第069話 迫りくる脅威(第三者視点)

 骨と脈動する生物の肉のような物体で構成された一室。


「手筈が整いました」

「そうか」


 人型の黒いもやとフードの人物が対峙している。


 フードの人物は椅子に座り、靄からの報告に短く返事すると、何事かを考えているのか少し沈黙する。


「いかがしますか?」

「そうだな。すぐに異世界に派遣しろ」


 返事を促すように靄が尋ねると、フードはハッとしたような雰囲気になって指示を出した。


「分かりました」


 靄は返事をするとすぐに姿を消そうとするが、


「いや、そうだな。私も見送りに行こう」


 フードの男が立ち上がり、机の横を回って靄のそばに近づく。


「承知しました」


 靄の言葉と共に二人はその場から姿を消した。



 二人が再び姿を現したのは、中心で触手が木の根のように寄り集まり、一本の柱を形成している空間。


 そこには数百人の者たちが集まっていた。その者たちはどれも人型をしているが、体のどこかが異形の存在に置き換わり、肌は青白く、およそ人とは言えない者達であった。


 そのどの個体もダンジョンに現れる下位のモンスターとは一線を画す力を持っている。全員がAランク以上の魔力濃度をもつものばかりだ。Sランクの者さえ混じっていた。


 しかし、この者達もフードの男や靄のような力を持つ者達ではなく、最下層の者達。


 最下層民である彼ら数十人でさえ、送り込まれた場所に相当な被害をもたらすことが予想されるが、それ以上の存在が送り込まれるようになれば、その被害は想像さえできない。


 二人の人物がその場に現れると、数百人の者達全てが跪く。


「よい、皆の者、面をあげよ。そして立ち上がるのだ」


 フードの男が言葉を掛け、その者たちを立ち上がらせる。


「お前たちは異世界への尖兵だ。お前たちがやるべきことは、狂神獣が暴れまわった場所で、その地域の人類を恐怖で支配し、私たちの思うままに動く奴隷とすることだ。すでに下地はできている故、簡単な仕事になるだろうが、ゆめゆめ失敗などすることのないようにな」

『はっ』


 フードの言葉に全員が同時に返事する。


「それでは転送の準備に入ります」

「頼んだぞ」

「はい」


 靄は寄り集まった一本の柱の下へと向かう。そこには、いびつな端末のような装置が光を放っていた。靄はその端末を流れるように扱い、キーボードに当たる部分をカタカタと叩き始める。

 

 二、三分程経つと、寄り集まった柱の隙間から光が漏れ始めた。


「リスポーンシステムへの介入準備が整いました」


 靄の声に呼応するように柱の近くに鮮血のように赤い複雑な文様の円陣が描かれる。


 この装置はダンジョンシステムに介入するための端末の一つであった。この装置によってダンジョンシステムに介入し、モンスターの復活に紛れ込ませて、最下層の者達を異世界へと送るのである。


 今回は足掛かりとして狂神獣を送り込んだダンジョンの近くにある他のダンジョンに送り込む。


「行け!!魔界《ラース・イェラ》の者どもよ!!異世界を我らの世界に塗り替えるのだ!!」

『はっ』

 

 フードの男が声を張り上げると、数百人の異形の者共が陣の上に乗り、眩い光を放つとその場から忽然と姿を消した。


「さて我は吉報を待つとしよう」

「はっ」


 見送り終わったフードの男はその場を立ち去り、靄だけがその場に残る。


「問題なく転送は成功したようですね」

『はっ』


 端末から最下層民の声が返ってきた。


 端末には通信機能も備わっていた。問題なくモンスターのリスポーンに紛れ込んで異世界のダンジョンへと送り込むことができたようだ。端末から送られてくるデータからも異常は見られない。


「それではお仕事を始めてください」

『承知しました』


 靄は指示を出して通信を切る。


「おや、早速異世界の者と接触するようです。どうなるか楽しみですね!!」


 靄は端末から送られてくる情報を見ながら、そののっぺらぼうの顔の中に浮かぶ、口を大きくゆがませるのであった。


 こうして誰も知らない所で世界に危機が迫りつつあった。

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