第051話 初めての共同作業?
「ウォン」
ラックの合図で俺達がダンジョンの中に無事に入ることができたことを知る。
「どうやら無事に入ってこれたみたいだ」
「バレるかと思った」
「影の移動は隠密性がかなり高いのかもしれないな」
「ん」
俺とシアは影移動の性能の高さに驚きつつも、中に無事に入れたことに安堵した。
「早速ダンジョンに出るぞ」
「ん」
俺とシアは影の名から這い出してダンジョンに姿を現す。
「魔力が濃い」
「うーん、そうか?」
「ん」
俺には分からないけど、魔力ってのがこのダンジョンは濃いらしい。魔法が使えない俺には関係ないことだけどな。
「それじゃあ先に進むか」
「ん」
先に進もうとすると、シアが俺の服の裾を掴む。
「パーティ組む」
「あ、そういえばそうか」
ステータスを得た探索者同士は、パーティを組みたいという意思を送ると、パーティを組むことが出来る。パーティを組むことによって、誰かが倒したモンスターの経験値がパーティ内で均等に分配されるようになったり、ダンジョン内でのパーティメンバーの位置がある程度分かったりする。
もちろんパーティだからと言って仲間のステータスを無断で見ることが出来るような機能はない。別にEランク程度のモンスターの経験値くらい分けてもいい。というか俺に経験値は必要ないからな、シアが活用してくれるならその方がいい。
ぐすんっ。
パーティを組んでも他者に情報が洩れることはない。それならば俺に拒む理由はなかった。
「俺から申請送ってみるな」
「ん」
俺がパーティを組みたいという意思をシアに向かって念じてみる。
「きた」
『パーティ申請が承諾されました』
彼女が反応したと同時にパーティが組まれたのが感覚的にわかった。
「よし、早速モンスター戦ってみるぞ」
「ん」
準備が終わった俺たちは、ダンジョンの先に進んでいく。
「後二百メートル程先にモンスターがいるぞ。多分ブラックコボリンだ」
「ん」
何も言わない所を見るとすでに分かっていたようだな。
流石だ。
「それじゃあ、俺がまず手本を見せるな」
「ん」
残り五十メートルほどになった時、俺はシアに声を掛けてから隠形をして気配を消しながら進んでいき、スススとブラックコボリンの後ろに回って、拳を打ち出す。
―パァンッ
いつもの通りブラックコボリンははじけ飛んだ。
「わかった?」
「ん」
俺はコボの元から戻ってきて確認すると、彼女は首を振った。
え?マジで?何が分からないんだろう。
「でもレベルアップした」
シアの突然の言葉に俺は絶句する。
く、悔しくなんてないんだからね!!
うぅ~、嘘です!!先生悔しいです!!
レベルアップズルい!!ズルいぞぉ!!俺もしたい!!
俺は心の中で滝のような涙を流した。
「そっか。おめでとう……」
「ん」
俺はなんとか取り繕って笑顔を浮かべて彼女を祝福した。それから何度か黒モンを倒してみせたが、一向に俺のやっていることを分かってもらうことが出来なかった。
やっぱり俺の技術や能力も指導力も並以下で意味不明な事をやっているのかもしれないな。
「ごめん」
「何?」
俺は何も教えられていないので謝ったけど、シアは何を言っているのか分からないという風に首を傾げる。
「いや、鍛えるって言っておきながら何も教えられてないから」
「気にしない。レベル一杯上がった」
俺が頭を下げると、なんとも思っていない風に答えるシア。
それよりもレベルが上がるのが嬉しそうだ。
「そ、そうか?」
「ん。一人じゃできなかった。ありがと」
「そうか……」
高校デビューに失敗したあげく、何も持ってない探索者の底辺である俺でも何かの役に立てるんだな。
なんだか今の自分を少し肯定された気がした。
「それじゃあ、鍛えられないけど、せめてここで上がるだけレベル上げ手伝うよ」
「ん!!」
俺が気分を入れ替えてやる気を見せると、シアもフンスと鼻息荒く両拳を体の前で握って答えてくれた。俺はなんだか気分が良くなってあちこち回って黒いモンスターどもを駆逐してやった。
「ふぅ~。狩った狩った。それで?本当に良かったのか?」
「ん。レベル一杯上げてもらった」
俺はシアのレベルを上げたということで、今日拾った魔石を全部貰った。数十個あるのでそれだけで数百万にはなるんだけどな。あの装備と言い、シアは思った以上にお金持ちなのかもしれない。めちゃくちゃ太っ腹だった。
何度言っても受け取ろうとしないので俺はラックの影収納に仕舞った。
一緒に狩るはずが俺ばかり倒していた気がしたけど、まぁいっか。
「何それ」
「ん?ああこれか。ラックの力で荷物を影に仕舞っておけるんだ」
「ズルい」
それを目ざとく見ていたシアはラックの影収納を知るなり、少し頬を膨らませる。
そういうことをやるキャラだったか、と思いながらも可愛いから許すことにした。弱みを握られていようが、可愛いは正義だから仕方ないね。
「何か入れておきたいものがあるなら預かるぞ」
「いいの?」
「ああ。パーティだからな」
「ん」
うらやましそうに眺めるシアに俺が提案すると、彼女はほんの少し微笑んで頷いた。
シアが喜んでくれるならそれもいいかな、なんて思っていたんだけど、その考えは甘かった。
彼女は次の日からダンジョン関連品のみならず、服や下着の類まで預けてこようとすることを今の俺は知る由もない。
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