそにモンスターが美味しいご飯に見えているようだ。


 俺たちは周りに人が居なくて一番近いモンスターの気配に近寄っていく。


 数分程歩くと、初めてのモンスターが見えてきた。それは大きなカマキリだった。


「ギシャシャシャシャシャ」


 得物を探すように森の中を徘徊し、不快な音を奏でている。


「あれは美味しくなさそうだな?」

「クゥン……」


 俺がクスクスと笑いながらラックの顔を見ると、悲しそうな表情をした。


「まぁ仕方ないさ。攻撃をしかけてみるぞ?」

「ウォンッ」


 俺が戦闘態勢に入ると、落ち込んでいたラックはすぐに切り替えて戦闘モードに移行する。ラックは大きなカマキリの背後のすぐ足元に影を移動させ、俺は影から飛び出して殴った。


―パァンッ


「あれ?」


 俺が殴ると、相変わらずはじけ飛んでしまった。


 多分、Dランクの一階の敵はEランクとさほど変わらないんだと思う。


「一階の敵は弱いみたいだな?」

「ウォンッ」

「そうだな。朱島と変わらないもんな」


 ラックが朱島と変わらないと言っている。

 うんうん、強さが変わってないもんな。


「とりあえず、手あたり次第戦ってみるか」

「ウォンッ」


 俺たちは一階のモンスターをガンガン倒してみたが、どれも弾け飛んだ。


「うーん、次の階に行ってみるか?」

「ウォウォン」


 俺が次の階に行こうか悩んでいると、ラックが服の裾を引っ張る。


 何か伝えたいことがあるのか?

 あ~、そういうことか……。


「あ~、時間があんまりないか~。ひとまず二階だけ行ってみるか」

「ウォンッ」


 すでに時間は八時を回っていた。


 でも後一階くらいならいけると思う。

 最悪一日くらい睡眠が短いくらいはどうにでもなるし。

 最近は睡眠が一時間でも気分爽快だからな。

 もう少し探索時間を延ばしてもいいかなぁなんて思っていた。

 ちょうどいいかもしれない。


 俺たちは真っすぐ階段に向けて進んだ。


「森にある階段とか遺跡でもあるみたいでなんだかワクワクするな!!」

「ウォウォウォウォン」


 森に突如として現れる階段。それは洞窟の中にある森林同様に摩訶不思議で心躍るなぁ。


 ラックもそれに同意するように鳴いている。


 俺とラックはワクワクする気持ちを押さえながら階段を下りていく。階と階の間はダンジョンに入る際の洞窟と同じ造りになっていた。


「うわっ!?」


 暫く下っていると、突然視界が開けて周りに森が現れる。辺りを見回すと、俺は途中で段が薄くなり、最後には消えている階段の一番上に立っていた。


「ダンジョン階段謎過ぎる……」


 俺はダンジョンの不思議を目の当たりにして思わず呟いた。


「きゃあああああああああああ!!」


 しかし、そんな俺たちのワクワクドキドキな気分に水を差すように女性の悲鳴が聞こえる。


 放っておくわけにもいかないよな。


「ラック!!」

「ウォンッ!!」


 俺の声に呼応して、俺とラックは影の中に沈み込み、悲鳴が聞こえた方角へと走る。


 物の十秒ほどで到着すると、そこでは人型のモンスターが女性の首を片手でつかみ、持ち上げている光景だった。そのモンスター以外にもこの階には多数の同じような気配があり、どれもが一階のモンスターよりも大きな力をもっているようだった。


 ラックはその光景を見るなり、モンスターの背後へ回り込む。


「止めろぉおおおおおおおお!!」


―パァンッ


「グワァアアアアアアアアアアア!!」


 こいつ……俺のパンチで完全にはじけ飛ばない!!


 俺は確かに殴ったんだけど、女性を握っていた腕を殴ったらその部分だけが弾け飛んだ。それ以外は無事だった。ラックほどではないにしろ、いつもより強い敵だ。


 朱島ダンジョンより手応えがあるぞ!!


「じっとしてて!!」

「は、はい」

「ラックはこの人を守れ!!」

「ウォンッ」


 女性は俺の言葉に頷いてその場で蹲っているのでラックにその場を任せ、俺は腕を吹き飛ばしたモンスターに走った。


「〇%あ”$”!*@%!¥」


 モンスターは俺に対して何かを話している。しかし、何を言っているのか分からない。


 なんと!!言葉を話すモンスターもいるのか世界は広い。しかし、奴らは人間に仇成す敵。躊躇してはいけない。


「問答無用!!」


 俺は何かを叫んで威嚇してくるモンスターに対して俺は懐に潜り込んで拳を打ち込む。相手はなす術なく、拳を受けると、その部分に大穴があいた。


 しかし、流石に相手もそのままということはなく、相手は胸に大穴を開けながらも俺に反撃を仕掛けてきた。その攻撃は口からの炎だ。


「うぉっ」


 俺は拳を振った直後で躱すことが出来ず、その炎の直撃を受けた、はずだった。


「あれ?なんともないな?」

『ギャアアアアアアアアアアア!!』


 俺の代わりに目の前にいたモンスターが炎に包まれて苦しがっていた。


 チャンス!!


 俺は隙ありとばかりに拳を連打した。


 さしものDランクモンスターもそれにはたまらずにはじけ飛んだ。


「ふぅ……Dランクダンジョンはやはり侮れないな……」

「あ、あの~」


 俺がモンスターを倒して魔石を拾っていると、後ろから声を掛けられる。


 そういえばだれかを助けたんだっけ?


 俺が振り返るとそこには俺とそう変わらないくらいの女の子が立っていた。


「あ、はい。無事で何よりです」

「助けていただきてありがとうございました」


 俺が返事をすると、彼女は俺にぺこりと頭を下げる。


 ふむふむ。あれはたしかにカマキリより強かったからな。この子は俺よりも早くDランクダンジョンに来たせいで熟練度がまだ低いのかもしれないな。


 とりあえずこの子ももう大丈夫だろう。


「それは災難でしたね。それでは自分は先を急ぎますので。では」

「あ、あのぜひお礼をぉおおおおお!!」


 俺は他にもちょっと強いモンスターの気配が沢山あるので、その場所めがけて走り出した。


 ふふふっ。待っていろ弾け飛ばないモンスター達!!


 最後に女性が何か言っていたけど、気にしなくてもいいと思う。俺はそれからちょっと強い人型モンスターと戦い続けた。


 どの個体も俺に反撃をしてきた。今までは歯ごたえが無さ過ぎたけど、反撃してくる分、張り合いがある。中には自己再生する敵もいて、その敵は倒すのにほんの少し苦労した。ほんの少しだけだけど。


「Dランクダンジョンのモンスターは中々侮れないな!!」


 三階以降の敵に思いを馳せながら俺は本日の探索を終えてダンジョンの外へ向かった。

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