第020話 目をつけられている

 十分程するとほぼ全ての寮生が集まった。俺たち以外にも何人か同級生らしい寮生が俺達の周囲の席を埋めていく。俺以外に男が四人、女が五人。


 この人数を考えると俺って意外に狭き門を通ったんだな。

 やっぱりツイてるかもしれない。


 女子の中にはあの葛城さんもいた。何かと縁があるみたいだけど、今日の出来事のせいでホントに気まずいんだよなぁ。許すって言ってたから葛城さんは気にしてないのかもしれないけど、俺はとっても気になります。


「皆様、揃われたようですね。これから新入生の歓迎会を行います。進行は男子寮の寮母、私、橘霞が務めさせていただきます。よろしくお願い致します」


 ほとんど席が埋まると、霞さんが食堂奥の開けた場所の左側に立って話し始める。それ程大きな声ではないのに、全体に響き渡って聞き取りやすい。


「まず初めに代表の挨拶。北条時音様」

「はい」


 生徒会長が立ち上がって食堂の奥、全体の正面に立つ。


「皆さん、ようこそお集まりくださいました。入寮生の方たちは先程ぶりですね。入学式では堅苦しい挨拶をしましたが、ここではそう硬いことを言うつもりはありません。人生で一度きりの高校生活です。大いに泣き、笑い、高校生という青春を悔いのないように思いきり楽しんでください。せっかくの十代です。大恋愛するのもいいでしょう。その恋が叶うかどうかは分かりませんが、それはきっと皆さんの糧になります。また、この学校では探索者の育成という面でもとても力を入れています。新入生の中にも探索者適性を持っている人がそれなりにいると思います。ダンジョン探索は高ランクになればなるほど一人での探索が難しくなります。ここでは同じ力を持ち、自分とは違う役割の力を得た仲間がいます。学生時代に信頼し合える仲間ができれば、それは大人になってもかけがえのない友人となることでしょう。そしてこの寮で同じ屋根の下で暮らすことなった人たちは、最も親しい友人になりえる可能性があります。ぜひこの学校で唯一無二の絆を作り、悔いのない学生生活を謳歌してください。以上、代表挨拶とします。ありがとうございました」


 生徒会長が挨拶をし終えると、颯爽と席に戻った。


 入学式の挨拶は確かに堅苦しくて退屈なモノだったけど、今の挨拶は素というか、経験を元にしてるというか、言葉に重みがありつつも、真面目過ぎるものでもなくて、心に響く内容だった。


 挨拶中の笑顔が優し気で、その表情がそれを物語っていた。入学式でのキリリとした生徒会長もカッコよくて魅力的だと思うけど、今の素の会長もとても魅力にあふれていると思う。


 寮は身内というか、全体でも三十人程度の小さな集まりなので、格式よりも中身をとったということなのかもしれない。


「うふふ」


 物凄い笑顔の会長と目が合った。


 なんでこっちを見ているのだろうか。いやいやそんなまさかね?

 俺の秘密がばれてるなんてことないよね?

 怖いよ怖いよ……。


 危うく騙されるところだった。

 あの人はストーカー気質のヤバい人だ。

 演説くらいで絆されちゃダメだ。


 それから歓迎会は滞りなく進み、食事・歓談の時間となった。


「俺達で軽く自己紹介し合おうぜ!!」


 アキの一言で俺達新しい入寮生は、お互いに自己紹介し合う。


「俺は佐藤普人ふひと。趣味は体を鍛えること。よろしくお願いします」


 一度失敗した俺は今度は心を落ち着けて無難に自己紹介が出来たと思う。


 俺とアキ以外の男子生徒は、綾辻心あやつじしん雷動刃らいどうやいば南部大輔なんぶだいすけの三名。


「よろしくね、普人君」


 綾辻は、女の子と言ってもおかしくないくらい可愛らしい容姿をしていて、さぞかし綺麗なお姉さまたちを虜にするであろうことが窺える。声も高くてむしろなんで男なんだろうと思わざるを得ないくらいだ。所謂男の娘というやつだろうか。リアルでこんなに女の子の様な男には出会ったことがない。


 綾辻は探索者資格を持っている。


「よろしく」


 雷動は、綾辻と対照的に滅茶苦茶デカい。百九十センチ以上の身長とそれにふさわしいガタイをしている。井上や山之内と似たタイプだが、雷動は寡黙な武人という表現がふさわしい。まるで巌のような存在感があり、体全体から強者のオーラがあふれ出していた。


