第052話 普人攻略計画(第三者視点)

「うぃーっす」

「あら、早乙女君いらっしゃい」


 生徒会室で執務をしている北条時音の下に、ダンジョン探索部部長早乙女真司が訪れた。


「時音、お前普人を勧誘して失敗したな?」

「へ!?」


 真司が時音に確信をつく質問を投げかけると、時音は目を見開いて机から顔を上げる。


 まさか真司からその話題を切り出されるとは彼女は思っていなかった。昨日の今日であるし、誰にも話してはいなかったのだ。


「やっぱりか~。普人がウチの部に入部したぞ」

「え!?」


 再び驚く時音。余りに意味の分からない事態に彼女の脳内は混乱する。表情を取り繕うこともできていない。


「どうして入ったか分かりますか?」


 暫くして少し落ち着いた時音はその理由を尋ねた。


「ああ、葛城アレクシアが連れてきた」

「え?彼女がですか!?」


 三度目の驚き。


 とある理由で、あの、人を寄せ付け無さそうな女の子である葛城アレクシアが、普人を誘ったこともまた驚きであった。


 一体何があったのか?


 彼女はとても気になってしまった。


「なぜかは分からないが、普人は葛城に頼まれてそれを承諾したらしい」

「なる……ほど……」


 時音は目に見えて落ち込んだ。


 自分は失敗したのに彼女は成功しているという事実がのしかかってきたのである。彼女も彼女で普人を手元に置きたい理由があった。


 ただ、アレクシアが成功したのは多分に運が絡んでいるのだが、彼女はそれを知らないので落ち込むのも無理はない。


「まぁ待て。まだ落ち込むには早いぞ。部活と生徒会は両立できるんだからな」

「確かにそうですね。でも一度断られていますし……」


 真司に励まされるが、余り失敗したことのない優秀なお嬢様である時音は、一度断られたことですでに諦めムードを漂わせている。


 それに、何度も付きまとうことで彼に嫌われてしまうのではないか、という気持ちもあった。


「お前どういう誘い方をしたんだよ」

「色仕掛けです」

「はぁ!?」


 真顔で答える時音に、真司は大声を出して眼球が飛び出さん程に大きく目を見開いた。


 流石に初手で色仕掛けを行うとはまさかの真司も思っていなかった。しかし少し考えると、そういえば時音は箱入りのお嬢様だったなと思い直す。


 多少ズレた部分があるのも仕方ないだろう。


 真司は自分が参謀について普人を味方に引き入れるプランを考えることにした。


「それでどんな風に迫ったんだ?」

「とりあえず彼の腕に自分の腕を絡ませて胸を押し付けましたわ」

「はぁ……お前な。確かに普人はモテたいと言ったが、やることが最初から距離を詰め過ぎなんだよ」


 時音のとった行動に頭を押さえながら突っ込みを入れる。


「そう……なんでしょうか?」

「お前な。まだ会って間もない男に急に迫られたらどう思うよ」

「それは……怖いですね」

「お前のやってたことはそういうことなんだよ」


 まだ時音と普人が出会って一週間程度。しかもきちんと交流を持つ機会も多くはなかった。


 それほど仲のいい状態でもないのに突然そんなことをされれば、警戒度が跳ね上がっても仕方がないだろう。


 それが時音のように美しい容姿を持ち、歴史ある北条家という家柄も考えれば、何かあると思われても仕方がないのだ。普人が知っているかどうかは別にして。


「確かにそうかもしれません。それではどうしたらいいのでしょうか」


 自分に置き換えて初めて理解した時音は、今後の方針を尋ねる。


「まず第一に、アイツは元々人付き合いが得意なタイプじゃないんだ。だから、いきなり距離を詰めてもだめだ。氷を解かすようにゆっくり時間をかけて仲良くなっていかないとな」

「なるほど」


 時音はなぜか眼鏡をかけてノートにメモを取る。こんなところまで真面目なお嬢様なのである。


「まずはとにかく接点をもつことだ。挨拶したり声を掛けたりして自分の存在が普人の傍に居てもをおかしくないと認知してもらわないとな」

「ふむふむ」

「その後は、他愛のない雑談や相手が興味がある事柄を話すようになるのがいいだろう。まずはその辺りからはじめることにしよう。ある程度仲良くなったら次の段階へと進む」

「分かりましたわ」


 真司のアドバイスによって時音は頭の中で計画を立てていく。


 その計画が真司の予想を超えたものになっていることに気付くのは、少し先の事である。

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