第032話 エリートと不審者は紙一重

「おはよう」

「おはよう」


 アキと合流して食堂で朝食を食べる。


「昨日はどこに行ってたんだ?学校終わってすぐ姿が見えなかったけど」

「早速ダンジョンに潜ってきた」

「うわぁマジかぁ。誕生日早いって羨ましいよな」


 探索者にとって誕生日が速いのはアドバンテージだ。

 その分早く潜れるからね。


 でも詳しくは調べてないけど例外もあるらしい。


「ま、まぁね」

「どこのダンジョンに行ってきたんだ?」

「えっと、朱島ダンジョンってとこ」

「はぁ!?」


 俺が応えると、アキが目をむき出しにして叫んだ。


 その叫び声は食堂中に響き渡り、自分達と同じように朝食を食べている人たちから注目を浴びる。


 おいおい、勘弁してくれよ。

 ただでさえ探索者ってバレてるのにこれ以上注目されたくないんだよ。


「何をそんなに驚いてんだよ」

「だってお前、朱島ダンジョンってダンジョンリバースがあったってニュースでやってたぞ?」


 ダンジョンリバースってだからなんなんだよ。

 ニュースになるほど大げさな事件なのか?

 昨日は妹と母さんのプレゼント選びに夢中だったから気にもしてなかった。


「ダンジョンリバースってなんなんだ?」

「お前そんなことも知らないのかよ」


 俺が何気なく聞くと、アキは呆れるような顔になった。


「そこまで調べてなかったからな」

「かなり有名なんだけどな。まぁいい。俺が説明してやろう」


 俺が尋ねるとアキが腕を組んでふふんと鼻息荒くドヤ顔で答える。


「よろしく」

「えっとだな。ダンジョンリバースって言うのはダンジョンの構造、モンスターの強さ、宝箱の中身等が生まれ変わるように劇的な変化を遂げる災害のことだ。ダンジョンリバースの厄介な所は中に人がいてもお構いなしに変化が起こって、巻き込まれた人が死ぬこともあるって所だな。モンスターの強さも変わって滅茶苦茶強い敵が出てくることもある。リバース前の適性ランクの探索者が強くなったモンスターと遭遇して死んだなんて話は良く聞くぞ」


 ほぇ~、それに巻き込まれたら大変だな。

 俺は少し長い落とし穴に落ちたくらいで済んで本当に良かった。モンスターもEランクのままだったし、ボスも同じだ。


「ふーん、そういうのもあるんだな。確かにダンジョンから出た時、なんだか怪しい人達がいて何か変な事はなかったかって聞かれたな。俺は落とし穴に落ちて抜け出した後、そのまま帰ってきたから関係ないし、何もなかったって答えたけど」

「そうか、よく無事だったな。それに、変な服?」


 昨日の出来事を話すと、アキが腕を組んで首を傾げて俺に尋ねた。


「うーん、なんか組合職員とも違うビシッとした感じの制服」

「おまえそれって多分組合の緊急対策室だ。全員がBランク以上の探索者資格を持っている人達で構成されている超エリート集団だぞ?」


 いまいち説明が難しいのでフワッとした説明になってしまったけど、アキはそれをくみ取ってあの怪しい人達の正体を教えてくれた。


 あの怪しい人達がエリート集団だったんだなぁ。

 俺に話しかけてきた人は完全に変態不審者さんだったけどなぁ。

 皆そんなに強そうには見えなかったけど、人は見かけによらないってことか。


「そうなんだ。名乗りもしなかったから怪しいと思ってすぐに帰ってきたんだよね」

「普通なら喜ぶところなんだよなぁ」


 大した反応見せない俺に、アキは少し不貞腐れたように言う。


「そう言われてもなぁ。そんなことより昨日の収入で妹と母さんにプレゼントを買う方が大事だし」

「何?お前って妹いるの?可愛い?」


 妹の話題を出すとアキの食いつきが良い。


「可愛いに決まってるだろ?」

「だったら紹介してくれよ」


 ん?なんだと?

 今こいつなんて言ったんだ?

 まさか俺の妹に手を出そうっていうんじゃないだろうな?


 俺の中の憤怒ゲージが高まっていく。


「ほほう。自殺志願者だったとは知らなかった。中学一年生になったばかりの妹に近づく不審者は、俺が冥府に送ってやろうか?」

「い、いえ、遠慮しておきます!!」


 俺が今自分が出来る最高の笑顔で聞くと、アキはなぜか敬礼をして辞退を申しでた。


 なんだ分かってるんじゃないか。

 こいつもこのエリート校に入ってきただけあるな。


「うんうん、分かればいいんだよ、分かれば」

「ははは、お前って妹の話になると人が変わるんだな?」


 ん?なんだって?


「なんか言ったか?」

「なんでもありませぇええええええん!!」


 アキの叫びが再び室内に木霊した。


 俺たちは騒がしく朝食を食べ終えた後、まだ慣れない学校へと登校したのであった。

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