第004話 初探索へ

 今日は四月三日。昨日から潜るつもりだったけど、家族が俺の誕生日を祝うために一緒に出かけたり、ささやかながらパーティをしたりしたため、今日に延期になった。


「体調よし、装備よし、道具よし、バッチリだな」


 装備と言ってもジャージに軽く各種プロテクターをつけたくらい。本格的な装備が必要なのはDランク以降からだと言われている。


 なぜかと問われれば、一番は金額の問題だ。鍛治のスキルを持つ人物の武具、服飾のスキルを持つ人物の製品、錬金術のスキルを持つ人物の魔道具というのは物凄く高い。


 だからFやEランク程度ではその金額を稼ぐのはかなり厳しい。少なくともDランクくらいにならないと稼ぐのがかなり辛いらしい。


「いいなぁ。七海もダンジョン行きたいなぁ」


 部屋で最終チェックをしていると、妹の七海が部屋に入ってきて、指を咥えてうらやましそうに俺を見る。


「ダメに決まってるだろ?お前はこれからようやく中学生。十六歳になるまで我慢しろ。それに探索者適性を持っているかも分からないんだからな」

「ぶぅ~」


 口を膨らませる七海が可愛い。


 俺の妹がこんなに可愛いわけがない、はずがない!!


 ダンジョンには基本的に管理施設が併設されて見張りが立っているし、入る際には探索者カードによる認証が必要になるので連れていくのは難しい。


 基本的に、と言ったのはまだ見つかっていないダンジョンもある可能性があるからだ。そういったダンジョンなら連れていくこともできるだろうけど、自分のこともままならないのに誰かを守りながらダンジョンに行くというのは難しいし、そもそも法律で禁止されている。


 マイシスターのお願いは叶えてやりたいところだけど、こればっかりは仕方がない。


「まぁ探索者適性があって十六歳になっても潜りたかったら付き合ってやるよ」

「絶対だからね!!」

「わかったわかった」


 むぅーっと俺を上目遣いで見上げる七海の頭をポンポンと軽く撫でて部屋を出る。


「それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい。気を付けるのよ」

「いってらっしゃーい」


 俺は母と妹に見送られて出発した。


 やってきたのは自転車で来れる範囲にあったFランクダンジョンだ。ランクというのは、探索者の等級を表している。下はFから上はSまで存在していて、ランクを上げるには試験を受ける必要がある。


 基本的に探索者のランクと連動していて、同じランク以下か一つ上のダンジョンまでしか探索出来ないルールだ。


 俺以外にも自転車で来る人もいるらしく、きちんと駐輪場が設置されているので、そこに自転車止めて検問所にたどり着く。


「むっ?みない顔だな?新人か?」


 探索者カードを提示して通り抜けようとすると、軍隊のような装備をした見張りの人に呼び止められた。


 面倒だけど仕方がない。


 見張りの人の話に付き合うことにする。


「そうです。今日から潜れることになったので」

「そうか。準備もちゃんとしているようだし、問題ないだろう。武器はどうする?」

「いえ、今回はこのバットで戦ってみようと思います」


 探索者が刃物や銃器などの武器を迷宮以外で携帯するには、基本的に審査と許可が必要だ。そのため、低ランクの探索者や、許可を得られない探索者が使用する武器はダンジョン検問所で管理している。例外としては、ダンジョンからモンスターが外に溢れ出す現象、スタンピードが起こっている時等だ。


 そういうこともあるので、探索者は自分が通っているダンジョンの近くに拠点を構えることが多い。ダンジョンの傍に冒険者向けのアパートもあるし、マンションが建てられることもある。


 スタンピードの時に武器がないんじゃ話にならないからな。


「まぁFランクダンジョンなら素手でも十分戦えるから問題ないだろうが、Eランク以上になったらきちんとした武器を持った方がいいぞ?」

「分かりました。ちゃんと調べてみますね。ありがとうございます」


 ネットで調べた通り、Fランクダンジョンはステータスが目覚めた探索者であれば比較的問題なく探索できるらしい。探索者になった初心者のチュートリアル用ダンジョンと言われるのも分かる。


「うむ。通ってよし。後は先にある認証ゲートに探索者カードをかざして中に入ってくれ」

「わかりました」

「それから、Fランクダンジョン内では余程のことがなければ死ぬことはないと思うが、十分気を付けるように」

「ありがとうございます。気を付けます」


 念押しで注意を受けると、俺はお辞儀をしてゲートに向かった。


「おお、これがゲートか……」


 ゲートはまるで隔壁みたいな大きな門だ。その近くに操作できそうな端末があり、どこにカードをかざすか分かりやすい造りになっていた。


 朝一かつ平日ということもあってか、今は自分以外誰もいない。いや初心者用ということもあって多分初心者以外はすぐにここ以外のダンジョン移ってしまうんだろうなぁ。


 それに今年からダンジョンに潜れるようになる人間の中でも俺はかなり早い方だろうからそれも関係していると思う。


「ここにカードをかざしてっと」

『登録情報を確認。確認しました。お通り下さい』

 

 俺は独り言をつぶやきながら探索者カードをかさすと、端末から音声が聞こえて幾重にも重なった隔壁が開く。


 俺はその大きく口を開けたゲートを潜ってダンジョンへと足を踏み入れた。

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