第033話 闇に潜む者達(第三者視点)
「それで異世界侵略の件はどうなっているのかね?」
執務室、というには部屋の造りも家具の部類も、骨のような物体や生き物のように脈動している素材が使われている、あまりに気味の悪い一室。
その奥にある、むき出しの筋肉をつなぎ合わせたようなグロテスクな机に座っている男は、フード付きのマントを被り、その奥を見通すことはできない。
「はい。現在、異世界の人間が住む世界にダンジョンシステムによる介入を行い、世界に漂う魔力濃度が〇%から四〇%まで上昇しております」
フードの男の問いに、人とは思えない姿をした、人型の黒い
「ふむ。後に三十%も上がれば、我らのような存在も住むことができるようになるな」
「そうですねぇ。すでに最下層の者であれば、あちらで活動することも可能です」
「そうか、手始めにあやつらを送って地盤を固めておくのも悪くないな」
靄の報告にフードの男は顎のあたりに手を当てて思案する。
地球にはすでに知的生命体である人間が生活している。彼らは自分たちが居住する際に邪魔になる。その時のために今から最下層の者を送り、虐殺なり、奴隷にして言うことを聞かせるように調教なりしておけば、後々の手間が少なくなる。
フードの男はそう考えた。
「そうですね。そうおっしゃられるかと思いまして、念には念を入れるため、以前捕らえた狂神獣をダンジョンのひとつに紛れ込ませておきました。地球の人間達もダンジョンシステムの恩恵を受けているため、最下層の者に対抗できる者もおるかもしれません。しかし、我らでも手の焼くあの暴れ者であれば、多くの人間を殺してくれることでしょう」
「ほほう。あの狂神獣を放ったのか?」
饒舌に語る靄の言葉に、フードの男は興味深げな雰囲気を醸し出しつつ、靄に問う。
狂神獣は自分達でもとらえて封印するのに手がかかった狂ったように破壊をもたらす化け物。誰の命令を聞くこともなく暴れまわるだけの理性なき獣。あの獣が暴れまわれば、いかにダンジョンシステムの恩恵を受けた人間達と言えどひとたまりもない。
「はい。ただし、我らでもかの方が造りしダンジョンシステムそのものには介入できませんので、ダンジョンが生まれる際に、共にそこに紛れ込ませることがせいぜいでしたが……」
靄は少し不満げに語る。
かの方と呼ばれるものが造り上げたダンジョンシステムは、彼らでは改変することができないほどに難解かつ複雑なプログラムによって作成されていて、彼らには手を出すことが難しかった。
「かの方はもうこの世にはいない。もう何もできない。誰も我らを止めることなどできないのだ。心配あるまい」
「そうですね」
フードの男の慰めに靄は気を取り直して頷く。
かの方と呼ばれた者はすでに彼らの綿密な計画によって亡き者にされていた。それによって悪意の持つ者たちが解き放たれ、自由に行動することができるようになったのである。
とはいえ、現在生きている場所も彼らにとっては狭い牢獄のような世界であった。
「それよりも狂神獣が動くのであれば、あちらもより住みやすくなることだろう。すぐに最下層の者を送る手配をしてくれ」
「はっ。仰せのままに……」
フードの男が靄に指示を出すと、靄はその体のごとく煙のように消え去った。
「ふふふっ。我の計画が成就する日も近い」
この窮屈な世界から飛び出し、広大な異世界に進出して暴虐の限りを尽くしてその世界を恐怖で支配するのだ。もう邪魔をする者はいない。
一人になったフードの男は、表情は窺えないが、愉快そうに笑い声をあげる。
「ふふふふっ。あははははは、あーはっはっは!!」
しがらみから解き放たれたフードの男の笑い声だけが室内に木霊した。
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