第068話 いつから絡まれていないと錯覚していた?

 俺はダンジョンアドベンチャーで結構時間を使ってしまったので、その日はそのまま寮へと戻って眠りについた。


 翌日の放課後。今日もシアはダンジョン探索部の勉強会があるというので、俺一人でDランクダンジョンに向かっていた。


「後はバスに乗れば二十分で着くな」


 俺は電車から降りてバス乗り場に辿り着き、ダンジョン行きのバスに乗り込んだ。そこには探索者が十数人程すでに乗り込んでいた。誰もがきちんとした防具を身に着けていて、武器の類はダンジョン近くの組合の出張所に預けているのか持っている人間はいない。


 ただ、その中で俺はかなり浮いてた。なぜならジャージにプロテクターだからだ。


「ぷっ。あいつだっせぇ」

「言うなって。なんとかEランクに上がって必死なんだろ」

「キャハハハハッ。なにあれ~、ジャージじゃん」

「お前みたいな雑魚がこんな所にくるんじゃねぇよ!!」


 いやぁ、全くその通りなんだけど、買いに行ったら全部壊れたんだよ……。


 俺はその言葉に反応することなく、吊革につかまって外を眺めていた。


 探索者には能力の云々とは関係なく、こういう弱者を馬鹿にする人間達も存在している。俺は関わりたくもないので森林ダンジョンのことを考える。


 ボーナスダンジョンより強いんだろうから今度こそ俺のパンチでもはじけ飛ばないモンスターが普通に出てくるに違いない。楽しみだなぁ。

 

『グルルルルッ』

「ラック静かにしろよ」

『クゥン……』


 影の中でラックが唸っていてうるさいので静かにさせた。それから二十分後、バスはダンジョンに辿り着いた。


「よし、さっさと行きますか」

『ウォン』


 ラックが影の中で俺だけに聞こえるように鳴く。


「おいちょっと待てよ」

「さっきはよくも無視してくれたじゃねぇか」


 さて、ダンジョンの中に入ったらまず出来るだけ気配を消して進むようにしよう。Dランクモンスターと言えばグミックとは比べ物にならないって話だからな。


「おい!!聞いてんのか!!」

「お前舐めてんのか!?」

「こいつ~、めっちゃムカつくんですけどぉ」


 暫くはラックの影の中で様子見するのはいいかもしれない。ラックの影は高ランク探索者にもバレない程の隠密性を持つ超高性能な能力。Dランクモンスターにも有効に違いない。


「てめぇ、いい加減にしろ!!」

「やっちまえ!!」

「ぶっ殺す!!」


 それから五感や直感の力をもっと検証してみるのもよさそうだ。今の所透視できる力が目覚めたけど、それ以外は全然分かってないからな。


「う、腕がぁああああああ!!!」

「ぎゃあああああ!!足、足がぁああああ!!」

「熱い!?なんで私の魔法が返ってくるの!?ひ、ひぃいいい!!」

「なんで俺に毒が……?ブクブク」


 なんだか後ろが騒がしいなと思ったら、先程の素行の悪い探索者が転げまわったり、尻もちをついたりして叫んでいた。


 この人たちは何やってんだろう。


 なぜか俺も見られている。


 ああ~、俺がジャージだからだな。


 俺は一人で納得した。


 一人は腕と手の指が全部変な方向に折れ曲がっていて、もう一人は足がおかしな形に捻じれ曲がり、女の探索者は燃え上がり、最後の一人は肌が紫色に変色して口から泡を吐いていた。


 こんな所で何をやってるのは分からないけど、怪我をしているならしょうがない。ついさっき色々仕入れてきたばかりのポーション類を使って助けようか。


「大丈夫ですか?」


 俺は四人に近づき、かがんでニッコリと笑って話しかける。


 第一印象は大事だ。


「ひ、ひぃいいいいいい!!許してくれぇ!!」

「悪かった。俺が悪かったからぁ!!」

「こ、来ないで、来ないでよぉ!!」

「ゆる……して……」


 四人はなんとか俺から逃れようとして後ずさる。


 俺なんもしてないよね?

 なんでこんな怖がられてんだろ?


「ラック、お前何かしたのか?」

「クゥウウン?」


 俺は意味が分からず小声でラックに確認してみたけど、心当たりがなさそうな声が聞こえた。


 うーん、俺が何かした覚えはない。とにかくこのままじゃこの人たちも辛いと思う。


 俺は後ずさる彼らに構うことなく、鞄からさっき買ったばかりの中級の回復ポーションと解毒ポーションを使ってやった。


「ラック、あの炎どうにかできるか?」


 一人火に巻かれているギャルっぽい女性は、まず炎をどうにかしなければならないけど、俺は何もできないのでラックに尋ねる。


「ウォン」


 ラックが肯定の意志を伝えてきたと同時に、炎は綺麗さっぱり消えた。


「これで最後っと」


 俺は最後にギャルにポーションを使って回復させた。


 折れ曲がったり、ねじ曲がったり、大火傷していたり、毒っぽいものに侵されていたりしていた人たちは全員回復した。実際に使ったのは初めてだったけど、中級ポーションって凄いな。


「怪我の具合はどうですか?」


 俺は怪我が治った探索者たちに声を掛ける。


「もう絡まないから勘弁してくれぇ」

「悪かった、俺達が悪かったからぁ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「絡んで悪かったぁ。もうこんなことしないからぁ」


 口々に土下座で頭を下げる四人の探索者。




 え?俺って絡まれてたの?




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