 彼もまた探索者資格を取っており、修行のために、より強さを求めてダンジョンに潜るそうだ。


「よろしゅうな、普人」


 南部は、関西弁の糸目でひょうきんな奴だ。細くて猫背で動きが俊敏そうなタイプだ。いつもニコニコしていて感情を表に現さず、何を考えているのか分からない俺が苦手なタイプだ。


 葛城さんも表情はあまり変わらないが、それでも感情はそこそこ表情に現れる。元々感情が出にくい彼女と違って、彼は意図的にそうしている節がある。だから警戒してしまうのは仕方ないと思う。


 彼も探索者資格を持っていて、一攫千金を目指してダンジョン探索を始めるらしい。


 葛城さん以外の女子は、安藤鈴あんどうすず空島愛梨そらじまあいり皇星乃すめらぎほしの小鳥遊たかなしさとり、東雲凛しののめりんの五人。


「よろしく~♪」


 安藤さんは小動物みたいな小さなボブカットの女の子。小学生と言われてもおかしくはない低身長と幼児体型をしている。ペットのように人懐っこい性格とその体型もあって、すでにマスコットになりそうな気配がある。


 ただ、傍から見ているとあの性格は猫を被っているような気がする。これは俺の直感だけど、本当はもっと腹黒いのではないかと思った。


 彼女も探索者資格を持っていて、誰かを誘って何人かでパーティを組んで堅実にダンジョン探索をするつもりのようだ。本当かどうかわからないけど。


「よろしくっす!!」


 空島さんは、なんていうかショートヘアーで健康的な肌色をしている、所謂陸上女子って感じの女の子。とてもさばさばとした性格で元気が良い。それに懐いたら尽くす忠犬タイプの匂いを感じる。


 結構無防備でジャージのファスナーを開けていて、服の端からちらちらと素肌が覗くのが目に毒だ。別方向から嫌な視線を感じたので出来るだけ見ないように努力した。


 探索者資格を持っていて、美味しい食材を探すためにダンジョンに潜るようだ。今もそのスレンダーな体のどこに入っているのか分からない程の量の料理を皿に盛って、モグモグと食べている。


「よろしくお願いいたします」


 皇さんは、巫女そのものって感じの人。黒髪のロングヘアーで片方のもみあげを結っている。清楚という言葉を具現化しているような存在で、物静かでとても落ち着いた雰囲気を纏っている。


 それに背筋がピンと伸びていて、その完成された姿勢は雷動のように何かの武道をやっているように見えた。どんな武道かは分からないけど、この人は見た目と違い、結構強いのだと思う。


 彼女も探索者資格を持っていて、モンスターを倒すというお勤めを果たすためにダンジョンに潜るという。とても真面目な人だ。


「よろ~」


 小鳥遊さんは、アンニュイな雰囲気の女子。ウェーブのかかったボブカットの髪を持ち、眠そうな目と着崩したジャージが、だらしなさと気だるさを誇張して独特の空気を醸し出している。


 彼女も空島さん同様に自身の肌が見えることに無頓着で、着崩したジャージから肌が見えて精神衛生上よろしくない。ただし、彼女は空島さんとは違い、気づかずそうしているというよりは、見られても別にどうでもいいと思っている印象を受けた。


 探索者資格は持っているけど、自分を連れて行って面倒事は全部やってくれる人がいるなら誰かとパーティを組んで潜ってもいいとか宣っている。かなり不思議は人物だ。


「よろ……しく……」


 最後は、東雲さん。彼女はとても気弱そうな性格をしていて、自己紹介も少人数にもかかわらず、ほとんど聞き取れないほど小さな声で行っていたし、聞き返すとビクッとして怯えるので聞き返すことも難しいほど臆病な女の子だった。


 あまりにビビりすぎて、それがかえって人の神経を逆なでしてしまい、つらい思いをしてしまうタイプに見える。少しずつ俺達と慣れてきたら、少しくらい気を配ってあげた方がいいかもしれない。


 彼女も冒険者資格はあり、ダンジョン制覇をめざして攻略するらしい。その言動から明らかに自分の意志ではないけど、彼女はそれをはねのけるだけの意志の強さも力の強さも持ち合わせていなくて、命令通りにするしかないと言ったところだろうか。


 以上が新入生かつ入寮生のメンバーだ。なかなか個性に富んでいる。


 それにしたって俺は表向き探索者推薦で来たわけじゃないから、一般人枠のはずだけど、俺以外が全員探索者って言うのは何らかの意思を感じる。


 再び生徒会長の方を見ると、彼女は俺の方を向いていてニコリと笑った。


 背筋に嫌な汗が流れた。

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