第021話 逃げ出した。しかし回り込まれてしまった

「皆さま、お食事とご歓談の所失礼します」


 暫く一年生同士で交流をしていると、霞さんが再び生徒たちの前に立ち、歓迎会の進行をし始める。


「ここで一度新入生の席を移動いたします。全生徒は一度ご立席ください。新入生にはお手数ですが、先輩の誘導に従い、それぞれ指定の席にご移動願います。誘導担当の方はご自分の案内する後輩の元へ向かってください。他の方々も新入生が着席次第、席のご移動をお願いします」


 確かに一年生同士でずっと喋っていても上級生との交流は図れない。上級生たちの輪に強制的に入れられるのも仕方がないと思う。ただ、陰キャな俺にはなかなかハードルが高い。


「うふふ、佐藤君の案内役は私ですよ」

「あははは……。よろしくお願いします」


 考え事をしていた俺の元にやってきたのは、なんと生徒会長だった。


 確かに話しやすいと言えば話しやすいけど、これって完全に俺にロックオンしてるよね?ヘルプミー!!


「時音さんが案内役なんて羨ましいぞ、こら!!」


 助けを祈っているとアキが俺と生徒会長の会話に入ってくる。


 ありがとう、ナイスだアキ!!


「なんだ?私が案内じゃ不満か?」


 しかしアキの不満を聞き、彼の後ろに腕を組んで立っていたのは、ショートヘアーで勝気そうな、いかにも女子たちに人気がありそうなカッコいい先輩。


「いえ、そんなことはありません!!大変光栄であります!!」


 アキはギギギギと壊れたブリキの人形のように振り返り、後ろめたさゆえにか敬礼で答えた。


「よし、分かればよろしい!!ついてこい!!」

「はっ!!」


 満足のいく答えだったようで先輩はアキを連れて彼の席へと向かった。


「あらあら椿ちゃんたら、しょうがないですね」

「生徒会長あの人は?」

「ああ、あれは風紀委員長をしている椿ちゃんですよ」


 アキを連れて行った人は風紀委員長らしい。風紀委員といえば漫画やアニメでは初心だったり、ツンデレだったりするけどどうなんだろうか。


「風紀委員長ですか。とても厳しそうですね」


 見た目的にも、言動的にも。


「そうですね。でも、意外と融通が利く方ですよ、椿ちゃんは」

「そうなんですか……」


 おお、珍しく頭が柔軟なタイプの風紀委員長か。


「というか大好きなんですよ?エッチな事とか」

「こらぁ、そこ!!嘘を吹き込むんじゃない!!」


 内緒話をするように口元に手を添えて俺の耳元で囁く生徒会長だけど、目敏い風紀委員長は遠くから怒鳴った。


「冗談ですよ、冗談。さ、すぐに席を移動しますよ?」

「あ、はい、そうでした」


 風紀委員長に関する出来事でうっかり忘れそうになったが、今は席替えの真っただ中だ。俺はすぐに生徒会長の後について行って自分に割り当てられた席へと座った。


「会長が隣ですか?」

「そうですよ?」


 さも当然のように隣に生徒会長が腰を下ろす。


 ヤバい!!逃げ場を失った!!


「それでは私たちの自己紹介をしましょうか」


 それから俺は生徒会長におちょくられつつ、寮の先輩達と交流を深めた。


 なんだかんだ会長がいる事で、話をしやすいように誘導してくれてた気がする。気を許すことは出来ないけど、ちょっとだけ信用しても良いかもしれない。


「ここで余興をしたいと思います!!それは一年生と先輩の模擬戦です!!」


 しかし、突然生徒会長が立ち上がって余興を宣言する。

 しかも俺に向かってニヤリと笑顔で。


 やっぱり信用できない!! 


「模擬戦とは楽しみだなぁ!!」

「一丁揉んでやるかぁ!!」


 今までに前例のない余興に先輩方は俄然張り切りだした。


「あのぉ、俺は探索者枠で入学したわけじゃないですけど……」


 俺は恐る恐る手を上げて辞退しようとするが、


「駄目ですよ。入寮生は全員模擬戦します」


 有無を言わせない凄みのある笑みでその願いは却下された。


 あの人絶対俺が探索者資格を持っていてダンジョンに潜ったことがあることも知ってるよ。それはもう諦めるしかないと思う。でも……あのことだけは、レベルもスキルも能力値もないことだけは絶対に隠し通さなければならない。


 幸い鑑定されても見えないみたいだから、それなりに戦えれば『隠蔽』系のスキルを持っていると判断してくれると思う。多分俺が探索者適性を持っているのを直接確認したんだろうな。この模擬戦はそれを見るためでもあるんだ。


 なんとか無難に乗り切ろう。


 俺はそう心に決めた。

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