第006話 初戦闘

 ダンジョンに入って三十分、ついに目的の対象を発見した。


「見つけた!!グミックだ」


 そうモンスターだ。


 そのモンスターは楕円形の球体のスライムみたいな半透明の存在。大きさは三十センチから四十センチ程度。ダンジョン内では最弱と呼ばれるモンスターだ。しかもスライムのように不定形という訳じゃなくて、どちらか言えば名前の通りグミみたいなタイプらしい。


 ラノベでよくある核とかがあるということもなく、打撃も斬撃も有効で本当に簡単に倒せる初めての戦闘にはもってこいの相手だった。


 顔のようなものがあり、そちらで世界を認識しているらしく、後ろから近寄ればなんなく倒せるとウェブに書いてあった。


「よーし、やってやるぞ!!」


 俺は小さな声で自分を奮い立たせると、そろりそろりと背後からこっそり近寄っていく。


「はぁ……はぁ……」


 極度の緊張と焦りから全身に汗をかき、息が上がり、喉が渇く。ジリッジリッと徐々に距離を詰めるにつれ、鼓動が高鳴り、バクバクと体内に響いていく。


―ガリッ


 しかし、気づかれないように近づいていたが、あまりにも周りを見る余裕がなかったため、足元にあった小石を踏んずけてしまった。


 しまった!?


 後悔時すでに遅し。


 グミックはゆっくりと体を反転させ、こちらを向いた。その顔はムンクの叫びのような表情を浮かべて、ズリッズリッとこちらへ向かってくる。


 くそ!!もうやるしかない。


 俺はリュックからバットを抜いて構えた。


―ビュンっ。


「ぐっ、は、速い!?」


 後一メートル程まで近づいた時、グミックが動く。弾丸のようにこちらに向かって飛んできた。まさかそれ程の速さがあるとも知らず、俺はグミックの体当たりを受けてしまった。


 その攻撃は思いのほか重く、同年代の男子が本気で体当たりしてくるよりも強い。


「ぐぅ!?」


 腹に鈍い痛みが走ってよろめいたけど、何とか堪えて踏ん張った。形状や質感のせいか、思いの外ダメージが少なかったおかげで少し冷静さを取り戻し、すぐさま下に落ちたグミックを蹴り飛ばす。


「ギュ!?」


 グミックはカエルが潰されたような声を出して数メートル程吹き飛び、岩肌へと当たってぽとりと地面に落ちた。


 蠢いている様子を見るとまだ生きているらしい。


 ふぅ。何度も喰らうとヤバそうだけど、気を付ければ躱せそうだし、数発くらいなら耐えられそうだ。


 俺は一呼吸おいてすぐにグミックに近づき、バットを振り下ろした。グミックに当たった瞬間、鈍い手応えが手を通じて脳まで駆け巡る。


 まるでかなり分厚くて硬いゴムタイヤでも殴ったような感覚だ。


「このぉ!!」


 俺はバシンバシンと何度も何度もグミックをバットでぶっ叩く。その間グミックは防御でもしているのか、体当たりしてくることも、何か反撃してくることも無かった。


 何回か叩くとグミックが淡い光を放つが、それにも構わず消えるまでバットで叩き続けた。


「はぁ……はぁ……」


 何度も打ち付けたので息が上がり、初めての戦闘の緊張で俺はその場にへたり込んでしまった。


「これがリアルのモンスターとの戦闘か……はぁ……はぁ……」


 緊張して思うように体が動かなくて攻撃を受けてしまったし、我を忘れて叩きすぎてオーバーキルだった。次からはもっとスマートに倒せるようにしよう……。


 それはともかくグミックを倒したけど、レベルが上がらない。


 ネット上では最初は一回グミックを倒すだけでレベルがあがるという情報がいくつも上がっていたんだけど、アナウンスが流れることも、力が沸き上がる様子もない。


「はぁ~……一匹じゃダメか……」


 残念すぎて思わずため息が出る。


 でもまだ一匹。俺の探索者生活はまだまだこれからだ!!


 気を取り直してグミックが消えた場所を確認すると、そこには小指の先くらいの小さな石が落ちていた。

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