82.人食いの森だって超余裕


 俺はカーター領のなかにある、奈落の森と呼ばれる場所へとやってきた。


「鬼かぁ! たのしみぃ!」


 オーガをぶっ飛ばしたあと、俺は奥へ奥へと進んでいく。


 ただしひとりでさっさとは行かない。


 今日はお目付役としてアーシリアがついてきているからな。


「ここはどんな森なんだ?」


 現地出身であるアーシリアに問いかける。


「この森自体がダンジョンになってます。強力な魔物も……」


「ぎしゃぁあああああああ!」ぼーん!「ぐわぁあああああああ!」


 熊のモンスターが出てきた瞬間びびって死んだ。


「……魔物も」


「魔物も、なんだって?」


「いえ……殿下にとっては弱いかも知れませんね……」


 なぜだかぐったりした表情のアーシリア。


「どうした、まだ出発したばかりなのに、なんで疲れてるんだ?」


「【誰のせいだ、誰のっ】」


 叡智神ミネルヴァのナビゲートの元、さくさくと奥へ進んでいく。


「最も危険すべきなのは、この森が持つ自然とラップです。別名、人食いの森と呼ばれております。中に入った人間を殺して養分にしようと、あの手この手で、侵入者を殺そうとしてくるんですよ」


「ほーう、たとえばあそことか?」


 俺は森の一角を指さす。


 はて、とアーシリアが首をかしげる。


「何もないですよ?」


「いや、あるよ。なぁ、ミネルヴァ?」


【解。無味無臭の致死毒が、霧状になって散布されてます】


 ミネルヴァの声はアーシリアに聞こえるよう調節してある。


「なっ!? ち、致死性の毒!? ……よくみたら、魔物が倒れてる……!」


 モンスターが白目むいて、周囲で倒れている。


「な、なんでわかったんです?」


「え、死の気配って肌で感じられるだろ?」


 剣の達人ともなれば、試合をした際に、相手がどの程度の力量なのか肌でわかる。


 同じ理屈で、俺は敵の気配を肌で感じて、どの程度やばいのかを直感でき理解で居るのだ。


【告。マスターの肌感覚は危機感知スキルより精度が上です】


「神から与えられるスキルよりも上なんて……すごすぎるけど、どうしますこれ?」


「んなもん簡単でしょ。【大天使息吹ホーリー・ブレス】」


 最強の治癒・浄化魔法を使えば、周囲の毒なんてイチコロですわ。


「さて、奥へ行くぞー」


 俺はどんどんと進んでいく。


「ぐぎゃ!」「ぎゃぎゃ!」「ぎゃぎー!」


 猿のモンスターが俺に向かって襲ってくる。

 だが同様に特に何もせず倒れる……かとおもったのだが。


「ぎゃー!」「ぎゃぎゃぎゃー!」「ぎぎー!」


 倒れることなく襲いかかってきた。


「せいっ!」


 アーシリアが一瞬で三体の猿モンスターを屠る。


「おー、やるぅ」

「……殿下に言われると、複雑です」


「え、なんで?」

【解。剣の達人であるマスターからすればアーシリアの剣術なんてミジンコのようなもの。皮肉に聞こえるのでしょう】


 いやそんな意図はないんだけどなぁ。


「しかし……変だな。このモンスター、たいして強そうじゃないのに、俺と出会っても死ななかったぞ?」


【発言が完全に大魔王で草】

「まあ本当に大魔王ですから、殿下は」


 俺たちは倒れ伏す猿モンスターを観察する。

 すると……。


「頭に花みたいなのがついてますね?」


 3匹とも頭頂部から、赤い花が生えていた。

「そう言うモンスターなのか?」


【否。緑猿グリーン・エイプの頭頂部に花がはえてるような、身体的特徴はそなえておりません】


 ってことは別の何か要因があるってことか。

「ミネルヴァ、解析を」


【是。解析を開始……マスター!】


 俺はバックステップで避ける。


 ぶんっ!


「で、殿下!? すみません! 体が勝手に……」


 アーシリアが剣をもって、俺に斬りかかってきたのだ。


 その顔は驚いている。

 つまり自分の意思での攻撃じゃないってことだ。


【解析完了。アラウネラの魔法花粉によるものだと推察されます】


「アラウネラ?」


【是。人の形をした植物モンスターです。強さはさほどですが、その花粉を浴びた生物は、やつの操り人形となります】


 奥の方から、ミネルヴァが解説したとおりの、植物型モンスターが出現する。


 周囲には緑猿、そして、剣を持ったアーシリア。


「殿下! 申し訳ございません……」


 アラウネラがニタァ……と笑う。


 人質だと思ってるんだろう。


「わたしのことはいいです……殿下! 攻撃を!」


「いや、そんなことはできないよ」


 俺は両手を挙げて、アラウネラに近づく。


【告。マスター。危険です。近づけばアラウネラの操り人形にされます】


 わかってるって。


「殿下……わたしのために……」


 俺がアラウネラの射程圏内に入る。


 ばふっ……! と敵が俺に向かって花粉を吹きかけてきた。


 ぴょこっ、と頭頂部に何かが生えたきがする。


【告。マスターは攻撃を受けて、アラウネラの支配下になりました。頭から可愛いお花が生えております】


「ぎしゃ! しゃしゃしゃー!」


 アラウネラが勝ち誇ったように笑う。


「殿下……くっ! このっ! う、ごけっ! 殿下をお守りしないと……!」


 アーシリアが意に反して、俺に近づいてくる。


 持っていた剣を、俺の首筋に向かって、振り下ろす。


「避けて、殿下ぁああああああああああ!」


 パシッ。


「え、なんで?」


「「ええええええええええええ!?」」


 俺はアーシリアの剣を、指で挟んでとめる。

「な、なんで動けるんですか!?」


「魔物の毒は俺には効かないんだよなぁ」


 幼い頃から魔物の研究と称して、魔物の肉を食ってきたからな。


 アラウネラの魔法花粉の成分は、ミネルヴァに解析させてあった。


 含まれている毒に対する抗体を俺はすでに持っている。


「魔物食ってたんですか!?」

「おう。意外とおいしいぞ」


【ドン引されてて草】


 さて、俺はアラウネラに近づく。


 びくっ、とやつがおびえている。


「ん? どうした?」


【解。支配下におけないマスターに恐怖してるんでしょう】


「で、殿下……効かないとわかってるのなら、なぜ花粉をあびたのです?」


「え、だって浴びたらどんなふうになるのか、この体で確かめたいじゃん?」


「危ないからおやめなさいってば!」

【さすがマッドマジシャン……】


 アラウネラに近づいて、俺はニコッと笑う。

「大丈夫、おまえは殺さないよ♪」


 ほっ、とアラウネラが安堵の吐息をつく。


 俺は手刀で、とんっ、とアラウネラの首をたたく。


 やつは固くなると、そのまま倒れた。


「手刀で眠らせたのですか……?」


「いや、首トンして運動神経系だけを切断したの」


【残酷すぎて草】


 倒れているアラウネラに、俺は笑いかける。

「魔法の花粉なんてめずらしいからさ! 生きたまま保存して、研究のためにずっと作り続けてくれよな! 大丈夫、運動神経系は切断されてて、この先一生自分の意思じゃうごけないけど、魔力供給だけはしてやるからよ!」


「…………」


 がくんっ、とアラウネラが気絶する。


 ありゃ、首トンで気絶させてないんだが。


「むしろそっちの方が良かったも知れませんね……」


【激しく同意】


 俺は大天使息吹を使って、アーシリアの洗脳を解く。


「いやぁ、人食いのダンジョンって言うからさぁ、どんなもんかと思ったけど、宝箱だな……!」


 毒の霧もサンプリングできたし、アラウネラっていう希少な実験体もゲットできたし!


「閉鎖された環境下だからかな、独自進化してる物のなんと多いこと! これは採取しがいがあるなぁ……! そう思わない?」


 アーシリアがぐったりと頭を垂れて、


「ええ、そうですね……」


 と賛同。

 どう思う、叡智神ミネルヴァ


【せやなー】


「あれ、なんか二人ともリアクション薄くない!? なんで!? こんな楽しい場所来てるのに!」


「ここを楽しいって思ってるので、殿下くらいですよ……」


 あれぇ~? そうなの~?


【是。マスターは本当に変態さんですね】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★お願いがあります】


カクヨムコン挑戦中です。


よろしければフォローや星をいただけますと嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る