第049話 異性が突然親し気になるはドッキリですか?

 今日は同級生の探索者たちは既にダンジョンに行き、ステータスの覚醒を行っているので、ダンジョン専用棟にはいない。俺達以外に覚醒していた人間はたったの一人。今日は来ていないらしい。


 上級生とはあまり一緒になることは多くない。それは授業に近い性質を持っている関係上仕方がないらしい。もちろん交流イベントもあったりするらしいので、そういう時は会えるらしいけど。

 

 だからここにいるのは俺と葛城さんだけだ。


「ダンジョン探索部としては、定期的にある勉強会と実地講習への参加、そして定期試験にきちんと参加し、試験に合格する。最後に、課された最低限のノルマの達成。これ以外の活動は、ダンジョン探索するのも、サボるのも自由だ」

「それでも結構大変なんですね」


 流石ダンジョン探索者の育成を謳っているだけあってしっかりやることをやる必要があるみたいだ。


「まぁな。一応学校を上げてダンジョン探索者を育成することが課せられているからな。それは仕方ないことだ。ただ、お前にそれは当てはまらない。お前は探索者資格を持っているとは言え、特待生の自由参加だからな。お前は基本的に自由だ」

「え!?いいんですか!?」


 俺は早乙女先輩の言葉に驚く。参加する以上同じものを課せられても可笑しくないと思っていた。


「あまり例はないが、お前のように自由参加する奴もいるからな。ただし、お前が葛城とパーティを組むのであれば、実地講習や定期試験には一緒に参加する必要がある。探索者適性推薦者達はパーティを組むことが必須だからな」

「そのくらいは協力は惜しみません」

「ん」


 流石に勉強会にノルマとかまで全部参加しろって言われると、俺もちょっと考える。もちろん葛城さんからのお願いであれば、過去に大変申し訳ないことをしたので、断ったりしなかったと思うけど。


「はぁ……葛城がどうやってこいつを引っ張ってきたか知らないが……」

「ん。お願いしただけ?」

「なんで疑問形なんだ?」


 葛城さんが首を傾げながら無表情で答えると、早乙女先輩は困惑した。


「まぁなんだ。葛城も少し明るくなったな?」

「身に染みた。気をつける」

「そうか、それなら良かったんだが」

「ん。これからはふー君に頼る」


 確かに今日の葛城さんは今までよりも少し丸くなったというか、優しくなったというか、柔らかい印象を受ける。


 そもそも裸を見られたということに対して怒らないことも驚いたし。どこの聖女ですか、なんて思ったりしたもんだ。


 ただ、弱みを握られている限り、俺の心が休まる事はないと思うけど。


 それと、ふーくんってなんだろう?


「とりあえず、普人の入部とお前たちのパーティ登録は認める。手続きはこちらでしておこう」

「よろしく」

「了解」


 葛城さんと早乙女先輩の用件が終わると、先輩は俺の方を興味深そうに見つめた。


「なんですか?」


 俺は居心地が悪くなって尋ねる。


「いやぁ実はまさか本当に戻って来るとは思わなくてな」

「なんだ、ただのハッタリだったんですか」


 根拠があって言ってたもんだとばかり思っていたけど……。


「まぁな。時音の奴が生徒会に入れる思っていたが、お前は葛城の方が好みだったか……。時音とはまた話しておかないとな」


 先輩が俺と葛城を交互に見ながら顎に手を当ててウンウンと頷く。


「えっと、言ってることが分かりませんが……」

「いや、気にするな。忘れてくれ」


 俺が困惑すると、先輩は首と、体の前で手を横に振った。


 好み?何の話だろう?何のことかさっぱりわからないぞ。

 まぁ気にしなくていいなら忘れよう。


「それじゃあ、今日から晴れてダンジョン探索部員だ。普人よろしくな」

「はい、宜しくお願いします」


 俺は早乙女先輩に頭を下げ、部屋を出た。


「ふー君」

「……」


 寮への帰り道。葛城さんが何か言ったが、反応できずに無言のまま隣を歩く。


「ふー君」


 もう一度葛城さんが何か言いながら俺が俺の裾を引っ張る。


「ん?何?葛城さん」

「それ」


 引っ張る葛城さんの方を向き直るとビシッと俺を人差し指で指さす。


「どれ?」

「名前」

「うん」


 もう一度確認すると、名前の呼び方に関することらしい。


「シアって呼んで」

「え!?」


 突然愛称で呼ぶように言われた俺は困惑しかない。


 彼女と俺は罪を許す者と赦される者。彼女が上で俺が下だ。断じて愛称で呼ぶような仲じゃないはずだ。


「私はふー君って呼ぶ」

「ああ!!ふー君か、理解した」

「ん。普人だからふー君」

「やっとわかったよ」


 ふーくんってふー君ってことだったのね。

 ようやく理解した。


「でもなんで?」

「パーティ同士」

「なるほどね」


 俺の疑問に短く答える葛城さん。


 なるほど。パーティ同士で堅苦しい呼び方をするのはおかしい、そう言いたいんだろう多分。それなら分からなくもない。


「ん。シア」

「ん?」


 葛城さんが自分の名前呟くが、何か分からなくて首を傾げる。


「名前呼ぶ」


 そういうことか。


「シア?」

「ん」 


 俺が言われた通りに疑問形になりながらも名前を呼ぶと、シアがほんのり顔を赤らめてかすかに分かる程度に満足そうな表情を浮かべた。


 ふぅ……これってドッキリか何かですか?

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