第070話 それでも俺はやってない(違う)
「お前たち!!何をしている!!」
ざわざわと騒ぎになっているのに気づいた警備職員が俺達の所に駆けつけてきた。何をしているって俺は何もしていないんだけど、なぜか一人立っている俺に厳しい視線を向ける。
「いや、俺は彼らが怪我をしていたのでポーションで治してあげただけですけど……」
「本当か!?」
俺が答えると、未だに起き上がっていない四人を問い詰める。
「は、はい。俺達が彼に絡んだのが悪かったんです」
「そ、そうなんです、悪いのは俺達なんです」
「はい、私達が彼に絡みました」
「俺達が全て悪いんです」
四人は意気消沈した表情で警備職員に口々に零す。
なんでそんなに絡んだことを強調するんだろう。
「そうなのか?」
「いえ、俺には絡まれた覚えは全くないんですが……」
「まぁいい。ちょっと警備室まで来てくれ」
「はぁ……わかりました」
再び俺に視線を向けてくる警備職員に困惑しながら答えると、彼は付いてこいと顎で指し示す。俺たちをそのまま警備室に連れていかれ、今回の出来事の事情聴取が行われた。
「お前たちはこいつに絡んで攻撃をしかけたのに、なぜか自分達が怪我をしていて、それを恐れ多くもこいつにポーションで回復してもらった。ということでいいのか?」
『はい、その通りです』
「お前はこいつらに何かした覚えはないんだな?」
「え、あ、はい。そうですね」
粗方話を聞き終えた後、警備職員が改めで今回の概要を確認し、俺と俺に絡んだという探索者達が間違いないか答える。
「どこかに怪我をしたりもしてない……と?」
「はい問題ありません」
「本当なんだな?」
「はい、どこもなんともないですね」
「そうか……分かった」
調書らしきものを書きながら俺に確認をとる警備職員。俺は体のあちこちを確認してから答えると、神妙な顔をして警備職員が返事をした。
「確かに他の人間に確認させたところ、お前たちの証言との食い違いはなかった。お前たち四人には罰則が下されるだろう」
『はい、分かりました』
他の警備職員が持ってきた資料を見ながら担当職員が結論を話す。
警備職員の言葉に四人は完全にイエスマンと化している。
「お前もとんだとばっちりだったな。お前の方は特に問題ないようだ。お前が手を出したという証言もなかったしな」
「そうですか。それでは失礼しても?」
「ああ。行っていいぞ。時間をとらせて悪かったな」
「いえいえ」
職員が苦笑いを浮かべながら許可をくれたので、俺は警備室から外へと出た。
「ふぅ。一時間半か……」
騒動に巻き込まれたせいで探索時間が一時間半も短くなってしまった。
ただでさえ時間がないというのに……。
俺なんかしちゃったのかなぁ……。
全く身に覚えがないぞ。
「それはさておき、気を取り直していきますか……」
俺はもやもやした気分を切り替えるために、両頬を手で軽くぱちんと叩いた後、ダンジョン内部へと足を踏み入れた。
まずは見慣れた洞窟が俺を出迎える。
いつもながら不思議な空間だ。ただ、いつもと違う部分が一つだけあった。それは洞窟の先に一筋の光がさしていることだ。
俺はその光に向かって一歩また一歩と歩みを進めていく。
徐々に大きくなっていく光。
一分ほど歩き続けると、俺は洞窟を抜けた。
「ほわぁあああああああああ」
洞窟を抜けた先は小高い丘のような場所にあって、少し下に広がる光景が一望できる。眼前に広がるのは大森林と言っても過言ではない木々の数々。空は数少ない雲と眩いばかりに輝く太陽が浮かび、森林の木々を青々と照らしていた。
俺は日本では見慣れないその光景と、洞窟の中にまるで別次元の空間が広がっている事実にあっけに取られて、口から変な音を漏らしてしまっていた。
「ホントに洞窟の中に森があるんだなぁ」
我に返った俺はその不思議な光景にウンウンと頷いて感心する。俺は他の探索者の邪魔にならないように脇にそれて森に向かう。
「ラック」
「ウォン」
そうして周りに気配がなくなったところでラックを影から出してやった。
森の中は太陽が照り付けているせいか、木々の隙間から所々日が差してうっそうと茂っているにも関わらず比較的明るくて、視界の見通しも悪くない。
近くに敵はいないけど、森の中には沢山のモンスターが徘徊しているのが探知できる。
「それじゃあ、早速戦ってみますか。頼むぞ、ラック」
「ウォン」
ラックの頭を優しく撫でると、ラックの声と同時に俺とラックはゆっくりと影に沈んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます