83.鬼と遭遇


 俺、レオン=フォン=ゲータ=ニィガ。


 親父から領地、カーター領を任されることになった。


 この領地出身の騎士アーシリアから、領地にほど近い【奈落の森】に鬼が住むといううわさを耳にする。


 鬼は不思議な術を使うと言うことで、ちょいと勉強させてもらうべく、森へとやってきた次第。


「で、叡智神ミネルヴァさんよ、ここが鬼のすみかでいい……んだよな?」


【是】


 俺の頭の中で女性の声が響く。

 彼女は叡智神ミネルヴァ

 女神カーラーンさんから与えられしスキルだ。


「にしては……なんかぼろくね?」


 鬼のすみかへは、そりゃあもう、ボロボロだったね。


 寒村というか、廃村レベル。

 木造の平屋があちこちに並ぶ。


 壁もやねもぼろっぼろだ。


叡智神ミネルヴァ、鬼の気配は?」


【解。5つです】


 この村に5人だけってことは……ないよな。


「! 殿下!」


 そば付きの騎士であるアーシリアが、さっそく気づいたようだ。


「大丈夫、わかってるよ。さっきから……刺さるような殺気を感じてたからよ」


【ぶふぅううう! さっきから殺気って!】


 うちの天の声さん、もといミネルヴァさんは、こういう小学生レベルのダジャレに弱いのである。


「おいでよ、話し合うぜ?」


 森の奥から姿を現したのは……。


 5人の、鬼族だった。


 浅黒い肌の赤鬼が3人。

 背の高い男が1人、小さ女。兄姉か?


 あとは、

 青鬼が1人。

 白髪の鬼1人。

 紫髪の鬼1人。


 この三人は男だった。

 ま、実働部隊ってとこだろう。


「貴様、何のようだ?」


 浅黒い肌で、背の高い男鬼が、ずいっと近づいてくる。


 腰には粗末な刀が一振り。

 他の連中も武器を手にしている。


「まーまー、そうカリカリしないでくれ。俺はおまえらと話し合いがしたいだけの一般人だ」


「嘘をつく出ないわ!」


 赤鬼の妹らしき女が、牙をむいて叫ぶ。


「その怪しげな妖気! 人外のものであろう!」


「よーきって。そんなの出てる?」


【否。妹赤鬼が言うところの妖気とは魔力を指しているもの】


 あ、なるほど……。


「尋常ならざる妖気……魔王とやらか、貴様は」


「いや」【是】


 別に魔王を自称したつもはないんだがな。


「俺はレオン。あんたは? 見たところリーダーみたいだけど」


「敵に名乗る名など、ない」


 兄赤鬼が武器を抜いて構える。


 残りの4人もまた、めいめいが武器を手に向かおうとする。


「ええー……なんでそうなるんだ? 俺は単に鬼術きじゅつとやらに興味があって話がしたいだけ、友好的でありたいだけなのになぁ」


 はぁ……と溜息をつく。


 その瞬間、ざっ……! と鬼達が俺から距離を取る。



「なんという凄まじい妖気!」

「やっぱり魔王じゃない! あたしたち鬼族を狩りに来たのね!?」


 赤鬼兄姉から完璧に警戒されてしまった。


 え、なんで?


【解。強大な魔法力を持つ存在は、その一挙手一投足に魔力が知らないうちに乗ります。溜息だけでも強力な魔法と同じなのです】


 ええー……マジ?


「殿下! お下がりを、どうやら向こうはやるつもりです」


 アーシリアも剣を抜こうとして……すかっ。


「なっ!? 剣が!?」


「我らの刀もないぞ!?」「どうなってるの!?」


 鬼の武器、そしてアーシリアの武器は、俺の手の中にある。


「まーま、落ち着きなさいって」


「「「なにぃいいいいいいい!?」」」


 俺は足下に剣や刀を放る。


「き、貴様いったい何をした!?」


 兄赤鬼が尋ねてくる。


「ん? みんなの前にいって、武器を回収しただけだぞ、普通に。なぁ、普通だよな?」


【否。マスターは剣聖としての身体能力があるため、普通の動きとは人の目で追えないレベルでの早さということになります】


 あれぇ……? そうなの?


「ま、まあとりあえず……話し、しよっか?」


「「「できるかぁ! 化けものめぇええええええ!」」」


 鬼どころか、アーシリアからも怒られてしまった。

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