第016話 デビュー失敗

 滞りなく入学式が進んでいく。


 指示があった後に俺達新入生が入場し、校長や来賓達による長い式辞があり、生徒会長からの祝辞を受け、ついに新入生代表の挨拶の時間がきた。


 一体だれが挨拶するんだろうか?


「新入生代表挨拶、葛城アレクシア」


 俺が疑問に思っていると、名前が呼ばれる。


「ん」


 そう短く返事をして立ち上がったのは俺がラッキースケベに遭遇した女の子だった。


 あの子は葛城さんって言うのか。


 彼女は立ち上がり、壇上へ上る前に来賓に頭を下げた後、壇上に登ってマイクの前に立って一言。


「ん!!」


 彼女はそれだけ言うと、頭を下げて壇上から降り、自分の席に戻った。


 えぇ~!!それだけかよ!!

 いいのかそれ!?


 俺が困惑の表情を浮かべると同時に、会場全体を困惑の雰囲気が漂う。


「え、えーと……。アレクシアさんありがとうございました。続きまして……」


 誰もが困惑する中、司会は少々戸惑いながらも何事もなかったように入学式の進行する。こうして少々可笑しなことがあったものの、無事に俺達の入学式は終わりを告げた。


「よーし、お前ら自己紹介しろよ~。名前のあいうえお順で進める。まぁ今の席順だな。名前と趣味とか特技とか、好きな物辺りを言えばいいだろう。んじゃ、相内からよろしく」


 先生の指示により自己紹介が行われる。


「はい。相内要です。特技、かどうかはわかりませんが、探索者適性がありました。高校生活と並行して、ダンジョン探索をしていきたいと思います。よろしくお願いします」


 相内さんが席を立って挨拶を行った。


 結構ハキハキと喋るタイプで、言いたいことを言いそうな雰囲気の持ち主。容姿はクール系の美人というのが一番近いだろうか。


「えぇ~!?すごーい!!」「マジかよ、羨ましいな!!」などと何人かが声を上げる。


 そりゃそうだよなぁ。このクラスに四、五人くらいしかいないはずなんだから。


 しかし、俺のその予想は裏切られることとなる。


「井上玄道だ。探索者適性がある。よろしくな」


 三人目の井上君も探索者適性があるらしい。


 体が大きくいかにも格闘技をやってそうな肉体が制服越しでもわかる。見た目はかなりゴツくて仁王像みたいだ。


「葛城アレクシア。Eランク探索者。よろしく」


 お隣の葛城さんもまさかの探索者。


 それにすでにEランク!?まだ潜れるようになって数日というところのはずなのに、もう探索者のランクが上がってるっていうの!?試験は一体どうしたんだろう。めちゃくちゃ凄いな。


 俺なんかと違って物凄く強いんだろうなぁ。


 俺は静かにため息を吐いた。


「葛城さんって天才なの!?」「そういえばネットにニュースが上がっていたかも!?」などと周囲が騒ぐ。


 探索に必要な最低限の情報収集はしていたけど、探索者個人に関する情報は全く見ていない。彼女も新人としてはかなり有名なんだろうな。


「はいはーい!!俺は佐倉孝明!!好きな物は可愛い女の子!!趣味はナンパ!!そして実は探索者適性もある!!将来の夢はハーレム王になること!!よろしくお願いしまーす!!」


 そして俺の前に座っている佐倉も探索者。これでもう四人目。俺もいれれば四人だ。このクラスには一体どれだけ探索者いるんだ?それにさっき適性検査受けに行くって言ってたのは嘘だったのかよ……、全く調子の良いやつだな。


 それにしても佐倉は顔は整ってるし、髪の色も茶色に染めててカッコいい感じなのに、言動が物凄く残念だな。いわゆる残念イケメンってやつか。


 女子たちから少し軽蔑の色を含んだ視線を浴びていた、全く気にしていないようだけど。


 そして、ついに俺の番が来てしまった。


「お、俺は佐藤普人ふひと。しゅ、趣味は体を鍛えることで、しゅ。よ、よろしくお願いしましゅ……」


 か、噛んだ!?


『あはははははははっ』


 そう思った次の瞬間には教室全体に笑い声が広がった。


 な、なんでこんな大切な所で!?

 ちゃんと練習してきたのに!?

 せっかく痩せてイメチェンしたのに!?


 頭が真っ白になると同時に様々な感情が俺の中に渦巻いた。


「ぷぷぷ。自己紹介でガチガチになって噛むとか笑える」

「あははは。まさかこんなことで噛むとはなぁ。どんだけ臆病なんだよ」

「しゅだってよしゅ。男のくせにしゅはないわ」


 などと嘲笑している者たちがいた。


 終わった……。


 俺は絶望とともに席に腰を下ろして項垂れた。


「お前たち~、あんまりからかってやるなよぉ。もし自分がその立場になった時、今笑ってる奴も同じことをされるぞぉ。肝に銘じておけよぉ」


 先生がフォローしてくれるが、右から左の通り抜けていってしまった。


 その後の事はほとんど覚えていない。

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