第055話 逃がしてもらった犬

「ん」


―スパァンッ


 シアが最後の一匹を一刀両断する。シアは最初こそ戸惑うことがあったけど、特に危なげなく、モンスターを倒すことが出来るようになっていた。


「お疲れ様」

「ん」


 シアに近づいて声を掛けると、彼女は頷く。


「レベルはどう?」

「結構上がった」


 二日間で結構倒してるので、そこそこ上がっているらしい。

 分かりにくいけど、ホクホク顔をしている。

 アホ毛もサムズアップを描いていた。

 それだけ上がっているとなると心配になることがある。


「まだ上がりにくくはなってない?」

「ゆっくりにはなってきた」


 やっぱりか。


 スライムでも倒しまくればレベルは上がる。

 でも一定まで上がればかなり上がりにくくなってしまう。


「別の所に行く?」

「しばらくここでいい」

「そっか」


 そう思って尋ねてみたけど、シアは首を横に振った。


 俺としてはお金も沢山稼いだし、そろそろDランクダンジョンに挑んでみたい。そのためにはまず昇格試験を受ける必要がある。俺のような底辺がランクアップできるか分からないけど、せめてシアと同じランクになっておきたかった。


「ウォオオオオオオオオンッ」


 戦い終わり会話している所に聞き覚えのある声が近づいてくる。


 時計を見るとそろそろ決めた時間である十時近い。しっかり時間を守って帰ってきたようだ。時計とか身に着けていないのにほとんど言われた通りの時間に帰ってこれるなんて、ラックは優秀な体内時計をもっているらしい。


「ウォンッ」


 ラックは俺たちに近づくにつれ体を小さくし、最終的にいつもの大型犬サイズに変化した。


「小さくなった。残念」

「大きくて邪魔だからな」


 小さくなってしまったラックを見て残念そうに表情を少しだけ曇らせるシア。


 あんだけ大きいと邪魔だし、目立つし、邪魔だからね。仕方ない。


「そろそろ帰る時間だ。帰りますか」

「ん」


 俺とシアは影に潜ってダンジョンから外に出ると、寮への帰り道をのんびりと歩いていく。


「また明日」

「ん」


 特に会話もなく寮に帰って風呂に入った後、部屋に戻るとラックがクワァッと大口を開けてあくびをしていた。


「ラック、今日は楽しかったか?」

「ウォンッ」


 ラックの顔を両手で挟んでワシャワシャと撫でながら尋ねると、ラックは小さく鳴いて頷いた。


 久しぶりに本来の姿で暴れられて嬉しかったようだ。


「何か起こったりしなかったか?」

「ウォンウォンッ」


 否定のために二回鳴いたラック。


「ん?何かあったのか?」

「ウォンッ」


 今度は肯定するようにラックが頷く。


 どうやら何か起こったらしい。

 ラックは器用にジェスチャーし始める。


「何々?モンスターを追うのに夢中になっていたら、調査をしている人間に見つかって、攻撃された!?」

「ウォンッ」

「おいおいどこも怪我しなかったのか?」


 俺はラックの体をまさぐってみたけど、特に傷跡のようなもの見つからなかった。


「ウォンッ」


 ラックは再び俺から離れて身振り手振りを始める。


「何々?攻撃されたけど、手加減してくれたから問題なかった、だって?」

「ウォンッ」


 肯定。


 なるほどな。ラックが弱くて可哀そうだから逃がしてくれたのか。

 探索者だったらモンスターは殲滅しそうなものだけど、その調査チームは優しい人ばかりで構成されていたんだろうな。


「何事もなかったみたいで良かったよ」

「ウォンッ」

「お~、よしよし」


 俺が心配していたのが伝わったのか、ラックが頭を擦り付けてきたので、ひとしきり撫でまわして癒される。


 とにかく無事に帰ってきてよかった。


「でもいいか、次からは夢中になって人間達と会わないようにするんだぞ?」

「ウォンッ」


 今回はたまたま見逃してもらえたからよかったけど、次に遭遇したらどうなるか分からない。


 調査チームのようなエリートの探索者に攻撃されたら俺じゃあ守ってやれない。


 ラックみたいに便利……コホンッ……モフモフで可愛いペットが殺されるのは嫌だからな。影の隠密性がかなり高いから、中に入ればやり過ごせるかもしれないし、とにかく鉢合わせないことが大事だ。

 

 俺はきちんと言い聞かせると、ラックと一緒にベッドで眠りについた。

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