第047話 遮蔽物が透ける程度の能力
日曜日の夕方までボーナスエリアを楽しんだ俺は、稼いだ金額を予想しながらホクホク顔でダンジョンから外の世界へと帰還した。
「ふぅ~、やっぱり外の空気の方が解放感があっていいな」
影から飛び出して外の空気を吸うと、なんだか久しぶりのような気がするから不思議だ。そんな風に解放感に浸っていると、近くの道を物々しい車が何台もダンジョンの方に向かっていくのが見えた。
「何かあったんだろうか?」
俺は暫く遠くからダンジョンの方を窺っていると、十台の装甲車に酷似した車両から沢山の人間が出てきて、ダンジョンの周りや入り口までの間に展開し、瞬く間にダンジョンの警戒レベルが跳ね上がったのが分かった。
「あの人たちは組合の職員の人達か?」
目を凝らしてみると、制服に組合のマークがついていたので多分そうだろう。
「え!?」
しかし、それよりもおかしな事態が俺を襲った。
徐々に服が透けて服下の体が鮮明に見えていくのだ。
こ、これはまさか!?
男が欲してやまない透視能力!?
探索者にはこんな能力まであったのか!!
でも、男の体は見たくはないな。
そう思うと男の方の服は透けなくなった。なんて便利な能力なんだ。
でも、この能力は探索者なら誰でも持っている能力。
使ってるのがバレたらただじゃすまないぞ!!
俺は「透けるな、透けるな」と念仏のごとく唱え、服が透けて見えないように気を付けた。女性探索者は引き締まった体つきをしているので、とても目の保養にさせていただきました。下着は透けていなかったのがせめてもの救いだ。
「ありがとうございます」と俺は手を合わせて拝んだ。
「さてと、ギリギリあの厳重な警備になる前に帰ってこれて良かった。あれだけの人数がいると、影の中に隠れていても探知できる実力者もいるかもしれない。次に来るのは少し間を開けた方がいいかもしれないな……」
俺はそんなことを考えながら寮へと帰還を果たした。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ただいま、霞さん」
「随分お汚れですね。お食事の前にお風呂に入られますか?」
「そうですね。先にお風呂に入りたいと思います」
「そうしましたら、お風呂から上がられる頃にお食事をご用意いたしますね」
「分かりました」
寮へ帰ると寮母メイドの霞さんに出迎えられ、部屋に戻ってお風呂セットをもって浴場へと向かうと、そこにはアキが風呂へ入ろうとしている所だった。
「おう、普人。この休み中も見かけなかったけど、ダンジョンか?」
「ああえっと、まぁな」
アキが俺に気付いて聞いてきたので曖昧に答えた。
流石に閉鎖中のダンジョンに行きましたとは言えないしな。
「ホント羨ましいな、俺も早く覚醒したいぜ」
「明日からFランクダンジョンに行けるんだっけ?」
「そうそう。明日が待ち遠しいぜ」
ダンジョン探索部では明日から本格的に部活が始まり、明日は新入部員達の覚醒を行うらしい。めちゃくちゃ楽しそうに明後日の方向を見上げてアキは語る。
アキも遂にダンジョンデビューか。
この二週間ほどで出来るだけアドバンテージを作ったつもりだけど、あっという間に抜かれてしまうんだと思うと、憂鬱になってしまう。
「今はとにかく風呂に入ろう」
俺は負の思考を追いやって直情体を洗い、いつものように湯船に体を預けると、ふと入寮日のアキの事を思い出して、女風呂の方角についつい視線をやってしまう
「~!?」
すると、壁を通り抜けて露天風呂が目に映る。そこには一糸まとわぬ女性が一人、圧倒的な存在感を放っていた。
あ、あれは!?
青みがかった銀髪を後ろでお団子にまとめ、青い瞳が夜の月からの光を受けて鮮やかに輝く妖精の如き女の子。
露天風呂に今浸かろうとしているその子の名は、葛城アレクシア。
なんであの子にばかりこういうことを起こしてしまうんだ俺は!!
呪いか?呪いなのか?
しかし、その姿はまるで天使のように均整がとれていて美しかった。
「キレイだ……」
思わずつぶやいてしまう。
湯船に向いていた瞳がこちらを向いて俺と目が合った。
ヤバい!!やっぱりあっちにも見えてるし、その上聞こえてるんだ!!
はぁ……また謝らないといけないことが増えた。
「うぁ~……」
俺はすぐに透視を解除して、天井を見上げて目の上にタオルを置いて唸った。
明日学校に行ったらすぐに謝ろう。
俺はそう誓った。
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