第007話 初ドロップ

 その小石は紫色で、その辺に落ちている普通の石とは明らかに異なる色彩を放っている。


「これが魔石か……」


 なぜ分かるかと言えば、もちろんネットで事前に調べてきたものだからだ。


 モンスターは倒すと光の粒子となって死体も残さずに消える。それと同時に特定の物―アイテムと呼ばれる―を落とす。所謂ドロップという現象だけど、魔石は必ずドロップし、運が良ければそのモンスター特有のアイテムも一緒に落とすらしい。


 今回は初めてのドロップだったけど、運はなかったようだ。


 魔石は、昔は未知のエネルギーを含むだけの石だったけど、今ではエネルギー資源として世界中で活用されている。とてもクリーンに電力を生み出すことができるので需要が高く、どれだけ多く持ち帰っても組合が買い取ってくれる。


 これだけ小さい物の価値はもちろん微々たるものだけど。


 魔石は大きければ大きい程内包しているエネルギーが多くなり、Fランクのモンスターからドロップする魔石とEランクのモンスターからドロップする魔石ではそのエネルギー量の差は十倍にも及ぶ。


 当然そのエネルギーの差が価値の差であり、価格に反映されるのは言うまでもない。


 また、魔石は勿論価値があるのは当然だけど、魔石以外に落とすレアアイテムは、魔石以上に価値がある物が多い。


 例えば、ハードボアと呼ばれる猪型のモンスターからはボア肉という肉がドロップするんだけど、その肉は百グラム当たり五百円くらいで買い取ってもらえる。一度に一キロから三キロの範囲の肉を落とすらしいので、三キロともなれば、一万五千円だ。一方でハードボアはEランクのモンスターでその魔石は百円くらい。


 その価値の差、実に百五十倍。流石はレアドロップと言ったところかな。


 でも例に出した肉なんていうのは、むしろ差が少ない方だ。貴重な鉱石や宝石、武器や防具、回復アイテムともなればその値段はさらに跳ね上がり、今でもその価値は上がり続けていて天井知らず。


 特に万病を治すような薬は一瞬で大金持ちになれるほどの金額で売れる。それはさもすれば、多くの人に命を狙われる程貴重なアイテムだとも言えるんだけど。そういう物を手に入れたら、俺みたいな新人かつ後ろ盾のない探索者はすぐに組合に売却するか、どんな人間が近寄ってきても撃退できるだけの力や処世術、そして後ろ盾を得るまでひっそりと隠し持っているくらいかしか選択肢はない。


 バレた時のリスクを考えればすぐに売ってしまうのが得策だと思う。


 それほどまでにレアドロップには価値のあるアイテムが多い。


 ある程度ランクの上がった探索者でも、少し下のランクのモンスターを沢山倒してレアドロップを狙う人たちもいるくらいだ。そのせいで適正ランクと上のランクとの諍いもしょっちゅう起こるらしい。


 そういう場合は、組合直属の探索者が仲裁に入るみたい。


 お金は生活に直結するから、より多くの利益を得ようとする気持ちは分かるけどね。でも他の探索者とトラブルを起こしてまで稼ごうとは俺は思っていない。


 ちなみに組合直属の探索者は皆Bランク以上で、かなり強い人たちで構成されているので逆らう人たちはまずいない。Bランクと言えばもはや人外とも言える領域で、何十メートルもジャンプできるし、建物を破壊したりもできるほどの力を持ってる。


 そんな人たちに逆らうのはバカと、余程頭のねじがすっ飛んだ戦闘狂位なものだと思う。


「さてと……レベルが上がるまでグミックを倒すぞ!!」


 俺はしばらくへたり込んでいたけど、立ち上がって魔石を拾い巾着袋に入れた後、グミックをもっと倒すために探索を再開した。

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