第035話 男には行かなきゃいけない時がある
神ノ宮学園に入学して一週間ほど経ち、全ての授業でオリエンテーションを終え、履修範囲の授業が始まっていた。
教室内では完全にグループが出来上がり、俺や佐倉はそのグループから弾かれてしまった。佐倉は別に他のグループに入る事が出来た話だけど、俺に構ってる内に今の状態になった。
葛城さんはカースト最上位の奴らがなにかと誘ったけど、暖簾に腕押しで全然誘いに乗ることもなく、いつしか諦めて関わらなくなった。
ただ幸いなのは俺も葛城さんもイジメという類のものは受けていないということだった。
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■名前
佐藤
■熟練度
・神・鼓動(99999/99999)
・神・代謝(99999/99999)
・神・思考(99999/99999)
・神・呼吸(84974/99999)
・真・五感(36421/99999)
・真・直感(36421/99999)
・殴打(998/9999)
・蹴撃(979/9999)
・神・防御(9999/9999)
・愛撫(2685/9999)
・隠形(5692/9999)
・会話(235/9999)
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俺の熟練度も無意識系に関してはさらにカンストしたものが増えている。
Eランクダンジョンは朱島ダンジョン以外に近隣にもう一つあるんだけど、近隣と言っても少し遠いため土日に二回だけ行ってきた。ダンジョンボスの部屋には行かずにその前までの敵を倒した。
沢山のモンスターを倒してきたので殴打と蹴撃が結構上がっている。合計八百匹ほど倒した。ただ、換金したのはリュックに入る百個くらいだったから、二日合わせて二百個。換金できたのはその分だけだ。
つまり二万円程度。日当一万円と考えれば、最初と比べれば雲泥の差だった。
「ず、随分多いわね?」
ダンジョンに隣接する換金する時にそんなことを言われたけど、他の探索者ならもっと取ってこれるのにと思うと不思議だった。
ラックの能力で影に仕舞ってあるボーナス魔石は、あまり換金しすぎるとあくどい連中に眼を付けられそうなので、月に一回くらいひっそりと換金することにした。月収三十万もあれば十分すぎると思うし。もし何かあれば多めに換金すればいいだけだし。
「税理士を雇ってくださいね」
それでも買取所でそんな風に言われたので、探索者組合から信用できる人を紹介してもらった。まだFランクなのにこんなに稼げるなんてやっぱり探索者って儲かるんだなと思った。
俺の場合はツイてたの大きいけどな。あの朱島ダンジョンの落とし穴の先に居た、色と装備がちょっと違うだけのボーナスモンスターは、とても素晴らしいものだったんだなぁと今更ながらに思い知った。
Fランクでこれだけ稼ぐと何か言われそうだと思ったけど、何も言われない所をみると、案外俺みたいにラッキーで稼ぐような人もいるのかもしれない。
また、そのお金を使って昨日妹と母さんにプレゼントを買った。今日か明日には届くと思う。それと、ラックにはそのダンジョンに出てくるオーク肉を全部あげた。影の中にいれておけば暫くもつだろう。嬉しそうに頬張っていた。
そして愛撫が上がっているのは毎晩ラックを撫でているからだ。あのモフモフの魅力からは逃れられなかった。それに毎日誰かと話しているからか、会話という熟練度の項目が解放された。どういう能力なのか分からないけど、無いよりはいいと思う。
「お疲れ~」
「おう、今日も一日疲れたな」
今日の授業が終わり、俺はこれからダンジョンに潜るつもりだった。
「そうだ。今日から部活見学が始まるんだぜ、一緒に行こうぜ」
「俺部活はあんまりなぁ」
思いついたようにアキが俺を部活見学に誘う。
正直、探索者としての適性があるにも関わらず、無能で高校デビューに失敗した時点で、どこにも属さずにダンジョンに潜ってひっそりと生活して無難に卒業したかった。
「お前なぁ。また一人でダンジョンに行くのか?ダンジョンも大事だけどな。それよりも高校生なんだから青春しようぜ、青春」
