第002話 天国から地獄へ

「よっしゃー!!」


 俺は黒崎さんの言葉に立ちあがってガッツポーズを決めた。


 イエス!!イエス!!イエッス!!

 やっぱり俺は持ってる!!

 これで俺の高校生活もバラ色に確定だ!!

 やったぜ!!やっほぉおおおおおおおお!!

 今まで俺を下に見てたやつを見返してやる!!

 そして有名になった時後悔しろ!!

 俺を見下していたことを!!

 はぁーはっはぁあああ!!


 俺の脳内はこれからの素晴らしい人生を思い描いてスーパーハイテンション状態だ。


「クスクス……」


 そんな俺を見て黒崎さんが微笑ましいものを見るような眼で小さく笑う。


 うわぁ、俺こんな所で何やってんの!?

 浮かれすぎでしょ!!

 めちゃくちゃ恥ずかしい……。


「あ……いや……その……すみません」

「いえいえ、全然構いませんよ。同じような方は沢山見てきましたから」


 恥ずかしくなった俺は慌てて席に付いて俯くと、黒崎さんは笑みを浮かべたまま返事をした。


 ホント何やってんだろ、めちゃくちゃ恥ずかしいわ。


「ただおかしいんですよね……」

「えっと何がでしょうか?」


 黒崎さんが何かを考える仕草で呟くので、俺は恐る恐る尋ねる。


「それが私に限らず探索者適性検査を担当する者は『鑑定』というスキルをもっていて、その鑑定を使えば適性があるかどうか分かるわけなんですが、どうして適性が分かるかというと、覚醒前のステータスが見えるからなんですよね。それで見えた佐藤さんのステータスがおかしかったんですよ。なぜかレベルと能力値、そしてスキルの表記がなかったんですよ、レベルの初期値は普通一ですし、スキルも全くないって人は今までいなかったはずなんです」

「マジですか……」


 黒崎さんの言葉に俺は絶望的な気分になり、ガックリと肩を落とした。


 え、なに、レベルも能力値もスキルがないとか、これ絶対バレたらいじめられる奴じゃん。誰にも言えないじゃん。くそっ!!さっきまで天国にいるような気分だったのに、いきなり地獄に叩き落されたような気分だ……。


 今までツイていたのはただの偶然だったのか……。


 適性検査なんて止めればよかったのかなぁ。


 俺は思わず天井を見げて呆けてしまった。俺の口からは魂が抜けそうになっているのが見えているに違いない。


「あ、いえ、きっと大丈夫ですよ。ダンジョンに入ってモンスターを倒せば、レベルが表示されてスキルも獲得されますって!!」

「あははは……確かにそうですね、諦めるにはまだ早いですね」


 慌てて俺を励ます黒崎さんに、俺は視線を戻して力なく笑って答える。


 まぁ……確かに黒崎さんの言う通りだ。何かの不具合かもしれないし―そんな話は聞いたことないけど、ダンジョンに入ってモンスターを倒せばレベルが上がれば、きちん表記され、初期スキルも覚えるかもしれない。


 なんだか可能性が低そうな気もするけど、やってみる価値はある。ダンジョンの一番浅いところに出てくるモンスターなら一般人でもなんとか倒せる程度らしいし、ステータスがある分、狩るだけなら問題ないと思う。


「そ、そうですよ。まだ始まってもいないんですから元気出してください」


 黒崎さんは体の間で両こぶしを握って頑張れと応援してくれる。


 あざといけど可愛い。

 ホント美人って得だよなぁ。

 なんだか俺も元気出てきたし。


「励ましてくれてありがとうございます」


 俺は黒崎さんの気遣いに頭を下げた。


「いえいえ、気にしないでください。それでは適性がありましたので、探索者登録を行いますが、よろしいですか?」

「はい、お願いします」

「それではまたで申し訳ございませんが、こちらの用紙を記入してください。それから身分証明書と印鑑、誓約書、そして保護者の賛同書をご用意ください」

「分かりました」


 俺は気を取り直して探索者登録の手続きを行い、探索者の基本的な情報や注意事項の説明を受けて、探索者カードを受け取り晴れて探索者となった。


 しかし、実際に潜れるようになるのは十六歳になってからだ。俺の誕生日は四月二日なので入学式の前に潜ることが出来る。とにかく他の同年代よりも先に潜って、レベルとスキルを獲得するしかない。


 まだ高校デビューの道が完全に閉ざされたわけじゃない。


 適性があればダンジョンに潜ることが出来る。だからそれまでに必要なものを買いそろえて万全の状態でダンジョン探索を行おう。


 俺は覚悟を決めた。


「それではまたのお越しをお待ちしております」

「今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。お気をつけてお帰りください」


 黒崎さんにお礼を言って俺は帰路に就いた。

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