第071話 意味不明なEランク探索者(第三者視点)

「うーん」


 一人の中年の男が調書を見つめながら椅子の背もたれに思いきり体重をかけた態勢で唸り声を上げている。


「どうしたんですか?針谷先輩」


 その部屋にもう一人、針谷の同僚の二十後半程度の男が入ってくるなり、針谷の様子を見て話しかけた。


「ああ、久留米か。さっきダンジョンの前で騒ぎを起こした奴らの取り調べをしていたんだが、妙なんだよ」

「何が妙なんです?」


 二人の話から分かるように、彼らはダンジョンの警備のために常駐している探索者組合職員である。


「それがな、今回の騒ぎは素行の悪いDランク探索者達が一人のEランク探索者に絡んだのが事の発端らしい」

「ふむふむ」


 後輩からの質問に針谷が話し始める。


「目撃者たちによると、まずDランク探索者たちは、Eランク探索者が駅からこのダンジョンへのバスへ乗り込んだ際にバカにしたようだ。まぁFランクダンジョンに潜るような出で立ちだったからバカにされるのは分からなくはなかったがな」

「だからといってバカにしていいわけではないですけどね」

「まぁな」


 針谷は絡まれたEランク探索者の恰好を思い返しながら話すと、久留米は苦笑しながら返し、針谷は肩を竦める。


「それでその時、Eランク探索者はDランク探索者達にバカにされたのを気にもせずに無視した」

「それが癇に障った……と?」


 合いの手を挟むように久留米が問う。


「そういうことだ。流石にあいつらもバスの中で何かするのはマズいと思ったらしく、ここに着いてからダンジョンに向かうEランク探索者に後ろから声を掛けた。しかし、それも無視され、全く相手にされなかった」

「そして強硬手段に出た」

「そうだ。奴らは前を歩くEランク探索者に全員で攻撃を仕掛けた」


 お互いに掛け合いながらテンポよく話を進めていくが、一度呼吸を置いて針谷が答えた。


「全員で!?」

「まぁそういう反応になるよな」


 その言葉に久留米は驚きを隠すことが出来ず、その様子を見た針谷はウンウンと頷いた。


「それでどうなったと思う?」

「そりゃあ、Eランク探索者はボコボコにされたんじゃ?」


 針谷が面白がって久留米に問いかけると、彼は左手で右手の肘を支え、右手を口元の下に当てて考えながら答える。


「それがな、Eランク探索者は無傷だった」

「は!?」


 針谷は思い通りの返事が効けたとばかりにニヤリと口端を吊り上げると、久留米は意味が分からずに呆けた顔になった。


「その上、Dランク探索者達はなぜか自分たちの攻撃が返ってきて手ひどいダメージを受けたと証言している。すでに傷はなかったがな」

「はぁあああああああああ!?」


 さらに続ける針谷の言葉に久留米は驚愕して大声で叫んだ。


「そしてさらに面白いのが、その傷を絡んだEランク探索者が、自分の持っていた中級の回復・解毒ポーションを使って治してやったことだ」

「今までも意味が分かりませんでしたが、絡んだ相手を治すなんて人間がいるんですか!?」


 話を続ける針谷に、驚き過ぎて冷静になったのか久留米がそんなバカなと突っ込みを入れる。


「いたんだよ、それが……ただ、Eランク探索者は絡まれたことに気付いてなかったようだがな」

「えぇ~……そんなことありえるんですか?」


 自分が攻撃されて気づかない人間などいない。久留米はそのEランク探索者に少し恐怖を覚え始めた。


「ああ、他の目撃者たちも言葉を揃えてそう証言している。Eランク探索者の青年はDランク探索者達の言葉に全く耳も貸してなかった、それどころか気にも止めていなかった、とな」

「それはDランク探索者達もなんだか不憫ですね……」

「そうだな……」


 絡んでも相手にしてもらえず、自分たちが怪我をして、その上絡んだ相手に治療され、絡んだという認識もされていなかったDランク探索者達の事を思うと、二人は何とも言えない雰囲気になった。

 

「それは確かに異常なEランク探索者ですね……スキルでしょうか?」

「その辺は全く分からん。スキルを話す義務はないからな」


 久留米が沈黙を破り、両手を軽く上げて針谷が首を振る。


「確かにそうですね。一体そのEランク探索者は何者なんでしょうか?」


 久留米はその異常すぎるEランク探索者に思いを馳せる。


「ああ、さっき身分証を見せてもらった。名前は佐藤普人。神ノ宮学園に通う高校一年生だ」

「はぁあああああああああ!?」


 再び警備室に久留米の叫びが木霊した。


 各所で徐々に普人の名前は広がりを見せていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る