高校デビューに失敗した無能探索者は人間を極める~レベルもスキルも能力値もない俺に何故か美少女が次々と近づいてくる件~

ミポリオン

第一章 高校デビューとダンジョンリバース

第001話 運命の適性検査

 高校デビュー。


 中学までの自分から脱却してそれまでとは違う垢抜けた格好や振る舞いを行い、元々目立たなかった自分とは全く別の立ち位置を確立する行為だ。


 かくいう俺も中学までの空気のような立ち位置から抜け出して、可愛い女の子たちと青春出来るクラス、学年、ひいては学校の中でも特別な地位を築きたいと願う普通の少年である。


 俺はそのために地元の高校でなく、寮暮らしをするつもりで実家から離れた高校を受験し、見事合格することができた。ぽっちゃりだった体型を筋トレと水泳でソフトマッチョに鍛え上げ、雑誌を買ってオシャレを勉強し、服や髪型など見た目や清潔感にも気を遣うように心がけた。


 顔に関しては両親からもらったものなのでどうしようもないんだけど、少なくとも普通に見られる程度には整っていると思う。


 しかし、それだけではまぁいいとこ、クラスで少し目立つかなぁ程度くらいだと思う。そこでさらに学校でも一目置かれる立場に食い込むためにやっておきたいことがある。


 それは探索者登録。


 ある時、ダンジョンと呼ばれる迷宮が突如として世界中に現れ、ダンジョンから現れるモンスター含め新たな災害となった。しかし、人間の中にダンジョンの中に入ることで力に目覚め、モンスターと対抗できる者達が現れることによってその認識は一転した。


 ダンジョン内を探索し、持ち帰ったアイテムを研究するにつれ、ダンジョン内には様々な資源や食料、武器防具、そしてお宝が眠っていてその価値は計り知れないものと認識されるようになっていった。


 そして力に目覚め、ダンジョンに潜る力をも持つ者達をいつしか探索者と呼ぶようになった。探索者適性を持つ者は人口の二十パーセント程。それに選ばれるだけで一目置かれるようになる。


 自動販売機の釣銭に取り忘れた硬貨が入っていたことがあるし、懸賞に応募して当たったこともある。俺はツイている自信があるので今回も必ず探索者適性を手に入れられるに違いない。


 そう確信して探索者組合の事務所へとやってきていた。


「ここが探索者組合か……」


 探索者組合は国営の組織のため、見た目は完全に公的機関のような建物だ。三階建ての建物で、組合ができてからそれほど経っていないため、建物は比較的新しく、清潔感があった。


 俺は知り合いに見つからないように帽子を目深にかぶり、マスクをしてやってきている。俺が高校デビューのためにいろいろやっていることを知っている人間はそう多くないけど、念のためだ。


 俺は俯きつつ組合の自動ドアを潜った。


「いらっしゃいませ~、本日はどのようなご用件でしょうか」


 中に入ると、市役所というよりは病院のような作りの空間が広がっていた。キョロキョロしていると案内の四十代ほどの女の人が俺に話しかけてきた。


「えっと、探索者適性を知りたいんですけど……」

「なるほど、適性検査ですね。三番窓口の整理券を発行してお待ちください」

「分かりました」


 俺は女の人の指示に従って三番窓口に向かい、窓口付近にあった機械で整理券を発行し、近くの椅子へと腰を下ろす。


 窓口とは言っても個人情報の漏えい防止のため、個室形式になっていた。中は防音になっていて声も聞こえないようになっているらしい。探索者適性を持つことを知られると面倒な人たちもいるため、組合から漏れることはないようにしているとか。


 自分から宣伝する分には組合の関知するところではないので好きにやってくれという感じみたいだ。


 ただし、適性があればそのまま探索者登録に進むため、適性がない人よりもあった人が時間がかかることは避けられず、どうしても専門の人間には気づかれてしまうので、あくまでそういう体裁を保っている、というのが正しいかもしれない。


 辺りを視線だけで見回すと、俺と同年代っぽい女の子やチャラチャラしたヤンキーみたいな人、大学生くらいの人、スーツを着た社会人、三十代くらいの男、五十代くらいの老人などバラエティに富んだ人たちが、俺と同じように適性検査を待っているらしかった。


「整理券番号二三六番の方どうぞ」 


 二十分程待って三番窓口の部屋のドアが開き、ようやく俺の番号が呼ばれ、窓口へと向かった。


「そちらの椅子にどうぞ」


 中には二十代前半程の若い女性がカウンターの向かい側に座り、俺に座るように手で促す。


 うわぁ、すっごい可愛い人だなぁ。

 やっぱり受付嬢って美人が多いんだろうか。


 黒髪のロングヘアーで少し気の強そうな瞳。しかしどことなく幼げな童顔の持ち主。どこか浮世離れしていて、どうにもこんな場所で受付などしていそうにないくらい可愛いらしく、アイドルと言われてもおかしくない程の容姿をしていた。


 スーツのようなジャケットに袖を通し、その下に白のブラウスを着ているけど、サイズの合わないブラウスに無理やり詰め込んだように、服を盛り上げる二つの果実がこれでもかと主張している。


「……さ……ま……」

「お客様!?どうかされました?」

「い、いえ大丈夫です」


 少し大き目な声で我を取り戻し、まさか見惚れていましたとも言えずに慌てて取り繕って椅子に腰を下ろした。


「本日担当させていただきます。黒崎零と申します。宜しくお願いいたします」

「は、はい。よろしくお願いします」


 俺に向かって丁寧に頭を下げる彼女に俺も慌てて頭を下げる。


 こんな子供の俺にもしっかり対応するなんてすごいなぁ。

 他にも沢山似たような人を相手にしてきたんだろうけど。


「それでは今日は探索者適性の確認ということでよろしいでしょうか」

「はい。問題ありません」

「畏まりました。まずこちらの申込用紙に必要事項を記入していただけますでしょうか」

「分かりました」


 差し出された用紙を受け取り、そそくさと記入して黒崎さんに返した。


「はい、特に問題ございませんね。それでは早速適性を見させていただきます」

「は、はい。宜しくお願いします」


 用紙を受け取り、内容を確かめて問題なさそうだと頷いた黒崎さんは顔を上げて答えた。


「楽にしていてくださいね?」


―ゴクリッ


 思わず喉が鳴った。


 ここが運命の分岐点。天国と地獄。これで俺の高校生活が決まると言っても過言じゃない。どうか適性がありますように。


 俺は心の中で神に縋るように思いで祈りを捧げた。


「『鑑定』」


 黒崎さんが言葉を放つと黒崎さんの瞳が青く輝き、自分の奥底まで覗かれているような寒気が全身を覆う。


 なんだこれ!?


 思わず身がすくんでしまうけど、十秒程俺を見つめていた黒崎さんは、一度目を瞑り、はぁーっと深く呼吸を吐いた。


 そして少し首を傾け、微笑んでこう言った。


「佐藤様、おめでとうございます。適性がありますよ」


 と。


 ただ、その後に地獄が待ち受ける事を俺は知らなかった。





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いつもお読みいただきありがとうございます。

カドブコンテスト用の新作を公開しております。


現人神(かみ)様のその日暮らし〜異世界から帰ってきたら、二十年経っていて全て失ったけど、神社を貰って悠々自適な現人神様生活を送ることになりました〜

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どうぞよろしくお願いいたします。

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