第067話 とある探索者専門店店長の思惑(第三者視点)
豊島区のショッピングモールにある探索者専門店『ダンジョンアドベンチャー』の店長城ケ崎桃花は自宅のソファーに横になって今日の出来事を思い返していた。
「一体何者なのかしら?」
思い浮かべるのは自社製の武具の悉くを破壊してくれた高校生くらいの男の子。顔はイケメンと言う訳ではないが、それなりに整っており、服装は最近のトレンドを取り入れてお洒落な印象だった。
これからDランクダンジョンに潜ると言うことで武具を買いに来たという。
EランクかDランクの探索者だろうと辺りを付け、そのくらいの冒険者に適正の商品を部下に持ってこさせて試させたが、彼が動くなり防具は全て粉々になってしまい、武器の類は持ちて部分が破壊され、先だけがどこかに飛んでいって、並の探索者の攻撃では傷すらつかないはずのミスリル製の壁に深々と突き刺さる。
そんなあり得ない光景が彼女の前に広がった。
彼が帰った後に全武具の性能を確認したが、彼が壊したもの以外は全て何のも問題もなかった。
勿論彼のランク以上の武具を提供することもできたが、Dランクの武具でさえかなり高価な商品であり、Cランクともなればその値段はさらに跳ね上がる。まさかあり得ないとは思うが、その武具まで破壊されたとあっては店としての損害は計り知れない。
今回の件でさえ、上司からかなり怒られるであろうことがありありと分かるのに、それ以上となれば、自分の身もどうなるか分からない。桃花も仕事に流石にそこまで身を捧げてはいない。
ただ、彼の意味不明な実力以上に理解できなかったのは、彼が武具を壊したお詫びとしてバッグの中から取り出した物だった。
それはAランクモンスターが落とす魔石。
これからDランクダンジョンに潜ろうという探索者が出すことがありえないはずのドロップアイテム。
そんなアイテムを一体どこで、どうやって手に入れたのか。
彼の言動から推測するに彼はEランクかDランクのはずだ。当然Aランクダンジョンに入ることはできない。それなのにAランクの魔石を5つ軽く出してみせた。そう、まるでもっと沢山持っているとでも言うように何の躊躇もなく彼はポンと、桃花の前に魔石を置いたのだ。
価値を知らないということはないはずだ。今回の武具の総被害額とそれほど変わりのない程度の価値の魔石だったのだから。それにも関わらず、何のためらいもの無しにAランクの魔石を出せるということは、彼にはAランクダンジョンの魔石を簡単に、それも定期的に手に入れる術があるということだ。
「せめて名前くらい聞いておけば良かったわね……はぁ」
桃花は今になって後悔していた。
気が動転していたとはいえ、得体は知れないが、あれ程有望な人間ならつなぎを作っておきたい。いやそれどころかあれ程の力を持っているのなら自分の会社に是非とも欲しい。
一応探索者であり、この近辺に住んでいるだろうことは分かっているのでまたチャンスはあるだろうが、チャンスは一度きりということも少なくない。
桃花は絶対に逃がさない、そう決意した。
「そうと決まればいろいろ動かなきゃね」
彼と懇意になるためにはそれ相応の価値がダンジョンアドベンチャー、ひいては自分自身に価値があることを示す必要がある。
今回のような生半可な武具では二の舞になってしまうだろう。ということは最高ランクの武具を用意しておかなければならなかった。それには上層部をどうにか丸め込まなくてはならない。
そのためには相手の情報が不可欠であった。
「もしもし、城ケ崎だけど」
「……」
「ええ、ちょっと調べてほしい人間がいるのよ。頼めるかしら」
「……」
「そう。ありがとう。特徴は……」
桃花はどこかに電話をして一人の少年の調査を依頼した。
その相手は彼女が最も信頼している探索者。その探索者に集められない情報はないとさえ思っていた。
「報酬の前金はいつもの口座に振り込んでおくわね。ええ、それじゃあね」
彼女は依頼を終えて電話を切ると、携帯電話をソファーの上に放り投げ、立ち上がり、おもむろに服を脱ぎながら、浴室へと向かった。
「これから忙しくなりそうね」
桃花は全てを脱ぎ去り、浴室のドアに手をかけると同時に、そのおっとりとした端正な顔立ちからは想像できないような妖艶な笑みを浮かべていた。
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