第019話 生徒会長は信用できない
「これでよしっと」
送られてきていた荷物を出して仕舞い終えると、俺はベッドに横になった。
一人になると色々考えてしまう。
はぁ……今日は散々だったなぁ。
寝坊するわ、女の子にぶつかってその子の股間に顔を突っ込んで変態呼ばわりされるわ、探索者であることを言えないから最上位になれなくとも、それなりのポジションを得ようと思っていたのに、自己紹介に失敗してバカにされるわ、ほんと……良いところなしだ。
救いだったのは、バカにされたのはその場限りだったし、アキが手を差し伸べてくれて友達になってくれたことだ。今までボッチだった俺にしてみれば少しは進歩したかもしれない、多分。
―コンコンッ
気付けば意識を失っていて、ドアをノックされる音で目を覚ました俺。机の上に置いた時計を見るとすでに十八時四十分過ぎ。そろそろ歓迎会の会場に行っておいた方よさそうな時間帯だった。
「誰ですか?」
「俺だよ俺」
ドアの向こうからどこかの詐欺師のようなセリフで答えたのは、アキだった。
「どうしたんだ?」
「いや、そろそろ歓迎会の会場に行こうと思ってな」
扉を開けると、学校指定のジャージに着替えたアキが立っていた。
「分かった。ちょっと着替えてくるわ」
「了解」
確かにそろそろ行っておいた方がいい時間になっていた。でも、俺は制服のままベッドに横になっていたので、一度ドアを閉めて着替えてから再び部屋を出た。
「悪いな、待たせた」
「いやいや、そんなに待ってないよ。それにしても……」
「ど、どうした?」
急いで準備を終わらせて外に出て謝ると、気にするなとアキが首を振った後、俺の姿を上からじっくりと観察し始めた。
物凄く居心地が悪い。
「いや、お前って意外に筋肉質なんだな」
「そうか?中学時代に結構鍛えてたからかな」
「お前案外モテると思うぜ?」
意外そうに俺を見るアキに、俺は肩をすくめると、彼はニカッと笑った。
お世辞でもなくそう言ってくれてるようで思わず照れてしまう。今までそんなことを言われたことがなかったから少し自信がついた。これが女の子だったなら尚いいんだけどね、仕方ないね。
「そうかなぁ?」
「モテ男の俺が言うんだから間違いない!!」
「そうだったっけ?」
「そこは突っ込んじゃダメなところだぞ!!」
アキは自信ありげに胸を叩くが、俺がとぼけるとプリプリと怒ったような振りをした。
「ここが食堂か」
「おお、いかにも歓迎会って感じだな」
俺達が食堂に辿り着くと、そこはまるで誕生会のように室内が飾り付けられていた。食堂は結構広く、男子寮の人数だけでは埋まらない程だ。
おそらく女子も集まって何かやる時はここを使うんだろうな。
「あらあら、いらっしゃい。あなた達は新入生の、佐倉くんと佐藤くんですね?」
「はーい、そうでーす!!」
食堂の入り口で辺りを見回して立ち往生していると、アキがクルクルと回りながら声を掛けてきた女性の前に駆け寄り、膝ついて手を取る。
「麗しいあなた様は生徒会長様ではないでしょうか?」
そしてキラキラとしたイケメンオーラを発しながら口説き始めた。残念な言動ではあるけど、ある意味その行動力は尊敬する。
「ふふふ、麗しいだなんて嬉しいですね。その通り、私はこの学校の生徒会長、そして女子寮の寮長も兼任している、北条時音と言います。寮長とは言え、ただのまとめ役みたいなもので何か権限があるわけではありませんが。以後お見知り置きを」
その女性は巻毛のセミロングヘアーをしていて、少し垂れ目でゆるふわな雰囲気を持つ可愛いお姉さんだった。ただし、背はそれほど高くはなく、いわゆるトランジスタグラマーとかってやつだ。
服はジャージではなく、制服のままだった。しかし、その制服が恐ろしいほどに似合っている。
「あなたのような美しい女性とならどこまででもお付き合い致しますとも!!」
「こちらこそよろしくお願いします」
丁寧なお辞儀に俺も頭を下げる。アキは舞台俳優よろしく、片手を胸に当て、もう片方の手を天に捧げるようなポーズをとって挨拶をしていた。
「それでどうして俺たちのことを知っていたんですか?」
俺はアキを無視して不思議に思って尋ねる。
「バッカ!!このバッカ!!お前時音さん程の人ともなれば、何でもお見通しなんだよ!!」
「いや、流石にそれはどうなんだよ……」
しかし、アキが俺の疑問を遮るように突っ込みを入れてきて俺は思わず呆れ顔になってしまった。
アキは女が絡むと、とても面倒くさいな。
「ふふふっ。なんでも、という事はありませんが、生徒会長として、また寮長として新入生、入寮生のことくらい、名前、年齢、生年月日、ご住所、性格、これまでの経歴etcを把握してますわ」
「え!?マジですか?」
生徒会長の答えに戦慄を覚える。
生徒会長だからってそこまで知ってるってもはやストーカーじゃん。
「うふふ、冗談ですよ、冗談」
俺が引いていると生徒会長が笑ってごまかす。
絶対冗談じゃない!!
この人絶対ヤバいよぉ!!
お巡りさんこいつです!!
会長には探索者適性があることはバレてるかもしれない。とにかくレベルとスキルと能力値がないのは隠しておかないと。バレるとしたらこの人が一番危険だ。
これからもっと気を引き締めよう、そう心に決めた。
「俺はこんな人ならすべてを知ってもらいたいなぁ」
一方アキは恍惚の表情を浮かべている。
「会長!!こんな所でサボってないでくださいよ!!」
何とも言えない雰囲気になったところに天の助け。
会長の後ろの方から男の声が俺の耳を打つ。
「あら、西脇君、どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃないです。まだ準備が全部終わってないんですよ?すぐに戻って手伝ってください」
「あらあら、時間切れみたいですね。席にネームプレートが置いてありますから、ご自分のプレートが置いてある席に座って待っていてくださいね。それではまた後程お会いしましょう」
アキと近い中世的な容姿を持ち、眼鏡をかけて知的な雰囲気を醸し出している青年が、俺達の前から嵐のように生徒会長を掻っ攫って行ってしまった。
なんだったんだ、一体。
この学校は思ったよりヤバい奴しかいないのかもしれない。
「なんか嵐みたいだったな?」
「うん、俺、時音さんに恋したかもしれない」
恋はいつでもハリケーンってか?
誰が上手いこと言えって言ったんだ!!
俺はこれからの高校生活が少し心配になった。
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