第041話 チャンスを狙う(第三者視点)

 ダンジョン探索部の一室。


「推薦で入った以上、ダンジョン探索部への入部は必須だ。それにダンジョン探索部ではパーティは組んでもらう。基本的に二人以上なら構わない。どうしても組む相手がいない、という場合はこちらで勝手に組ませてもらうので覚えておいてくれ」

「ん」


 学校に入学して一週間経つと部活の入部期間が始まり、少女は探索者の推薦で入ったため、ダンジョン探索部への入部を余儀なくされた。


 私はこんな所で足踏みしているわけには行かないのに。

 一刻も早く強くなって二人が待っているあの場所へ行きたいのに。


 少女の心の中は焦りで一杯になっていた。


「何を焦ってるか知らんが、一人で思い詰めすぎると手痛い失敗をするぞ、葛城?」


 そんな彼女の心理を読み取ったのか、葛城アレクシアの目の前の立っている男、早乙女真司は言った。


「大きなお世話……」


 少女の心はすでに一杯一杯で、真司の気持ちを汲み取ることはできなかった。


「まぁいい……無理だけはするなよ」

「ん」


 返事をしたアレクシアではあったが、無理しないわけにはいかない理由が彼女にはあったため、約束を守るつもりは一切なかった。ダンジョン探索部の一通りの説明と施設内の案内を受け終えた彼女は、そそくさと施設を後にした。


「全くどいつもこいつも……」


 早乙女が呆れたようにため息を吐いて呟くが、その呟きは露と消えた。


「朱島」


 アレクシアは早速ダンジョンリバースが起こったという朱島ダンジョンに赴いてみることにした。


「ん」


 ダンジョンに到着すると、ゲートはものの見事に無残な姿になって、ダンジョンが大きな口を開けていた。まるでアレクシアを誘っているかのようだ。


「三人」


 ダンジョンを見張っているのは探索者組合から依頼を受けたらしき探索者が三名。ダンジョンの施設全体を覆っている門の入り口に二人と、ゲートの近くに一名立っているだけだった。


 しかも定期的に巡回しており、夜の闇に紛れれば門を通ることも出来なくはなさそうだと彼女は思った。


「監視」


 一日見ただけでそのままダンジョンに侵入するような愚かな行為をする程までには、少女はまだ追い込まれていなかった。それは辿り着かなければならない場所で待っているであろう人達の事を信じているからだが、それでも日に日に少女の心の余裕はなくなっていく。


 それから数日間彼女は学校で授業を受け、ダンジョン探索部に出る必要がある時はダンジョン探索部で用事を済ませた後、毎日朱島ダンジョンに通って警備員たちの動きを観察し、メモをとっていつどの時間が侵入できるかというデータをとった。


 それからダンジョンリバースが起こったばかりのダンジョンということもあって、内部がどんな状態になっているか分からないため、自分のために貯めていてくれたお金を使って、現在購入できる最高の装備とアイテム類を準備した。


 そしてついに決行の日がやってきた。その日は金曜日を選んだ。なぜなら土曜も日曜も潜っていられるからだ。


 日もとっぷりと暮れ、辺りは暗闇に包まれている。アレクシア自身結構目立つ容姿をしていて、本人もそれを自覚していたため、装備はどれも暗い色をしており、なぜか頭に頭巾のようなものを被って顔を隠していた。


 闇に紛れるなら出来るだけ目立たない恰好を、と選んだ装備だ。


「いく……」


 準備を整えたアレクシアは、寮から抜け出してひっそりとダンジョンへと向かった。彼女が背後で眼を光らせているメイド服に気付くことはなかった。


「本番」


―ドクドクドクッ


 アレクシアの心臓が大きく鼓動する。流石にルールを破るのは彼女も緊張していた。しかし、ルールよりも大切なものがある。


 彼女は己の感情に身を任せ、今まで取ったデータに則ってこそこそと行動し、いとも簡単にダンジョン内への侵入を成功させた。


「~!?」


 しかし、ダンジョンに入るなり、アレクシアは驚愕した。


 内部は今までのダンジョンとは比べ物ならないほどに魔力が溢れ、不気味な気配が漂っていたである。


「本当に元Eランクダンジョン?」


 あまりに違うその状況にアレクシアはいつもよりも長めに独り言ちた。

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