第050話 二人だけのひ・み・つ♡
全方位に感覚を研ぎ澄ませたけど、どこにもカメラ等の撮影機材で撮られている気配は感じない。しかし、ここは探索者を養成する施設を持つ学校。俺みたいな底辺が探知できなくて当たり前かもしれない。
嘘告とかってのが流行ってたりしてたし、そういうのは見る側は楽しいかもしれないけど、やられる側がたまったものではないからな。
これからシアと行動を共にする時は気を付けないといけないな。見世物になんてされたくない。気を付けたからと言って俺如きがどうにか出来るとは思えないけど……。
なんだかちょっと憂鬱になってきた。
「ふーくん?」
「ああいや、なんでもない。それで今日から潜るか?」
俺は沈んだ気持ちを振り払うために頭を振ってから彼女に尋ねる。
「ん」
もちろんとでも言いたげに神妙に頷くシア。
でも、潜るって言ってもどこがいいんだろうか。
「どこに潜る?」
「朱島」
分からないので尋ねてみると、彼女は即答する。
あそこは弱いモンスターしか出ないからなぁ。
お金は稼げるけど。強くなりたいならDランクとかに潜る必要がある。
とはいえ、現状俺が潜れるのはEランクとFランクのダンジョンのみ。一つランクを上げてDランクダンジョンに潜れないと申し訳ないな。
できればランクアップしたいなぁ。
「でもあそこは昨日警備が滅茶苦茶増員されてたぞ?」
「入れない?」
彼女の頭には立派なアホ毛が生えていて、表情はそれほど変わらないのにアホ毛が見るからに元気がなくなる。
うーん、どうなんだろう。とりあえず警備員の冒険者達にもラックの影移動は見破られていない。ということは、あの移動方法はかなり隠密性に優れているのではないだろうか。試してみる価値はあるけど、見つからない保証はない。
それにシアを信用できないという部分もある。ラックの事をバラされたら学校で飼えなくなってしまうだろうし、モフモフを堪能できないのは辛い。
でも、シアには股間に頭を突っ込んだり、裸を直視したり、悪いことばかりをしてる訳だしな。俺のペットを見せるのも致し方ない。
それに目の前でそんなに見るからに落ち込まれるとバツが悪いし。
「入れる可能性があるにはある」
「~!?」
シアがバッと顔を上げると同時にアホ毛がピーンと伸びてビックリマークのような形を描き出す。
なんてわかりやすいアホ毛なんだ。
いやいやこれも罠かもしれない、気を抜くな。
「ただ、見つかる可能性もある。それでもいいか?」
「ん」
問題ないとコクコクと首を振る。
「秘密を守ることが出来るか?」
「ん。必ず」
俺の質問に彼女は拳を体の前に持ってきて頻りに首を縦に振る。
そこまで言うなら仕方ないか。
「ふぅ……それじゃあ、朱島ダンジョンの近くにある公園分かるか?」
「ん」
「そこで待ち合わせよう」
「ん」
俺たちはお互いの寮に戻って、俺は準備を整えた後、待ち合わせ場所に走った。
「待った?」
「いや、全然」
俺が来てから暫くしてシアが公園にやってきた。公園はダンジョンから二百メートルほどの距離にある。ラックは影の中に居ても方角や障害物など外の様子が分かるので、ここからなら問題なくダンジョンまで辿り着ける。
それに最近のダンジョンリバースとダンジョン封鎖によって公園に来る人間はほとんどいない。現に今も誰もいないしな。
それにしてもシアの装備がかなり質がよさそうなもので固められていて驚いた。一体どれだけの金額があの装備にかかっているんだろうか。
もしかしたらボーナス魔石を全部換金しても買えないかもしれない。
「それじゃあちょっとこっちに来てくれ」
俺はそんな驚きを顔に出さずに、シアを連れてドーム型の中が土管のような空洞になっている遊具に潜りこんで、手招きして後をついてくるように促す。
「ん」
彼女は頷いて俺の後に続いて中に入ってきた。
「ここで見たこと聞いたことは絶対他言しないでくれ」
「ん」
「ラック」
俺は念を押ししてからラックを呼びだす。
「モフモフ!?」
シアは影からと出してきたラックを見て、無表情ながら傍から見ても分かるほどに眼を輝かせて手をワキワキさせている。
もしかしたら動物が好きなのかもしれない。
「ああ。こいつは俺の従魔ブラックフェンリルのラック。こいつの力を使えば朱島ダンジョンに入れる可能性がある。バレる可能性も高いから止めるなら今の内だぞ」
「やる」
シアの決意は固いらしく、表情はあまり変わらないのに鼻息荒げに応えた。
止める気はないらしい。
「わかった。それじゃあラックやってくれ」
「ウォン」
「わっ」
俺がラックに指示を出すと俺とシアが影に沈む。シアはあきらかに分かるくらいに表情を変えて驚いていた。
「ここは?」
「影の中だ。この中で進むと地表に出ている影も同じように移動して、誰かに見つからずに移動できる」
「凄い」
影の中を見回しながら俺に問いかけたので、答えてやると感心するように頷く。
凄いのは俺じゃなくてラックなんだけどな。
ラックは強くないけど、とても便利な力を持っている。
「これで移動してダンジョンの中に向かう。見つからなければ中まで問題なく行けると思う」
「ん」
「それじゃあ行ってみますか」
俺たちはラックの後についてダンジョンまでの道を歩きだした。
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