第066話 まさかレベル、スキル、能力値だけじゃない?
一度寮に戻った俺は、着替えてショッピングモールにある探索者専門店『ダンジョンアドベンチャー』にやってきた。
この店は全国で展開していて、探索者専用の武器防具、魔法で機能が付与されている道具、ポーションなどの魔法薬など、普通の店では扱うことが出来ない商品を取り扱っている。
全国展開していて、汎用性が高く、多くの探索者が扱える商品がメインの為、個人経営の店よりも非常にお安くなっていた。
「いらっしゃいませ~」
俺が店に入ると、近くにいた店員が挨拶をしてくる。
それを尻目にひとまず自分で探すべく、天井からつり下げられた取り扱い商品のジャンル別の案内板を頼りに、武器防具が置いてある区画へと向かう。
武器防具の区画に着くまでに様々な商品が目に入る。数週間前だったら全く手に届かなかった商品も今なら余裕で手が届く。そういえば税理士さんにはダンジョン関係で何かを購入したら領収書をもらえるようにと注意されていた。今日はきちんと領収書を受け取るようにしないといけないな。
「ここが武器防具のある場所か」
俺が辿り着いた場所にはショーケースが置いてあり、中に武器と防具が並べられていた。基本的に高い物が多いので直接触ることが出来る状態は防犯面に不安が残るため、触る場合は店員監視の下でということになる。
もちろん店員もそれなりに戦える探索者が一人は常駐している。少なくともDランク以上の戦闘力はあるはずだ。すでに引退した探索者たちの良い就職先になっているという話を以前ネットで見たような気がする。
俺は中に置いてある武器を眺める。
剣、槍、斧、刀、槍斧、ハルバート、弓、クロスボウ、銃、杖、鈍器、ナックル、クロー、糸、スリング、投擲武器、農具、調理器具、箒、本等、様々な武器が置いてある。
正直に言えば、剣や刀あたりで戦えればとてもカッコいいと思うんだけど、残念ながらそんな経験はないので、一番使い慣れている拳や足を使える武器が一番いいとお思う。次点で鈍器系かな。
剣を使えるシアがとても羨ましい!!
「はぁ……」
思わずため息が出る。
「何かお探しですか?」
そんな俺に近づき、声を掛ける人がいた。気づいていたけど、特に敵意も感じないので気にしていなかった。
一体誰だろうか。
振り向いた先に居たのは店の制服を着た二十台の半ほどの女性店員だった。
引退した探索者が多いって話だったけど、こんな若い人もいるんだなぁ。
「はい。実はDランクダンジョンに潜るんですが、どんな装備がいいかと思ってて……」
俺は彼女の質問に言いよどみながら答える。
「まぁ……まだお若いのにもうDランクダンジョンだなんて優秀なんですね」
「いえ……はははは、俺はそんなことないですよ」
「あらあらご謙遜を」
俺は死んだ目で笑顔を浮かべると、彼女はくすくすと笑う。
レベルもスキルも能力値もない俺を捕まえてこの人は何を言ってるんだろうか。
「それで装備の方向性などはお決まりですか?」
「はい。基本的に殴ったり蹴ったりして戦うのでナックル系の武器がいいかと思っています。防具はそれに合わせて動きを阻害しない比較的軽装なものがいいですかね」
店員が話題を変えて本題を尋ねて来たので、俺が考えていた内容を伝える。
「なるほど格闘術ですか。剣や刀を選ぶ方が多いのに珍しいですね。さぞお強いのでしょう」
「いえ、そんな大層なものでは……」
店員が何かを俺をヨイショしてくるが、俺は苦笑で返すしかない。
早乙女先輩の動きを取り入れた自己流だなんていえない。
「しかし、少々勿体ないですね」
店員が少し中空を見て考えた後、そんなことを言う。
「何がですか?」
「いえ、先程も言いましたが、初めて武器を購入される方々は、剣や刀など、ファンタジーによく登場する武器を選ばれる傾向がございます。それを、何も試さずに決めてしまうのは可能性の喪失。他の武器や防具も試されてみてはいかがでしょうか」
確かに熟練度があるため、今までは殴る蹴るしかやってこなかったけど、これを機に武器を使ってみるのも悪くないかもしれない。
「分かりました。他の武器や防具も試してみたいと思います」
「承知しました。この店の裏には訓練場もございますので、そちらでお試しいただけます。ご案内しますね」
「ありがとうございます」
俺は店員の案内に従い、訓練場へと向かった。
「いかがですか?」
「結構広いですね」
案内された場所はそこそこ広く、テニスコート四面分くらいはある。ショッピングモールと言えばテナントに店が入っているイメージだけど、ここはこの店が入る前提で造られているのかもしれない。
「店長、お持ちしました」
「ありがとう。そこにおいてくれる?」
「分かりました」
俺たちの後に別の店員が入って来て、色々な武器や防具を大きな台車のついた乗り物に乗せて運んできた。
それにしても、この人が店長!?