「青春かぁ」
俺の肩を抱くようにして諭すアキ。
高校デビューに失敗する前ならまだ興味があったかもしれないけど、今は別次元の遠い世界のように思える。
「とりあえず一つ見に行ってみようぜ、な?」
「はぁ……しょうがない。せっかく誘ってくれたんだし、行ってみるよ」
「そうこなくっちゃ。早速出発だ」
顔の前で手を合わせて懇願するアキに折れた俺は、呆れながらも部活見学についていくことにした。
「それでどこにいくんだ?」
「それなんだけど、基本的に探索者適性を持つやつは運動部に所属できないからな。候補はダンジョン探索部、吹奏楽部、茶道部、文芸部辺りかなぁ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらどこか遠くをみて答えるアキ。
その顔には邪な感情しかなかった。
「お前それ、ダンジョン探索部以外は絶対女の子の数で選んでるだろ?」
「はっはっはっ。バレたか。青春に女の子はつきものだろ?」
「そんなの知らないよ」
悪びれもせずに言うアキに俺は呆れた。
「おいおい俺は知ってるぞ、お前葛城さんと仲いいじゃないか」
「いやいや、仲良くないぞ。むしろ……」
葛城さんと仲が良いとかありえない。
むしろ入学式の日にあんな出会い方をしたから嫌われていると思う。
最近はなぜか教科書を忘れたり、昼ご飯を忘れたりする葛城さんを放置できなくて仕方なく一緒に教科書を見たり、昼ご飯をあげたりしてるだけだ。
中学時代は誰も俺にしてくれなかったからな。その辛さは身に染みているんだ。
「ん?まぁいいけどな。とりあえず行くぞ」
「へいへい」
遠い目をしている俺を急かしてアキは教室を出る。俺たちは文化部から回っていくことにした。しかし、結果はなんとも言えなかった。
全員がガチだったのだ。全く青春のせの字もない、ということもないか。
彼ら彼女らにとっての青春は結果を残すことが全て。それが神ノ宮学園の文化部の伝統らしい。元々神ノ宮学園の文化部は名門と言われているようだ。彼らは色恋に現を抜かすこともなく、全力で所属する部の活動に邁進していた。
「ちょっと俺達にはハードルが高かったかもな……」
「そ、そうだな」
見学を終えた俺たちは、見学にもかかわらず、専門的な事柄をやらされたり、覚えさせられたりして辟易してしまった。
「とりあえず最後にダンジョン探索部行ってみようぜ。というか探索者推薦で入ったやつは実は強制参加だけどな」
「じゃあなんで文化部なんて見に行ったんだよ!!」
時間の無駄じゃねぇか。
「そりゃあダメと分かってても、青春のために男にはいかなきゃいけない時があるだろ」
「絶対それ使うところ間違ってるからな!!」
ニヒルを気取ってるアキに突っ込みを入れた。
「グフッ!?な、中々鋭い突込みじゃねぇか……」
「す、すまん、力の加減は覚えたはずなんだけどな」
日常生活に支障がない程度に力を抑えられるようになっていたはずだけど、今の突込みはまだ覚醒していないアキには強すぎたらしい。
「ま、まぁ気にすんな。それより行こうぜ」
「早乙女先輩の所か。俺に手加減してくれた上に花を持たせてくれた先輩の居るところだから入りたいところだけど、ダンジョン探索は一人って決めてるからな」
あの先輩はとてもいい先輩だけど、誰かと一緒に潜ったら俺が何もできないことがバレる。それは勘弁してほしい。
「バカ野郎!!ダンジョン探索なんてパーティを組んでナンボだろう。一緒にパーティを組んだ女の子とのラブロマンスが待ってるんだよ!!」
「それ絶対お前ひとりが残って寂しく終わるパターンだからな」
「やってみなきゃわからないだろ!!俺以外女の子のパーティを組んでハーレム作るんだ!!」
熱く語るアキ。
そういうことを言う奴に限って絶対その夢は叶わないんだよなぁ。
「全くアキは頑固だな。俺は入る気はないけど、とりあえず行ってみるか」
「おう」
俺達はダンジョン探索部がある別棟へと向かった。
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