第023話 行けないからこそ桃源郷

「おいこら普人ふひと、お前って、探索者資格持ってたの!?」


 歓迎会が終わると、シレっと自分の部屋に戻ろうとしている俺のところにアキがやってきて、肩を組んで問い詰められる。


 ほら来た。会長のせいで案の定絡まれたじゃないか。それにしても距離が近いな。


 陰キャの俺はパーソナルスペースに入り込まれるのはとても苦手だ。


「え?いや、それは……」

「ん、あぁ、いやいい。その反応で分かった」


 俺が言い淀むとアキが勝手に理解してくれたらしい。多分間違ってると思う。


「でも探索者として推薦でこの学校に入った訳じゃないから……」

「全く水臭いな。そんなの気にしなくて良いんだよ」


 いや、言えない。レベルもスキルも能力値もないから言わなかっただけだなんて。普通に探索者適性があったら言いふらしてた、だなんて恥ずかしくて言える訳ない。


「それにしても、あの早乙女先輩に勝つなんてお前凄いな?」

「え?あれは早乙女先輩が手加減してくれただけだよ」

「そうでもなかったと思うけどなぁ」

「いやいや、滅茶苦茶してくれてたよ!!」


 だってあんなにゆっくり動いてくれてたし、そうじゃなきゃ俺が勝てる訳ないからね。とても優しい先輩に当たって助かった。後輩いびりをするような先輩がだったら、俺なんてコテンパンにやられていた筈だ。もっと熟練度を高めないと!!


 軽くガッツポーズのような動作をして気合を入れた。


「何にやる気を出してるか知らないけど、まぁいいや。風呂に行こうぜ」

「風呂か」


 体を動かしたから少し汗ばんでるから確かに汗を流したいな。


「先輩との順番とかは?」

「なんでもここの風呂は掛け流しの温泉で、結構広くて全学年の寮生が一度に入っても余裕があるらしく、順番とかはそういうのはないんだってよ」


 こういう寮って先輩との上下関係があるから、そういうのも厳しいかと思ったんだけど、設備を充実することで気を遣わせないようにしてるのかなぁ。


 それにしても温泉か……温泉!?


「温泉いいな!!すぐに行こう」

「お、おう」


 俺たちは風呂の支度をして浴場へと向かった。


『おおぉおおおおおお!!』


 更衣室はまさに旅館のような雰囲気になっていて、大きめのロッカーが三十個くらい並んでいる。洗面台も四人同時に使用可能でドライヤーも設置されていた。更衣室の設備とは別に、最新式の洗濯機が六台も置いてあり、洗濯もあまり先輩と被らなくて済みそうだ。


「うぉ!?やっぱ脱ぐとおまえ凄いな!!」

「そうかなぁ?これくらいは普通だと思うけど」


 俺が服を脱いでロッカーに仕舞っていると、隣から俺の裸をアキが覗いてくる。そういうアキも程々に鍛えられていて腹筋が割れていた。


「そんなことねぇよ。どこのボクサーだ?ってくらい引き締まってる」

「体鍛えるのが好きだからな。そのおかげかな」

「ストイックだな」

「そんなことないよ」


 俺たちは脱ぎながら会話を続けて最後の一枚まで脱ぎ去った。


「おまえ……滅茶苦茶デカいな……負けたわ……」

「え!?なんの話だ!?」


 アキの視線を辿ると俺の下半身に向かっていた。


 つまり俺の息子の大きさを確認されたらしい。


「ちょ!?止めろよ、普通だろ!?」


 俺はタオルを巻いて隠して反論する。


 凝視されたら恥ずかしいだろ!!


「そんなことねぇよ!!超人サイズだ!!」

「う、うるさい!!先に行くからな!!」


 アキが認めようとしないので、俺はそそくさと浴室の扉を開けて中へと足を踏み入れる。


「え!?」


 そこはまるでスーパー銭湯かってくらいの広さの浴室だった。


「おい、待てよ……ってこりゃあ凄いな」


 後を追いかけてきたアキも声を失った。


「お、新入生たちじゃないか」

「俺達もあんな時期があったなぁ。懐かしい」


 寮の先輩たちが俺達のリアクションを見て温かい目で俺たちを見ながら、体を洗い続ける。なぜか体中泡だらけになるほどゴシゴシと泡立てていた。


 とんでもない綺麗好きなのか?


「こりゃあ、驚いてる場合じゃないわ!!さっさと体を洗って堪能しようぜ!!」

「そうだな!!」


 俺たちはすぐに先輩たちと同様にシャワーと鏡が付いた席に座って頭を体を洗い始めた。


「それにしてもほとんどスーパー銭湯だよな、これ」

「ホントにな」


 普通の銭湯っぽい湯船や、壺湯、寝転び湯、ジャグジー、打たせ湯、足湯等々様々なお風呂が目に入る。それにサウナらしき部屋もあるようだ。ホントになんて所にお金をかけてるんだ、この学校は。


「俺はゆっくり体を伸ばしたいからあの普通のに入るわ」

「俺は露天に行くぜ!!」


 俺が普通の風呂に入ろうとすると、なんだか意味ありげな笑みを浮かべた。


「なんか、変なこと考えてないか?」

「んん?知りたいか?」


 ニヤニヤ顔を浮かべたまま、肩を組んでくるアキ。これは絶対関わったらダメな奴だと俺の直感が囁いている。


「いや……「やっぱり聞きたいか、よーし、教えてやろう!!」」


 アキは俺の声にかぶせるように笑みを深めながらドヤ顔を作った。


 いや聞きたくないって言おうとしたんだけど?


「いいか?実はこの入浴施設の露天は男子と女子で隣り合って作られているんだ。もちろん外から見えないように外壁がやたら高く作られていたり、角度が計算されていたりして作られているが、中からは別だ。隣合っている女子の露天との壁の上には隙間があってな。そこから女子の風呂を覗くことができる。どうだ?一緒にヤらないか?」


 なんか最後のイントネーションが気になるし、これ俺を共犯にしたいだけじゃん。ここは断固拒否だ。それに大体なんでそんなこと知ってるんだよ……。


「いや、俺は遠慮しておくよ……」

「お前ホントに健全な男子高校生か?そこに女の子の秘密の花園があったら覗くだろ!!」


 俺があきれ顔で首を振ると、アキはなぜかキレ気味で俺に詰め寄る。


 それ普通に犯罪だから。


「いや、覗かないだろ」

「それでもキンタマのついた男かよ!!はぁ……そうか、それなら別にいいさ。俺だけ良い思いをして後悔してもしらないからな!!」


 三下の捨て台詞のような言葉を吐いて颯爽と露天風呂に走っていく。


 絶対に後悔しない自信がある!!


 そして数秒後、


「ほげぇえええええええええええええええ!!」


 と、おおよそ人とは思えない叫び声が露天風呂の方から聞こえてきたのは気のせいじゃなかった。


「南無」


 俺は壁に背中を預け、湯船にゆったり浸かりながら手を合わせて合掌した。

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