人って見かけによらないんだなぁ。
この人は見かけはおっとりした雰囲気を身にまとうゆるふわで綺麗な女性だ。とてもではないけど、店長をやっているようには見えない。
「あら、どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません」
「そうですか?こちらはDランク探索者に人気の武具です。早速試してみましょう」
「分かりました」
彼女に連れられて併設された試着室で俺は着替えた。
「なかなかお似合いですよ?」
「そうですかね?」
見た目を綺麗に人に褒められて悪い気はしない。探索者としての能力はまだしも外見に関してはかなり努力したので嬉しい。
俺はまんざらでもない気持ちになった。
俺が今着ているのはフルプレートアーマーと呼ばれるタイプの鎧。それに西洋剣を手に握って佇んでいる。
なんというか強くなったような気分になる。
「さて少し動いてみてはどうですか?」
「いいんですか?」
「大丈夫ですよ」
「分かりました」
俺はめちゃめちゃ軽めに甲冑を着たまま、本当に動きを確認する程度に、シアの剣術を思い出して剣を振った。
ふむふむ。金属鎧は重いかと思ったけど、探索者の頑丈さと筋力があれば羽のように軽いんだな。剣も結構長い剣だったけど、問題なく振る事できた。
「ふぅ」
「そんなに軽くで大丈夫ですか?」
俺が一息つくと、店長さんが挑戦的な笑顔で俺に尋ねた。
「いや、壊しちゃったりしたら怖いなって」
「弊社の製品は非常に頑丈に作られています。ちょっとやそっとじゃ壊れないので、もっと思いきり動いてもらっていいですよ」
「そ、そうですか!?わ、分かりました」
俺が困惑しながら頭を掻くと、彼女は少し不機嫌な顔で俺にグイっと顔を寄せた。美人な顔が近づいてきて直視がキツいので、俺はさっそく戦闘モードで動いてみることにした。
「ふっ!!」
―パァンッ
俺が本気で動いた瞬間、すさまじい破裂音が響き渡った。
『え!?』
俺と店長さんの声が重なる。
俺の視界に何かの破片の数々が飛びちり、体を覆っていた真綿のような重さと、手に握っていたはずの重さが消えていた。
俺は自分の体をあちこち確認すると、鎧がバラバラに砕けて辺りに散らばり、剣の柄が砕け散って、その先が振った先の壁に深々と突き刺さっている。
あれ?俺が動いただけで壊れちゃったみたいだけど、どういうこと?
「えぇええええ!?」
暫く沈黙していた店長さんが思いきり天に向かって叫んだ。
「一体どうなってるの……?欠陥品だったのかしら……」
しかし、すぐに少し俯いて考え込む。
「あの~、大丈夫ですか……?」
「ああ、いえ、こちらこそなんだか勧めておいて欠陥品だったみたいで申し訳ありませんでした。しかし、これでは、このままお返しすることはできません。欠陥品しか提供できなかったとあっては、ダンジョンアドベンチャーの名が廃ります!!他にもございますので、どんどん試してみましょう!!」
俺が恐る恐る彼女に話しかけると、ハッとした彼女が気を取り直して胸をトンと叩いて自信ありげに答えた。
しかしその後、俺が本気で動いて壊れない装備はなかった。
「一体どういうことなのぉおおおおおおおおおおおお!?」
店長さんは最後にはそんな悲痛の叫びをあげた。
「あの~、今日はなんだか俺が迷惑かけたみたいなので、これで勘弁してもらえませんか?」
申し訳なくなった俺はバッグから超ボーナス魔石を五つ取りだして、装備を載せている乗り物のちょうどいい高さの場所に置いた。
「は?」
それを見た店長さんは目を丸くする。
今日壊した武具の金額に及ぶかどうかは分からないけど、一応五百万円相当の魔石だ。損害の多くは補填できると思うんだけど……。
「いえいえいえ、そんな高価な物お受け取りするわけないにはございません!!」
彼女は顔色を変えてクビをブンブンと横に振り、手を体の前でバタバタと振った。
お店としての誇りやプライドからか受け取ってはもらえないらしい。
「でも、全部壊してしまいましたし……」
「それはこちらの落ち度ですからお気になさらず」
「それじゃあ、俺の気が納まりませんし……」
「いやいや……」
「でもでも……」
それからもお互い譲らない攻防が続いたけど、結局店長さんが折れることはなかった。
「それじゃあこうしましょう。こちらは武具を提供できませんでしたので、それ以外の商品をご提供する。お客様にはその商品をご購入いただく、ということでいかがでしょうか」
「分かりました。それでお願いします」
ということで、お互い譲らなかった結果、こういう感じで落ち着いた。
「うーん、ひとまず武具なしでダンジョンに行ってみるか。逃げるくらいはできるだろ」
俺はポーション類をたくさん買って店を後にする。
装備が全部欠陥品って言うのは流石に商売としてあり得ないと思うし、一体どういう事なんだろうか。
「まさか俺って特定の物以外装備できないとかないよな?」
そんな俺の呟きは風に流れて消えた。
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