第056話 タイミングが良すぎる知らせ
「今日は勉強会」
シアがホームルーム終了後に俺に向かってポツリと呟く。その表情はそこはかとなく悲しげだ。
ああ~、なるほど、そういうことか。
「今日はダンジョンに行けないってことか?」
「そう」
アホ毛も一緒に萎れている。
ダンジョンに行けないことがとても残念らしい。
「まぁ勉強会は参加必須だからな。また勉強会がない時に行こう」
「ん」
「それじゃあ、また明日な」
「明日」
思いがけず今日は一人になってしまった。
うーん、ラックの影ならいつでもあそこに入ることが出来る。組合の調査隊が封鎖している今、俺は朱島ダンジョンの浅層でひっそり稼ぎ放題だ。なかなか悪くない。
しかし調査隊がいる以上、あまり奥に行くこともできない。奥に行けば強いモンスターがいるかもしれないが、調査隊との鉢合わせの可能性がグッと高まる。
俺の運が高すぎて一発で死なないモンスターが現れない以上、早くDランクダンジョンに行って一発で倒すことのできないモンスターと遭遇したい。ラック以上に強いモンスターがいるかもしれない。
「やっぱりランクアップしたいよな……」
―プルルルルッ
そんなことを呟いた時だった。
俺の携帯電話がなった。
「もしもし」
『もしもし、こちら探索者組合豊島支部ですが、佐藤普人様の携帯電話でよろしいでしょうか?』
「はい、そうです」
電話に出てみると探索者組合の職員からの電話であった。
『私は探索者組合豊島支部の灰島と申します。よろしくお願いいたします』
「よろしくお願いします」
『この度連絡を差し上げたのは、暫く組合の方にお越しになられていないようなので、お知らせしたい情報があったのですが、お聞きになっておられないと思われます。つきましては一度支部の方にお越しいただくことは可能でしょうか?』
そういえば俺って買取所にしか行ってなかった。
何か連絡したいことがあったらしい。電話で話してもいいような気がするけど、その辺りは情報保護とかが絡んでいるのかもしれない。
「えっと、ちょうど時間があるのでこれから行っても大丈夫ですか?」
『はい、組合は夜二十二時まで営業しておりますので問題ございませんよ』
組合って思ったより遅い時間までやってるんだな。
その辺りは多分探索者に合わせているんだと思う。
「分かりました。それではこれから行きます」
『承知しました。担当窓口は五番になりますので、そちらで予約の方の整理券を発行してお待ちください』
「了解です。ありがとうございます」
『いえいえ。それではお待ちしております。失礼いたします』
「はい、失礼します」
―プツッ、ツー、ツー、ツー
電話が切れると、俺は一度寮に帰宅して着替えてから豊島支部に向かった。
『探索者組合豊島支部前~、豊島支部前~』
探索者組合へは電車に乗った後、バスに乗って約三十分ほどかかった。
もしかしたら走ってきた方が早かったかもしれない。帰りに歩いて帰って次来るときはその道を走ってきてみようかな。
―ウィーン
自動ドアが開き、探索者組合の中に足を踏み入れる。中は地元の組合とあまり変わることのない内装で病院のようだった。
「五番窓口はっと…………あそこか」
組合内を見渡して窓口を見つけた俺は、早速窓口に向かって整理券を発券し、近くのベンチに腰を下ろす。時間が夕方ということもあって以前地元で来たときよりも混んでいる印象だった。
「整理券番号一〇三四番の方、こちらにお入りください」
予約だけあって比較的早く、十分くらいで俺の番がやってきた。
「お待たせしました」
「いえいえ、全然待ってないですよ」
中に入ると電話で聞いた声の主が立って待っていた。
二十台後半程度の綺麗な女性だ。
探索者組合って綺麗な人多いのかな?
探索者組合の就職試験を受けてみるのも悪くないかもしれない。
なんて考えてしまった。
「それではお座りください」
「あ、はい」
灰島さんに促されて対面の椅子に腰を下ろすと、灰島さんも自分の席に座った。
「改めまして灰島と申します。よろしくお願いします」
「佐藤です。よろしくお願いします」
「それでは早速ですが、今回お伝えしたかった内容についてお話しします」
お互いに自己紹介すると、本題に入る。
「佐藤様の探索者の貢献度が一定水準を達成しましたので、ランクアップ試験に挑戦することが可能です。いかがなされますか?」
「え!?本当ですか?」
「はい、もちろんです」
俺は驚愕の事実を齎された。
な、な、なんと!!ランクアップできるらしい。
FランクからEランクに上がるのは簡単だと聞いていたけど、自分は最底辺なのでまだ先の事だと思っていた。
一体いつの間に!?
これはボーナスモンスターのおかげかもしれない。
「それは、ぜひ受けさせていただきたいです」
「わかりました。ご予定はいかがですか?」
「毎日受けられるんですか?」
「そうですね。低ランクの試験に関してはほぼ毎日受けることが可能です」
へぇ、それなら早くランクアップしたい。
「そうですか。できれば早い方がいいので明日がいいです」
「承知しました。お時間はいかがされますか?」
「そうですね。時間は十八時頃でも大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません。明日の十八時で予約しておきますね」
「ありがとうございます。何か必要な持ち物とかありますか?」
「そうですね。ダンジョンに潜る格好でE級の浪岡ダンジョンにお越しください。それ以外は探索者カードをお持ちいただければ大丈夫ですよ」
ここで試験するわけじゃなくてダンジョンでやるんだね。
どんな試験なのかな。
「分かりました。よろしくお願いします」
「はい、承知しました。他に不明点はございませんか?」
「そうですね、試験内容や合格条件、合否の発表って教えてもらえますか?」
「はい、具体的な内容は差し控えますが、Eランクへの昇格試験はEランクダンジョンでのモンスター討伐になります。担当の試験官が付きますのでその担当からの指示に従ってください。合格条件に関しても同様です。また合否に関してはその日のうちにお伝え出来ると思います」
「分かりました」
「他にはございますか?」
うーん、後は大丈夫かな、多分。
「後は大丈夫です」
俺は他に考えてみるが、特に思い浮かばなかったので首を横に振った。
「それでは本日のご案内はこれにて終了とさせていただきます。明日は五番窓口に時間前にお越しください」
「分かりました」
俺は明日ランクアップ試験を受けることになった。
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