第053話 解き放たれる犬

「うぉおおおおおおおおおお!!俺はハーレムキングになる男だ!!」


 次の日、ステータスに覚醒したアキは教室でハチャメチャに叫ぶ。ステータスに覚醒して力が漲って全能感が湧いているのは分かるけど、もう少し落ち着いた方が良いと思う。


 周りも完全に引いている。


「おいアキ、そろそろ落ち着けよ」

「なんだ普人、俺を止められると思ってんのかぁ!?」


 俺が落ち着かせようとしたけど、全能感に身を任せて俺に凄むアキ。


 あぁ、既に手遅れか。


「せいっ」

「ふげっ」


 俺はほんの軽く手刀を振り下ろすと、アキは教室の床に突っ伏した。


「いってぇええええ!?」

「いやいや、それほどでもないだろ」


 アキが頭を押さえて涙目になって叫ぶ。


 でも、俺は日常生活に支障が出ない程度の力で振り下ろしただけだぞ?そんなに痛いはずないよな。


「マジ痛いから」

「まぁお前がおかしくなっていた自業自得だな」

「もう少しやり方ってものがあるだろぉ?」


 アキは涙目のまま俺に詰め寄ってきたけど、流石にあのままだとマズいので、元に戻って良かったと思う。


「それに、男はもう少し余裕があって冷静な方がモテると思うぞ?モテない俺が言うのもなんだけどな」

「た、確かに……。俺はクールで知的な男を目指すわ!!」


 俺が諭すように囁くと、アキも思い当たる節があったのか、その剣幕を収めてくれた。


 まぁそう言うことで納得してもらおう。


 それにしてもアキもそうだったけど、他の探索者メンバーも全員大なり小なりソワソワとしていた。おそらくその力をもっと試したくて仕方がないんだろうな。


 その気持ちは俺もよく分かる。


 俺みたいな最底辺の探索者でも確かに力が少し漲るのを感じたのだから、探索者エリートの彼らはその比ではないと思う。


 教室では終始ソワソワした雰囲気のまま授業が進行していき、全授業が終わるなり探索者の連中はいなくなってしまった。


 多分パーティでダンジョン探索に行くんだと思う。


「そんじゃ俺も行くわ!!パーティ決めあるからよ!!ハーレムパーティが俺を待ってるぜ!!」

 

 アキもそう言ってそそくさと教室を去って行った。


 すでにパーティを組んでいる俺たちは昨日と同じように公園で待ち合わせをして、再び朱島ダンジョンへと潜った。


「今日はどうする?戦ってみるか?」

「ん」

「了解。ちょっと待っててくれ」


 昨日は終始俺が敵を倒してばかりだったので、今日は自分で戦ってみることにしたらしい。


 昨日もそうだったけど、俺はシアに付きっきりになるので、ラックを構ってやることができない。だから俺はラックが目いっぱいストレス発散ができるようにしようと考えた。


「ラック。今日もシアに付き合うからラックは好きにダンジョンの中で狩りをしていいぞ。時間は十時にはここに戻ってくること。ただし、中にいる人間に出来るだけ会わないようにしろよ?俺たちは本当はここに入っちゃダメなんだからな。それと、もし遭遇しても攻撃したりしないように。お前なんて殺されちゃうからな?すぐに逃げて来いよ」

「ウォンッ」


 俺の言うことを理解したラックがダンジョンの奥に向かいながら元の大きさに戻って去っていった。


「おっきくなった」

「あれがラックの元の大きさだよ。大きいだけで強くないけどな」

「ん。おっきいモフモフ可愛い」

「モフモフいいよな」

「ん」


 大きくなったラックに驚いたようだけど、モフモフが大きくなったのが彼女の琴線に触れたらしく、目に好奇心が宿っている。


 後で大きなラックを触らせてやるのもいいかもしれないな。


「それじゃあ、今日もボーナスモンスター狩りを頑張りますか」

「ん」


 俺達は小さくなるラックの背中を見送ると、俺が先導して黒モンがいる場所に歩いて進んだ。


 そこに居たのは黒いオーク。


 出来る限り気づかれないように近づいた後、シアが黒オークに襲い掛かった。


「ん」

「ギャアアアアアアアア!!」


 シアの持っている何らかの力を宿しているであろう美しい西洋剣が煌めく。


―スパァンッ


 黒オークはアッサリと一刀両断されて煙のように消え、魔石とオークドロップが遺された。


 うんうん、やっぱりこのダンジョンの敵は弱いんだな。

 シアもちゃんと一発で倒してるし。


「~!?」


 一方シアは何か理解できないことが起こったかのように愕然とした表情を浮かべた。


「どうかしたか?」

「簡単に切れた」


 俺が気になって尋ねると、シアは剣を見つめながら短く呟いた。


 なんだろう。前回よりも簡単に切れたって事かな?


「レベル上がったのならそういうものなんじゃない?」

「ん~、そうかも」


 レベルの事を伝えると、しばらく中空を見つめて考えて納得したように呟いた。


 俺はレベルアップの感覚なんて知らないけどな!!

 シアはすでに俺なんて遠く及ばない存在になってしまったようだ。

 レベルアップ……なんてズルいシステムなんだ。


 はぁ……シアも問題なく狩れるようだし、もっと数の多いところに行ってもいいか……。


「次にいこう」

「ん!!」


 俺は悲しみを押し殺し、一階にいるモンスター達を目指して歩き出した。

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